こんにちは。バシェ協会・会長、そしてパーカッショニストの永田砂知子です。この春から東京芸大・古川研究室と東京芸大ファクトリーセンター共同でバシェ音響彫刻修復プロジェクトが始まりますが、バシェと言ってもご存じない方が多いのでは、と思います。バシェは弟フランソワと兄ベルナールと兄弟で永年音響の研究をし、音と彫刻が一体になった音響彫刻と言われる作品をたくさん作りました。


その名前はサウンドアートという音とアートが一体になった分野では轟いていましたので、もちろん私もかねてよりお名前は知っていました。

 

 

2009年にパリで私が鉄のスリットドラムhamonで演奏会をするときに、偶然、ピアノ型バシェ「ピアノ・バシェ・マルボス」と共演することになり、その作品を創ったマルボスさんから兄のベルナール・バシェを紹介していただくことになりました。バシェはとっくに逝去している歴史上の方だと思っていたので、実際にお会いできる、ということに驚きました。

 

2009年私のhamonとマルボスさんの「ピアノ・バシェ・マルボス」と共演した時の演奏中の写真
 Photo by Boizel Roger

 

 

アトリエに訪問しましたら、様々なバシェ音響彫刻が所狭しと並んでいて、自由に触っていいよ、と言っていただき音を鳴らすことができました。B・バシェはその時すでに92歳という高齢でありながら、率先して音響彫刻を演奏してくださり、またコーンと呼ばれる拡声部分に声をあてて振動させたり、振動療法をしてあげようと言って、私の体に音を浴びさせる体験など、音響彫刻のさまざまな使い方も見せてくださいました。音が素晴らしいだけでなく大家なのに尊大でない人柄にも感動し、素晴らしい方にお会いできた喜びを持って帰国しました。

 

アトリエでのベルナール・バシェ

 

 

翌年、2010年、鉄鋼館が大阪万博「EXPO‘70パビリオン」として40年振りにオープンしたので、さっそくバシェのことを報告するために訪問してみました。

 

2010年EXPO‘70パビリオンオープンにて、池田フォーンの前で。

 

 

そこで驚いたことは、なんとバシェのほかの作品の部材が倉庫に残っている、ということでした。万博というのは終われば何でも捨ててしまうのが普通ですが、奇跡的に部材が倉庫にしまわれていたのです。


それを万博で来日した弟のフランソワ・バシェに伝えましたら、大変喜んでくださいました。しかし、そこから数年間、予算がないということもあり、修復という言葉はまったく出てこなかったのです。

 


2013年に万博当時バシェの助手を務めた川上格知さんが現れ、修復をしたい、と申し出たことから急速に修復プロジェクトは始動し始めました。川上さんのことを聞いて、バルセロナからバシェ研究の第一人者、マルティ・ルイツさんが飛んできてくれ、2013年11月にに川上さんの名前がついた「川上フォーン」クリスタルタイプの「高木フォーン」、2基が修復されました。

 

11月15日京都芸術センターにて。川上フォーンの前で マルティ・ルイツと私・永田砂知子

 

 

はずみがついた修復プロジェクトは、京都市立芸大の柿沼敏江教授を中心に2015年に京都市立芸大・彫刻科の松井紫郎教授とマルティ・ルイツの共同で「渡辺フォーン」「桂フォーン」が修復されました。そして京都芸術センターでバシェ4基を使って武満徹の「四季」が演奏されました。その響きはとても豊かで、どこまでも宇宙のようにひろがる音を感じながら、深い感動でとても充実した幸せな気持ちになったことを覚えています。ここで演奏活動を終えてもいい、と思うくらいの深い感動がありました。

 

バシェ兄弟はなぜこのようなものを作ったのでしょう。第二次大戦中レジスタンス運動をしファシズムと闘っていたバシェ兄弟は戦争が終わると、何か美しいこと、人々が楽しめること、幸せになることをしたいと望みました。1952年からこつこつと音の研究をパリのアトリエで始めたそうです。美術館では「作品に触れないでください」というのが通例ですが、バシェの作品は触れてもらうことによって成立する作品です。そうそれは自己表現のための一方的な作品ではないのです。


素晴らしい哲学が内包されているバシェの音響彫刻、その作品から人々は何を感じ何を学ぶでしょう。バシェ音響彫刻に触れることによって、与えられる既成の「音楽」ではなく、自らが音の探検をし、感性と想像力を開花させること、それこそがバシェ兄弟が望んだことだと思います。

 

 

また、バシェは、同じデザイン、同じフォームのものは世界に2つと作りません。1970年大阪万博で展示された作品たちは、そういう意味で、世界的な視野で見ても日本だけの特別なコレクションとして、大変貴重な財産といえると思います。

 

 

いよいよ東京芸大で修復プロジェクトが始まります。

 

最初の修復は、劣悪な環境のなか行われましたが、設備と技術、人材の揃った東京芸大ではきっと理想的な修復がおこなわれることでしょう。修復プロジェクトを進行させるため、ぜひ皆様の協力をお願いしたいと思います。

 

           2017/4/20 バシェ協会・会長 パーカッショニスト 永田砂知子