三月十九日、晴れ。倉敷駅着。

降りたホームは春の陽気に満ち溢れ、喪服には若干暑いくらいだった。

改札口で同じく喪服姿のTさん、Kさんと待ち合わせ。

二人とも、危口さんの活動などを通して知り合った仲である。

タクシーで行こうと乗り場へ向かう。

既に何人か並んでいた。

観光シーズンだからなのか、待てども待てども、車は一向に来る気配がない。

 

三十分は待っただろうか。

ようやく乗れたタクシーの車中、

「午前中から駅と斎場を行ったり来たりですよ。どなたか名士でも亡くなられたんですか?」

と運転手さんが訊いてきた。

何気ない質問に、私は言葉に詰まった。

 

「違うんです、彼はこれからだったんです!」と叫びたくなったが、どこか違和感があった。

「これからの人なんです!」とも叫びそうになったが、ちょっと違うなと思いとどまる。

 

時制がわからない。

 

事実として、この運転手さんは危口さんのことを知らない。

言ってしまえば、ただそれだけのことだった。

(でも、せめて、作品のことは知っててもらいたかったな)

と心の中で思ってしまった自分は、いくらか傲慢かもしれない。

しかし、今でもその気持ちは変わらずに強く残っている。

 

 

危口さんの作品や、彼が残したものがまた世に出る機会があるならば、それは開かれた未来の話になる。

これから起こりえる無限の連鎖反応のためにも、私は悪魔のしるしの活動を、今後も全力で支援したい。

 

荒木悠(美術家)

 

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