
支援総額
目標金額 4,000,000円
- 支援者
- 290人
- 募集終了日
- 2022年10月26日
児玉竜一先生より『鏡獅子』の解説を頂きました
お早うございます。松竹大谷図書館の武藤です。
今回デジタル化を行う小津安二郎の歌舞伎記録映画『鏡獅子』とは、一体どのような映画なのでしょう。
六代目尾上菊五郎が踊り、小津安二郎監督が撮影したこの貴重な映画の意義や、当時の劇界、映画界での立ち位置についてなど、早稲田大学教授で歌舞伎研究家の児玉竜一先生にご解説をいただきました。
「まず、この映画を見ないことには話は始まらない!」
ぜひご覧ください!
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六代目尾上菊五郎の舞台をおさめた映画「鏡獅子」は、数ある歌舞伎映画の中でも、特筆すべき位置を占めている。
同時録音によるトーキー方式の歌舞伎映画としては、史上初のものであるということ。国際文化振興会という、日本文化を海外に向けて発信すべく設立された機関が、まず手始めに取り組んだのが、六代目菊五郎の技芸の記録であったということ。昭和10年前後という、満年齢にして50歳前後の、心技体ともに最高潮にあった六代目菊五郎の技芸を、当時最高の技術によって記録したものであること。監督が小津安二郎であり、小津安二郎にとっても初めて取り組んだトーキー作品であり、生涯唯一のドキュメンタリー作品であったこと。この映画の歴史的な意義は、いくらでも挙げることができる。六代目菊五郎の楽屋での姿を撮したフィルムも、今のところ、この他には知られていない。
昭和10年代、歌舞伎界を牽引する立場であった六代目菊五郎の、代表作と目された舞踊「春興鏡獅子」は、同時代の多くの芸術家が、おのれの表現の対象として目指した高峰であった。平櫛田中が生涯の代表作となる木彫の「鏡獅子」制作に乗り出したのも、木村伊兵衛が舞台写真の領域に乗り出して六代目菊五郎の舞台を撮り始めたのも、この時期である。
この当時、自家用の映写機を手にするというのは、限られた富裕層の特権であったが、新しもの好きの歌舞伎俳優たちの中には、いち早く自家用の撮影機を入手した者もあった。必然、彼らは身の回りの風物を撮影するとともに、舞台に向けてフィルムを廻し始めた。市村吉五郎も、林又一郎も、五代目中村福助も、三代目市川段四郎も、当時の舞台を無声のまま撮影した。最近発掘された林又一郎旧蔵のフィルムの中には、大阪歌舞伎座で撮影された六代目菊五郎の「鏡獅子」の映像が残されていた。国立映画アーカイブに所蔵される、「映画は前進する」という記録映画にも、六代目菊五郎の「鏡獅子」の一部が残されている。
こうした六代目菊五郎の「鏡獅子」をめぐる記録群の、いわば中核にあるのが、小津安二郎監督によるトーキー「鏡獅子」である。
昭和10年6月25日。歌舞伎座の舞台終演後に、夜を徹する形で、この映画は撮影された。小津安二郎の日記によれば、撮影終了は26日の午前10時。小津は深川に帰って熟睡したというが、六代目菊五郎は次の日も、歌舞伎座で全五役をつとめている。

昭和10年6月興行歌舞伎座筋書(演目一覧部分と菊五郎の役割(五役)部分)
この映画に収録された「鏡獅子」は、海外に向けて日本文化を紹介するという目的から、通常の興行での上演形態とは、多くの異なる点がある。まず、大幅に詞章がカットされている。「川崎音頭口々に」から、「時しも今は牡丹の花の」まで飛んでしまうので、川崎音頭、三下りの塗骨扇の踊り、飛騨の踊りなどが、ことごとく削られている。長唄囃子連中も、舞台映像の冒頭では舞台に並んでいるが、六代目菊五郎が踊りはじめると、その姿は映像の中には見えない。撮影の時には、歌舞伎座の東側(上手寄り)の桟敷席に陣取って演奏したと伝えられる。後見も見えない。海外にはない習慣だからで、このあたり、歌舞伎独自の風習を見せるよりは、海外の目から見ておかしくないように、という配慮がうかがえる。そうした意味で、六代目菊五郎の「鏡獅子」の全貌を示すものとは言い難いが、それでもやはり、まず、これを見ないことには話は始まらない。
当時待望された六代目菊五郎の記録映画であるが、この映画はそののち必ずしも幸福な航路をたどらなかった。6月29日に帝国ホテル演芸場で行われた報道向けの試写会で、映像と音がずれるので上映をやり直すなどの不手際が続き、新聞各紙から不平不満の声があがり、その尻馬に乗るような形での不評が世上を覆ってしまったからである。このため、輸出を留保するという報道もあり、六代目菊五郎も「向こう(海外)へ出さなけりゃ、あの映画を此方で引き取って、皆の見ている前で焼いちまうよ」(「都新聞」8月30日)などという談話を出すにまで至る。
とはいえ、撮影当初、そして関係者試写の時点まで、六代目がことのほかご機嫌だったという点については、多くの証言が残っている。6月28日に丸の内松竹での関係者試写ののち、六代目は小津監督はじめ関係者を自邸に招いて、上機嫌で歓待した。小津の日記には、「六代菊五」「柳澤健」「長谷川時雨」とサインが並んでいる。実はもう一人サインをした人物がいるが、フィルムアート社から刊行された『全日記 小津安二郎』では判読不能となっている。他ならぬ松竹大谷図書館の閲覧室で、日記の編者である田中眞澄氏に遭遇した私は、初対面の氏に思い切って、「あの6月28日の判読不明の署名は、誰である可能性があるんでしょう」と尋ねたことがある。田中眞澄氏は明快に、「ああ、あれはたぶん城戸四郎で間違いないと思いますね」と即答された。国際文化振興会の柳澤健、顧問格の作家長谷川時雨、松竹の城戸四郎、これらの署名が小津の日記に並んでいるのは、「今夜のように主人の機嫌がいい時ってありませんわ」と六代目菊五郎夫人がささやいたという柳澤健の証言を裏付けるように思われる。
残された映像は、当時のマスコミの不平不満がもっともなのか、それともそうでないのか。どのように評価すべきなのか。それもやはり、まず、見ないことには話は始まらない。
国際文化振興会が撮影したフィルムは、現在、国立映画アーカイブに所蔵されている。海外向けに、英語字幕がついているものもある。松竹大谷図書館が所蔵しているのは、昭和24年に六代目菊五郎が歿したのち、その生涯をふりかえり、顕彰して位置づける冒頭ナレーション(文章は東京大学の守随憲治による)を付したものである。
この記録映画は、かつては名作歌舞伎映画上映会などの、ドル箱であった。そののち、小津安二郎のDVDボックスの付録として、世に出た。だが、これだけを見るために、小津の全作品を買うのも、歌舞伎好きにはちょっとしんどい。CSの伝統文化放送(現在は衛星劇場に吸収された形)で放映されたこともあった。NHKの衛星放送でも、二回だけ放送されたことがある。いずれにしても、誰でも、いつでも、見ることができるという環境は、今に至るまで整えられていない。もったいない。今回、4Kデジタル修復が可能となれば、より鮮明な形で、この貴重な記録が後世に伝えられることになる。そしてそれは、六代目菊五郎という、日本近代の歴史の中で最も重要な歌舞伎役者の一人を、よりよく知るための手がかりとなるだろう。
児玉竜一(早稲田大学教授)
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リターン
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