卵巣がん：診断と治療を支えたい！AIを用いた新規予測システムの開発

解説＃4　“がんの性格”を知るためには？

②　生物学的解析で何が分かるの？

 

Aさん「クラウドファウンディングもいよいよ【残り8日】ですね。」

Dr. K 「本当に多くのご支援を頂き嬉しく思っています。必ずや研究成果に結びつけていきたいと考えています。私たちの研究について、これまで３回に渡って解説をご紹介してきました。研究を知っていただける期間も残りわずかとなり、少しでも研究内容を理解していただけると嬉しいです。」

Sさん 「今回もAIに教える”がんの性格”についてですね。前回は遺伝子的解析について説明がありましたが、もうひとつの解析とはどのようなものなのでしょうか？」

Dr. Ki 「前回に引き続き、私から解説したいと思います。２つめの情報として、生物学的解析の結果をAIに学習させる予定です。」

 

Sさん 「生物学的解析とは、何ですか？」

Dr. Ki 「今回の解析で考えているのは、一言でいうと、“がん組織に含まれる（がん細胞以外の）様々な細胞やタンパク質の情報” を組み込もう、ということです。」

Sさん 「がん組織なのに、がん細胞ではない細胞がいる、ということですか？」

Dr. Ki 「そうなんです。実は、がん組織の中には、がんになってしまった細胞（がん細胞）以外に、正常な組織の中にも存在するような、様々な細胞が含まれています。例えば、血管の細胞や、血液から運ばれてくる免疫系の細胞、それから組織の構造を支える働きを持っている間葉系と呼ばれる細胞などです。さらに言うと、細胞以外にも組織の足場と言われている細胞外マトリックスとうタンパク質もたくさん存在しています。」

 

Sさん 「そのような細胞は、通常の組織にいる細胞とは何か違うのでしょうか？」

Dr. Ki 「DNAの変化はあまり見られませんが、がん細胞の近くにいることで、がんが育ちやすい環境を作り出す能力を獲得していると言われています。例えば、がん細胞に成長を促すような信号（シグナル）を出すことがあります。また、抗がん剤の効果を低減させたり、がん細胞に届きにくくすることもあります。つまり、“がんにとって都合の良い” 環境を作ってしまっているのですね。これを、専門的には “がん微小環境” と呼んでいます。」

Sさん 「それはとても怖いですね！なぜ、身体はがんにとって都合の良い環境を作ってしまうのでしょうか？」

Dr. Ki 「もちろん、最初からそのような環境が整っているわけではありません。がんは最初にできてから、大きくなるまでにとても長い時間をかけて成長していきます。その過程の中で、がん細胞の周辺にある細胞と色々なやり取りを続け、徐々に周りの細胞の性質も変化していくわけです。」

 

Sさん 「そのような変化は、皆に起こってしまうものなのでしょうか？」

Dr. Ki 「大なり小なり、患者さんの身体の中で、変化は起こっていると考えられます。しかし、どのような変化が起こるかは、やはり患者さん一人ひとりで違いがあります。例えば、先程がん微小環境に免疫系の細胞がいるとお話しましたが、どの免疫系の細胞がいて、どのような反応をするかは、患者さんによって異なります。最近がん免疫療法の研究が進み、素晴らしい効果がある薬も開発されていますが、この患者さん毎の違いによって、薬の効き方にも影響があると考えられます。」

Sさん 「がんの性質や、薬の効果は、がん細胞だけでは決まらないということですね。」

Dr. Ki 「はい。周辺の細胞の状態も、“がんの性格” を決める要因になっています。そこで、私たちは、がん組織に存在している細胞や、タンパク質などを組織染色という技術をつかって可視化し、その情報をAIに学習させようと考えています。」

 

Sさん 「それが生物学的解析ということですね。その情報を入れることによってどのような効果が見込めるのでしょうか？」

Dr. Ki 「今回は、組織の一部をそのまま使って、立体的にがん組織に存在している細胞などの情報を集める予定です。そのため、どのような性質をもつ周辺細胞や細胞外マトリクスがどのくらい集まっているのか？がん細胞との位置関係はどうなっているのか？、患者さん毎のがん組織のでき方を知ることができます。この情報があると、遺伝子解析で明らかにしたがん細胞の遺伝子発現の特徴が、がん組織においてどのような影響を与えているのかを推定することが可能になります。そして、そのがん組織が医療画像ではどのように見えるのかを調べることで、最終的には、医療画像から、患者さん個別の状態を関連しているがん細胞や周辺組織の特徴と紐付けて、“がんの性格” として取り出すことができると期待しています。」

 

Dr. Ki 「今回のプロジェクトの第二目標は、この生物学的特徴を解析することです。この情報は、がん組織の状態をより詳細に知るためには必要不可欠です。私たちが最終目標としている、患者さんの状態を説明してくれるAI医療支援システムをつくるには、非常に大事な部分になると考えています。是非皆様から応援を賜りますよう、引き続きお願い申し上げます。」

 

広島大学統合生命科学研究科

高橋　治子

菊池　　裕

広島大学病院　産科婦人科

古宇　家正