天理大学医療学部看護学科教授　乾富士男先生より応援メッセージをいただきました

　双生児研究法は，古くはフランシス・ガルトンによってはじめられました。ガルトン，ピアソン，フィッシャーという名前を聞くと，われわれ研究者ならば現在使っている統計学の基礎を固めた人物であることがすぐにわかります。しかし同時に，優生学を提唱した人物でもあります。優生学は歴史に暗い影を落とすことになり，わが国でも間違った政策につながりました。そのためか，ガルトンがはじめた双生児研究法（を利用した行動遺伝学）という学問は，わが国ではほとんど普及してきませんでした。今日では科学者の間でもあまり知られていない学問分野になってしまいました。優生学が間違っていた点は，人の表現型（行動や才能，健康状態など）を優劣で考えようとした点にあると思います。当時の研究者もおそらく研究の動機は，より健康になりたいという，われわれと同じものであったと思います。しかし，健康や才能というものは優劣ではなく，多様性にこそ意味があることがまだわかってはいませんでした。

　現在においては，遺伝に優劣はなく，多様性こそが環境に適応し，生き残る鍵であることがわかっています。そこで重要になってくるのが，遺伝と環境の組み合わせです。例えば，太っている方が健康か，やせている方が健康かという議論は，優劣の議論と同様にそれだけでは成り立ちません。ある環境で，ある遺伝的な背景の人が，太っている方がいいか，やせている方がいいかという話になります。このような，遺伝と環境を組み合わせたり，分離したりしながら検討することを，人を対象に研究できる唯一の方法が，双生児研究法です。

今後ますます発展するであろう，分子遺伝学の研究成果を正しく読み解くためにこそ，双生児研究法による研究成果を積み上げていくことが，ますます重要になると考えています。

　双生児研究のわが国における中心拠点である大阪大学ツインリサーチセンターの維持，発展はわが国の健康に関する研究にとって極めて重要であります。