【ネコ科繁殖研究プロジェクト活動報告】 ご支援ありがとうございました!
岐阜大学クラウドファンディング 活動報告書
「ネコ科動物の未来を拓く!動物園との繁殖研究・妊娠検査で保全に繋げる」
皆様,こんにちは。岐阜大学応用生物科学部 動物保全繁殖学研究室の楠田です。クラウドファンディングの実施時は「動物繁殖学研究室」でしたが,2025年4月に改称し,「動物保全繁殖学研究室」として出発することにしました。
皆様からのご支援のおかげで,標記のプロジェクトを継続して実施することができましたので,終了報告をさせていただきます。改めて,多くの方のご支援と応援をいただけたことを心より御礼申し上げます。
活動内容
●ネコ科動物の繁殖生理状態の分析と評価
クラウドファンディング終了後から現在まで(2024年3月~2025年8月)に,多くの動物園や日本動物園水族館協会と連携して,次のネコ科動物で,①発情把握,②排卵確認,③妊娠判定を主軸とした糞中の性ホルモン代謝物の分析を実施しました。
スマトラトラ,アムールトラ,ジャガー,アムールヒョウ,
ユキヒョウ,ウンピョウ,ピューマ,チーター,マヌルネコ,スナネコ,
スナドリネコ,アムールヤマネコ,ツシマヤマネコなど
また,表1の動物については,妊娠判定にも成功し,その後,出産に至っています。一部は以前,プロジェクトページ内の「活動報告」欄でも紹介させていただきました。
表1 妊娠判定に関わることができたネコ科動物(出産のあった動物,公表されている事例)

皆様からの支援金は,これらの分析に必要な試薬消耗品の購入や,分析に必要な抗体等の試薬作製,分析補助スタッフの雇用などに充てることができ,分析を継続して実施することができました。
繁殖生理に関する研究成果は,複数のネコ科動物でプロジェクトメンバーがそれぞれ,第30回日本野生動物医学会大会や第7回野生動物保全繁殖研究会大会で発表しました。

マヌルネコ“アズ”の子(2024年4月19日誕生)(写真提供:神戸どうぶつ王国)

ツシマヤマネコ“レイラ”の子3頭(2024年5月9日誕生)と“りん”の子2頭(同年5月24日誕生)
(写真提供:名古屋市東山動物園)
ちなみに,ネコ科動物以外でも多くの動物の妊娠判定に関わることができました。共同研究として動物園担当者が判定した場合や,妊娠判定にチャレンジしたものの明確に判断できなかった場合も含みます。
表2 ネコ科動物以外での最近の妊娠判定例(公表されている事例)

糞は,多くの動物種で動物園では採取しやすい分析材料ですが(動物園で尿の定期採取が可能な動物は非常に少ない),実はすべての動物種で,体内の性ホルモンが糞中へ排泄されるとは限りません。尿へ排泄される動物種やホルモンの種類があります。体内の性ホルモンの排泄経路に動物種差があります(この情報が非常に限られています)。また,糞中や尿中の性ホルモンの「代謝物」の種類が動物種によってさまざまです。そのため,糞中の分析が使えない動物種やホルモンの種類があるという難しさがあります。
●妊娠検査薬の作製にむけた糞中ホルモンの簡易抽出法の確立と試作品の検討
通常の分析方法では,糞の前処理,ホルモンの抽出,ホルモンの定量,濃度計算といういくつかの段階があり,最短・最速でも数日かかります。今後も従来法での正確な分析は,継続して実施する必要がありますが,一方で,簡易的な結果(従来法より精度は劣る)であっても,現場で迅速に評価できるようにすることは重要な視点です。
排卵の判断のため,プロジェステロンというホルモンを対象として,主に下記4点について,省略や短縮を行っても測定可能かを,数種のネコ科動物の糞を使って検討しました。概ね方向性を定めることができ,詳細なデータについては,今後,学会等で発表することを考えています。
① 糞の乾燥の省略
② 乾燥糞の均質化の省略
③ 容易に入手できる抽出溶剤(溶剤濃度の検討を含む)でのホルモンの抽出可否
④ 抽出時間の短縮
⑤ ネコ科の動物種ごとのホルモン濃度レベルの違いの調査
妊娠指標物質としては,糞中プロスタグランジンF2α代謝物を対象にしました。その濃度の大小を判断するための簡易検査紙(人用の妊娠検査薬は使えず,指標物質も異なります)を試作することができました。試作品を使った検討には,従来法で抽出した正式な抽出液を用いました。抽出液の濃度の検討,検査薬の中の試薬濃度の検討なども進めています。糞中ホルモン代謝物の簡易検査紙を使った反応可否の試験を進めることができました。実用化という意味での様々な細部の調整課題は残っていますので,検討を継続していきます。

糞中プロスタグランジンF2α代謝物の検査紙の試作品を使ったツシマヤマネコ糞からの妊娠検査の試行
目標額を超えた支援金につきましては,少しずつ使わせていただいています。動物園との保全繁殖研究を今後も安定して継続していくため,経常的にかかる研究費や検査費,分析補助スタッフの人件費等に使わせていただきます。さらに,動物保全繁殖学研究室の今後の発展的活動の資金として大切に使わせていただいています。動物園主催の普及啓発イベントへの参加を継続すると共に,研究室としてもイベントを企画し開催していきます。
今回の支援者様の複数から,またクラファンをやってほしい,といった嬉しいお声もいただいています。また,クラファン終了後も継続して,岐阜大学(当研究室)へご寄付をいただいている方もいらっしゃいます。ありがとうございます!
私たちが現在研究中の動物はネコ科だけでなく,動物園で飼育されているあらゆる動物や絶滅危惧種が対象です。例えば,アジアゾウ,アフリカゾウ,マルミミゾウ,シロサイ,クロサイ,インドサイ,グレビーシマウマ,キリン,シロオリックス,コビトカバ,ホッキョクグマ,ジャイアントパンダ,レッサーパンダ,ユーラシアカワウソ,ラッコ,ニシゴリラ,ニホンライチョウ,ヨウム,ハシビロコウなど。地元地域のニホンイシガメの保全活動や外来種防除にも尽力しています。
さらに,動物遺体や派生物を標本として教育用に残し,動物園学教育や保全教育に生かし,また普及啓発にも地道に取り組んでいます。動物保全繁殖学研究室では,さまざまな活動を展開しています。
最近では,京都市動物園の元飼育員,タカギノネさんが,すてきなイラストと文章で児童向けの絵本「どうぶつのアカチャンがうまれるまで―求愛・交尾・出産・子育て」を出版されました(2024年12月)。この本の監修を担当させていただきました。この絵本は,「動物繁殖学」の入門書ともいえるものですので,ぜひ皆様にも見ていただきたい内容です。出版社(緑書房)のサイトで見本ページを見ることができます。Amazonのページでも見ることができます。
今年は,次のイベントに参加(または企画)します。こちらにもぜひご参加ください。
●岐阜県博物館・岐阜大学連携特別企画展「鳥の卵のひみつ―Bird Eggs―」(9月13日~11月30日@岐阜県博物館)
●ライチョウ保全シンポジウム(10月5日,@岐阜大学)
●ヤマネコ祭2025~島にすむ生きものたち(10月18,19日,@井の頭自然文化園)
●第11回都立動物園アフリカフェア~アフリカとアフリカの野生動物を知る~(11月15,16日,@多摩動物公園)
さいごに,今後再びクラファンに挑戦することになったときには,再度ご支援・応援をいただけるでしょうか?そのときにはまたよろしくお願いいたします!!
私たちの活動は,動物保全繁殖学研究室のX(動物繁殖研,@zooreplab)やホームページで紹介していますので,ぜひご覧ください。Xのフォローもぜひよろしくお願いします。
全国の動物園と共に,動物保全繁殖学研究室のことも,引き続きどうぞよろしくお願いいたします。



















