教員の心の健康と成長を目指すセミナーを続け教育界を変革したい

ご存じの方も多いとは思いますが、私は今、クラウドファンディングに挑戦しています。まだ3週間目の新参者ですが、この自分では全く知らなかった世界に触れてみて少しだけわかったことがあります。

クラウドファンディングを始めるにあたって最初に言われたのが、支援者を集めることができるのは、挑戦者の人的ネットワークに尽きる…、ということでした。「人的ネットワーク」と聞いて、私は改めて自身と繋がっている人々の顔を思い浮かべました。それまでは暢気に教員生活を送ってきただけの、この平凡な男にどれだけの人的ネットワークがあるんだ？…、といういささか自身への懐疑も湧いてきましたが、それもそのはずです。私は、今まで人との繋がりには無頓着でしたから、ネットワークを拡げようと思って人と付き合ってきたわけではありません。教員をしていたんだからそれこそ卒業生やらその保護者やら…、膨大な数の人的ネットワークがあるのでしょ…、と思われるかもしれませんが、実はそれも限定的です。

高校生と3年間仕事として付き合ってから、彼らが卒業する時に私は必ずこう言います。「むやみに高校へは遊びに来ちゃいけないよ。卒業した学校へただのノスタルジーから遊びに来るだけの卒業生を、少なくともボクは『面白い！』とは思わないからね。10年でも20年でもいい。人生がホントに充実していて、それでその充実をボクに楽しく語ってくれるなら、ボクは喜んでキミたちとお酒でも飲もうと思う…」と。

つまり私は、こと卒業生との関係性では完全な「自分本位」を決めていたのであり、自分が面白いと思わない限り、彼らとは連絡をとらないし、また無理をしてまでも会うことはなかったのです。それでも、私から見ればとても面白い生き方をしていて、その彼の生き方に興味をもちながら定期的に会っていたところの卒業生も、学年に2～3人はいました。つまり、私にとっての彼らは是々非々の存在でして、面白ければ会い、面白くなければ会わない…、そういうものでした。ただ彼らが「困っている」時は、その限りではありません。困っていて、それで敢えて私を頼ってくれている場合は、それはもうどうあっても彼らの力になってあげたい…、その程度の正義感ならば持ち合わせているのです。

だから、それをもって私の人的ネットワークが脆弱だ…、とは言い切れませんが、教員という職業からすれば、私の連絡帳に載っている連絡先は、せいぜい数十名…、それってとっても少ない方です。毎年の同窓会や部活のOB会なんかに、毎回顔を出して卒業生との親交を深めている教員が大半な世界にあって、私のスタンスは…、たぶん特異な部類でしょう。それに私の人的ネットワークが拡がっていない決定的な理由があります。

43歳の時、私は「うつ」にかかりました。突然のことで何がなんだかわからないまま、私は1年間の休職を余儀なくされたのです。そしてその時以来、私はまず「人との関係の見直し」を断行しました。その時まで、私はきっと自分に無理をしてまでも「人のために頑張る自分」を演出していたことに気づいたからです。と、いうか、そういう自身の癖をクリニックの先生に指摘されて、私は大いに納得したのです。だから、もう「人のため…」だからとカッコをつけた付き合いは止めよう…、今までの付き合い方は、結局は私の自己満足、「おためごかし」だったんだ…、と割り切って生きることにしました。

そしてそれから10年間、私はたぶん、かなり限定された友人との付き合いの中でだけ生きてきました。ハッキリ言って、他人の存在がうっとうしかった…、それよりも自分の世界で内省する…、そんな生活を快く受け入れていたのです。そんな内向きな生活の中で、私が唯一没頭することができたもの…、それが執筆活動だったんです。何かを文章にすることに生きがいをみつけ、それを世の中に発信することの快感を初めて私は味わうことができました。そして出版物も2冊を数えるようになりました。ただそれとて、私の自己満足…、きっと誰かに「よく頑張ったね」と承認してもらいたかった…、つまりは広義に世の中に認めてもらいたい…、ボクはここにいるよ、という必死の自己アピールではなかったのか…、今はそう思っています。

そんな私ですから、人的ネットワークなんて言われても全く自信がないし、そのネットワークの大小によって今回のクラウドファンディングの成果が問われるとなると、これはもう「無理だな…」と思わざるを得なかったというのが正直なところです。

ところが、ところがですよ…、挑戦してみると思いがけない出来事が続いたのです。私からの久々の発信に「井上が何かを始めたぞ…」「井上が動き始めたぞ…」「井上先生が、ヘンなことやってるらしい…」…、そんな声が、たぶん私の知人の中で拡がったのでしょう。「ナニしてるの？」「もっと教えて！」「久しぶり！」「復活したんだね…」という反応をたくさんいただきました。

今、考えるに、これまでの私の生き方にもそれなりの意味があり、そして意義があったのだということが改めてわかります。私の特異な生き方、人との関わり方は、結局は私の連絡帳の人数を劇的に増やしてはこなかった…、けれどもその限られた人的ネットワークが、実はとても強固な繋がりによって成り立っている…、そんな現実に私は密かに胸を撫で下ろし、そして少しだけほくそ笑んでいるのです。

クラウドファンディングは、まだ道半ばです。それでも予想を超えた反響がありました。理由はまだハキッリとはわかりませんが、嬉しくてワクワクする自分がいます。やり方によってはいくらでも支援の輪が拡がるのでしょう。しかし私はそういった儲け主義にも繋がりかねない「なりふり構わぬ」ネットワーク利用をしようとは思いません。「まるで新興宗教の勧誘じゃない？」とする邪推を抱かれる、その少し手前で私は私なりの方法…、そう愚直を貫いていきます。

今後、この挑戦がどうなっていくのか…、私にもわかりません。だだ、私の（密かに誇るところの）人的ネットワークもすでに限界に達してきたようです。いったいこれから、目標金額まであと30％の支援をどのように獲得したらいいのでしょう…？　少し遠いところから見てみると…、案外と面白いですよ！