教員の心の健康と成長を目指すセミナーを続け教育界を変革したい

どちらかといえば「自分本位」な生き方を貫いている私とて、この社会の一員としての分をわきまえて生きていると思っています。「袖振り合うも多生の縁」などと言いますように、この人生、どこかで誰かとの少なからぬ「縁（えにし）」によって成り立っているわけでして、逆にその「縁」がなければ、私たちの人生そのものが存在し得ないし、仮に存在していたとしても、その実相はまったく空虚なものとなってしまうのであろう…、ということは、今ではよくわかります。なにせ60歳のジジィですからね、その程度の世間の機微というものは感じるわけです。

クラウドファンディングというものの存在を最初に教えてくれた知人（卒業生）が、私の疑問「世間にはそんなに他人に支援をしようと思ってくれる人がいるの？」について、こう返しました。「先生の生き方（人生）に興味がある人が何人いるか？ってことですよ」…。なるほど…、ということは、今回のクラウドファンディングへの挑戦に賛同してくれている人々というのは、私の生き方（人生）の一部が世間にリリースされた時、それに少なからず触発されたところの人々、つまり心を揺さぶられたか、ザワつかされたか…、そんな変化をもたらした人々の集合体なんだな…、ということがわかります。図らずも、きっと私は（小さな）一石を世間に投じたのであり、その波紋が誰かの心にまで届いたのですね。そう考えると私はとても世間に対して恐縮します。と同時に、そんな私の生き方（人生）に興味を抱いてくれている人々の人生の「生き方」と「捉え方」に感動すら覚えます。

だってそうでしょ…。

3000円だろうが10000円だろうが金額の多寡ではなく、自分とは違う他人の人生に興味をもちそれを支援するっていう…、その行為自体がカッコイイじゃないですか。支援されている側の人間が言うのは実におかしな話ですが、3000円と言えば一回の豪華な食事代にも匹敵します。10000円あれば大切な彼女とのデート費用にもなります。そんな価値のある「お金」を「井上のために支出する」…、そんなことがあるわけ…、あるんですね、現実には。私にはそんな世間のダイナミズムがとても頼もしく愉快です。この国の、少なくとも私の周囲にある世間にはとてつもなく大きな可能性を感じます。

この国の経済はこれからきっと縮小に転じていくことでしょう。人口減とそれに伴って生じる生産人口の減少は「かつての日本」ほどこの国を豊かにはしてくれません。欲しいものもガマンしなければならない時代が、きっとすぐ近くにまで来ていますね。それでも私はこの国の今後の繁栄が見えます。安倍ちゃんが言うところの「美しい国」かどうかは知りませんが、「明るく心豊かな国」にはなっているんじゃないかなって感じるのです。リベラル保守を自認する私の見立てが間違っていなかったなら、これからの日本は経済大国の地位は他国に譲って、精神的かつ文化的な大国を目指すべきです。

他人の人生に興味がもてる社会、そしてその人生に誰でもがコミットすることができる社会…、つまりは他人の人生の成功や失敗に無関心ではいられない社会…、遠い昔にそんな「包摂の社会」が日本にも存在していました。「私はね、本当は女学校に行きたかったんだけどね、親に反対されたし、なにしろ戦争でそれどころじゃなかったからね、だからせめてアンタの娘にはね、高校にまでは行ってもらいたいんだよ…」と、自身には子どもがいなかった私の伯母が、私の母に語っていたのを思い出します。そして伯母は、母にいくらかのまとまったお金を渡して、それを原資に私の姉は高校そして短大へと進学したのでした。

助け合う…、簡単なことのようですが、これにはとても難しいカラクリが必要です。助け合いの中に金銭的な要素があってもなくても、「助けられた側」には「助けた側」への「恩」が宿ります。そして大抵の場合には、その「恩」にいずれは報いようと努力しますね。その結果、汗水垂らしながら努力して成功した場合、「助けられた側」は初めて「助けた側」に対する「恩返し」が成就する…のではありません。「助けた側」は、助けてあげたと思われる当の本人が「汗水垂らして努力して…」…、もうこの段階で「恩返し」は成立しているのです。だから「助け合いの精神」は、決して結果を期待しての相互行為ではなく、「助けられた側」が「助けた側」の期待にそうように、そのように人生の目標を定めた瞬間に成立するのです。よって「助けた側」の心は、「助けられた側」がそのような人生を始めた途端に、もう充足しているんですね。むしろ精神的に「助けられた」のは、助けられていたはずの御仁の奮闘努力を間近で見ていて心を充足させてもらったところの「助けた側」だったりするんです。相互扶助の真の精神というのはそういうものなんです。

ここに「包摂社会」の基本があります。社会学者の宮台真司氏が好んで使う「包摂社会」ですが、氏と同世代の私には、かろうじて肌感覚と匂いで「包摂」する「社会」の温度と空気感が刻まれています。そしてこれはセンチメンタリズムではありません。「包摂する社会」をつくりそれを受容するような教育と環境を用意するのが、私たち世代の責任でもあります。誤解を恐れずに言えば、ただのセンチメンタリズムでかつての「包摂社会」を懐かしんでいるのは、たぶん団塊の世代まででしょう。その１０年下の私たちには、少なくともそんな無責任な態度はとれません（と、ここで私は団塊の世代を敵にまわしましたが、それは今に始まったことではありませんので…どうぞご容赦を…）ね。

クラウドファンディングの精神は、まさに「包摂社会」の入り口に相応しいものになり得る…、そう私は理解しました。よって世にあるクラウドファンディング運営会社に言いたいのです。

決して「集金マシーンに堕落するな！」「拝金主義を牽引するな！」「志を高くもて！」と。