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2021年02月15日 11:30

抜粋。その1。『キャップ爺さんによる賃金不払い』

 細長いトラックは二トンロングと云う。キャップ爺さんがそう言っていた。
その荷台にダンボールと古新聞を丁寧に隙間なく積む。ヒモで束ねているダン    ボールは少ない。たいていはバラバラ。その方が花南には都合が良かった。ヒ
モで束ねてあると重かったり大き過ぎたりで運べない時が出てくる。その時は
爺さんが舌打ちして荷台からゆっくり降りてくる。
 花南は沢山積むにはきれいに隙間なく積むのだと知った。
 巷のアパートには『〇月〇日に回収』とチラシを入れてある。入居者たちは
廊下や玄関にダンボールや新聞袋に入れて古新聞を出してくれる。トラックの
荷台では爺さんがダンボールを折りたたむ。初めの内は横に並べる。増えてく
ると縦に並べる。古新聞は荷台の後ろ。「ダンボールよりも古新聞の方が高く
買い取ってくれる」と爺さん。「しかし新聞を取る家庭が激減して特にアパー
トの入居者は新聞を取らないのが大半」とグチをこぼす。そう云えば我が家も
新聞を取っていない。古新聞は重かった。
 用意されたお握りを食べる頃にはトラックの荷台に隙間が無くなる。「これ
からが勝負処」と爺さん。大型のアパートを回る。ダンボールが山積みされた
処を知っている。幾ら丁寧に折りたたんで積んでも一四時頃にはもう積めない。すると爺さんはコンパネと呼ぶ大きな板を横のアオリに立てる。立てるとまだまだ積める。一五時にはトラックがダンボールと古新聞で山盛りに。
「これで一万七千円くらいだ」
 花南は捨てられるダンボールと古新聞がお金になると知った。それもケッコ
ウな金額。「そこからトラックの借り賃とガソリン代が頭から差し引かれる。
だいたい三千円。残りが手取り」と教えてくれた。
 色んな仕事があるんだ。これが花南の感想。
 積めなくなるとチラシ配り。これも花南の役割。車から飛び降りて小走りに
アパートの玄関を開け郵便受けにチラシを投函。爺さんは住宅地図を見ながら
「最近はチラシ配布禁止のアパートが増えていて面倒だ」と愚痴り、配布する 
アパートのリストをチェック。順番にトラックを横づけする。
 軍手だと上手くチラシを取り出せない。素手だと紙で指先を切ってしまいそ
う。二日目から花南はイボ付き軍手に切り替えた。イボ付だとチラシを苦労せ
ずに捲れた。そしてチラシの一〇枚程度を半分に折った。こうするとチラシに
腰ができ投函が簡単。これらが花南の発見。それを見ていた爺さんは「花南は
頭が良いし要領も良い」。用意された三〇〇枚のチラシは訳なく配布できた。
 買取りの事務所の構内には計量機があった。
 矢印に導かれてトラックごと計量機に乗る。その時の重さが記録される。合
図を待ってトラックをダンボール置き場に移してダンボールを荷台から降ろす。降ろすと云うよりもバンバン放り投げる。花南も爺さんにならって荷台から捨てた。投げ終わるのを待ちかねるようにしてフォークリフトが登場。一面に散らかったダンボールを瞬く間にかき集め、スノコの形をしたライトボードの上に綺麗に積み上げた。重機は本当に働く車なんだ。花南は感心。ダンボールを捨て終えるとまた計量機に乗った。今度は古新聞。フォークリフトがライトボードを挟み、トラックの荷台に置いた。そこに古新聞を積む。積みきれなくなるとフォークリフトがバックしてライトボードを降ろし、新しいのを荷台にのせる。荷台が空になるとトラックはもう一度計量機に乗る。
 その度に花南は爺さんにせかされてトラックの助手席に座った。  
 雨が降ると古紙回収はお休み。ダンボールと古新聞が雨水を含み過剰に重く
なるからだそうだ。その間もトラックのレンタル料金の二五〇〇円は売り上げ
から差し引かれる。「俺たちを殺すには雨の三日も降ればいい」と爺さん。
 花南は汚れてもいい格好でトラックに乗った。爺さんから「汚れる仕事だ」
とのアドバイスを守った。帽子もトレーナーもGパンもスニーカーも使わなく
なったお古。大正解だった。それでも仕事が終わると髪の毛と顔と手足の汚れ
が気になった。ホコリが酷かった。シャンプーするとよ~く分かった。
 花南は幾ら汚れても一人前に働けたのが嬉しかった。充実感もあった。
 それは初めてから一〇日目までだった。一〇日目まではトラックから降りる
時に二千円を渡された。十一日目には「少し待ってくれないか。婆さんの体調
が回復しなくて入院しそうなんだ」。花南は応じた。十一日目から昼食のお握
りがなかった。爺さんが気の毒に思った。それでも十四日目と十七日目に支払
いを求めた。二度とも「もう少し待ってくれ。必ず払うから」だった。
 二十一日目に雨が降った。お休み。花南は火曜日が安売りのスーパーに入っ
た。そこに婆さんがいた。惣菜コーナーのバックヤードで何やら作っている。
至って元気そう。花南はジィと見つめた。目が合った。婆さんはあわててその
場から離れて消えた。
 花南は断りなしに古紙回収を辞めた。爺さんが一〇日分を払う気があるなら
二万円を持ってくる。持って来なければ払う気がないのだ。花南はこれ以上、
催促する気になれなかった。とにかく爺ジイの顔を見たくなかった。
 本当にキャップ爺さんは油断できない。警戒を怠ってはイケナイ。
 これが花南の教訓になった。
 見つめていたのはキャップ爺ジイかも知れない。
 嫌がらせして二万円を諦めさせたいのだ。

 

 花南の携帯にメールの着信音。
 札幌弁護士会の無料法律相談の予約確認だった。
 花南は子どもだと相手にされないと思い、歳を偽って、携帯から『ひまわり
相談ネット』に申し込んだ。その返信。明後日の十一時から。図書館のパソコ
ンで札幌弁護士会の地図を眼にやきつけた。そんなに遠くない。でも歩いては
行けない。真冬だから市電がベスト。偽ったことで叱られるのだろか。その時
はありのままを伝えてゴメンナサイって言うしかない。でもそれで終わったら
困る。何としてでもわたしの相談を聞いてもらわなくては…‼…
「遠野花南さん。相談室二番にお入りください」
 呼ばれた。
 花南は身体がこわばってゆくのを感じた。こんな緊張は初めて。
…弁護士とはどんな人なのだろう。きっと怖い人なんだ…                                 
 こわごわとドアを開いた。机の前に椅子がひとつ置かれていた。弁護士らし
き中年の男性が机の向こうに座っていた。
「どうぞお座り下さい」
 花南は深々とお辞儀して椅子に座った。
 座った途端に男性は書類から目を離しギョロリと花南を見据えた。目玉が大
きい。緊張している花南の身体がビクンと波打った。恐い目。こんな目で見ら
れたこと無し。身体は益々硬くなった。
…やっぱり叱られる…
「おや。予約の年齢と随分違う。これを説明して下さい」
「はい。子どもだと受け付けてくれないと思って母の歳を書きました。ゴメン
ナサイ。嘘をつきました。嘘ついてもわたしの話を聞いてもらえますか…」
「事情がありそうだね。先ずは自己紹介してもらえますか。話しはそれから」
 花南は「母と弟と三人暮らし。生活保護を受けています。わたしは一四歳。
中学には入学時から行っていません。年齢以外に嘘はありません」と力を振り
絞って言った。その間射抜くような視線を浴び続けた。
「一四歳の少女の法律相談は初めて。私は矢野修と言います。弁護士です」
 矢野修弁護士は名刺を花南に差し出した。
「さて相談とは何でしょう」
「はい。どうして中学生は働けないのでしょうか。それを教えて欲しくって来
ました。どうしてなんでしょう…」
「君は働いてお母さんを楽にしたいと思っているんだね」
「はい。でも働けないんです」
「労働基準法って知っているかい」
「聞いたことはあります。でもどんな法律なのか分かりません」
「この法律には『満十五歳に達していたとしても三月三十一日以前には雇って
はいけない』と書かれているんだ。雇った者を使用者と呼ぶ。使用者は雇うと
罰せられる。今日の君のように歳を偽って働いた者も罰せられる。法律の趣旨
は十五歳未満は学業優先。だから中学までは義務教育と定められている。三月
三十一日との期限は中学の卒業式を意識している。どの中学も卒業式は三月三
十一日以前におこなわれる」
「そうですか。やっぱり働けないんだ」
 花南は「古紙回収のお手伝いで二〇日間働いた」と言い「これは法律に違反
していますか」と尋ねた。
「厳密に言うと違反。でも今日のように歳を誤魔化していなければ君は咎めを
受けない。君が十五歳未満で中学を卒業していないと知りつつ手伝わせた雇い
主は咎められる。幾らもらっていたの…」
「二千円です。一日六時間くらいでお握り付。でも一〇日分はもらっていない。なんだかんだと言ってくれないんです」
「二千円とは随分と安い。最賃にも違反している」
 矢野修弁護士は一枚の白紙を花南の前に置いた。                                 
「ここに古紙回収業の雇い主の名前と住所を書いて下さい。それともらってい
ない一〇日分とは何時から何時までも」
「はい。書きます。でも書いた後にわたしや母さんが恐い目にあわないのでし
ょうか。恐い目にあうのだったら書けません」
「大丈夫。約束します。心配しなくても良いから」
 矢野弁護士が初めて微笑んだ。
 優しそうな目。
 花南はその目で身体のこわばりが解けた。
 矢野弁護士は花南が書いた内容に目を通しつつ言った。
「遠野花南さん。君のこれからに労働基準法はとても大切になると思う。よ~
く読み、理解するように。私は世界に誇れる法律と思っている。今の君は制限
されているが、この法律は日本人では無く、対象となる者を『労働者』と規定
している。雇用された者は外国人であっても『労働者』」
「はい。ネットで調べて読みます」
「相談はこれで終わりですか」
「はい。ありがとうございます」
「あのね。困ったことがあったら名刺のメルアドに連絡してね」
「えっ。イイんですか…」
「かまわないから」
 花南はまた矢野弁護士に深々とお辞儀して相談室を出た。
 息を吐いて思い切り吸った。緊張した。叱られなかった。
 矢野先生はキムタクと同じように司法試験に合格したんだ。『大検』からの
合格なんだろうか。札幌弁護士会のネットには所属弁護士一覧が載っていた。
あとで調べてみよう。勇気を振り絞って来て良かった。今は無理でもの四月一
日から堂々と働ける。それが分かっただけでも良かった。
 

 二日後、花南が図書館の一Fロビーで昼食のサンドウイッチを食べていると
携帯にメールの着信音。ショートメールだった。
『矢野です。至急会いたい用件があり連絡。何処で会えますか』
…驚いた。先生が会いたい用件とは。悪いことはしていない。叱られることも
やっていないはず。何だろう。断るわけにはいかない…
 花南は『中央図書館の一Fロビーで待ってます』と返信。
 返信から一五分で矢野修先生が現れた。
 目が合った。恐くない。穏やかな表情。
 矢野修先生は微笑んで「やあ~」と右手を挙げ近づいてきた。
「君は何時も図書館に来ているのかい」
「はい。お弁当を持って一〇時前には着きます」
「そうなんだ。学校の代わりに図書館に通っているのかい」
「はい。図書館には何でも揃っているから。新聞もパソコンも教科書も。そし
て冷暖房完備。十四時前には家にもどります。Eテレの高校講座があるので」
「図書館とはナイスだね。ところで要件とはこれなんだ。これを渡したくて急                                 
いで来たんだ」
 矢野先生はオブジェ仕立ての木製のベンチに座ると、直立不動の花南に座る
ように促し、茶色の封筒をカバンから取り出した。
「何でしょう。開けてもいいですか」
「どうぞ」
 二万円が入っていた。
「これをわたしに…」
「そうだよ。古紙回収の爺さんから取ってきた。君のお手伝いの未払い分」
「そうかぁ。わたしがいくら催促しても払おうとしなかったのに…。もう諦め
ていた。こんなことに慣れているし…。どうして払う気になったんだろう…」
 先生はニコニコしている。絵文字のニコニコマークと同じだった。
「そんなに難しいことではない。お手伝いと称して十五歳未満の女の子を働か
せた労働基準法違反。おまけに最低賃金法にも反している。私に労働基準監督
署に訴えられるか、ここで未払いの二万円を支払うのか、今決めて下さいと言
ったらブツブツ。訳の分からないことを言いつつもアッサリと払った」
「訳の分からないことって…」
「弁護士が出てくるなんて。あいつに弁護士の知り合いがいるとは思わなんだ。悪い夢を見ているみたいだ。こんな感じだよ」
「口惜しかったんだ」
「そうみたいだ。あの爺さんはタチが悪い。初めから君に手伝わせて何処かで
不払いを企んでいたのがよ~く分かった」
「天誅だね」
「そうだ。よくそんな言葉を知っているね」
「テレビの水戸黄門によく出てくるから。先生ってすごいんだ。正義の味方み
たい。嬉しい。でも。わたし。先生に何もお返しができない」
「そんなことを望んでいないよ」
「…でも…」
「私はね。君の応援のつもり。子どもには毎日を何の心配もせずに楽しく元気
に過ごす権利がある。大人には子どもの権利を護る責任があるんだ。子どもの
権利を侵害する大人は許せない」
 涙が溢れて来た。諦めていた二万円。思いもかけなかった。嬉し過ぎる。大
人にこんな人がいるなんて。封筒を握り締めた。流れてゆく涙が嫌なことを消
してゆく。思い切り泣いた。声を上げずに泣いた。声を出すと先生に迷惑をか
ける。周りが変に思う。声を出すまいとお腹に力を入れると息が苦しい。苦し
いと涙が余計に流れ出てしまった。
 先生はジッと座っている。横で見守ってくれている。
「こんな時は思い切り泣いてもいいんだ」
 花南は初めて母以外の大人に守られていると実感した。
 先生はあっち側の人なのに、こっち側も見てる。こっち側を気にかけている。子どもの権利と大人の責任は初めて。本当なのだろうか。大人も色々だ。                                 
「先生。本当にありがとう。生まれてきてこんなに嬉しかったのは初めて」
 先生がハンカチを取り出し渡してくれた。
 しゃくり上げた花南はハンカチで涙を拭った。


                                   
 

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やきもき。抜粋。その2。『侮れないブルトン婆さん』
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