このクラウドファンディングは達成しませんでした。支援予約はすべてキャンセルとなります。銀行振込みにより支援を行った方には、当社より返金が行われます。

小説好きのあなたに未発表の作品を届けたい。

小説好きのあなたに未発表の作品を届けたい。
このクラウドファンディングは達成しませんでした。支援予約はすべてキャンセルとなります。銀行振込みにより支援を行った方には、当社より返金が行われます。

支援総額

0

目標金額 1,100,000円

支援者
0人
募集終了日
2021年5月10日

    https://readyfor.jp/projects/56075?sns_share_token=
    専用URLを使うと、あなたのシェアによってこのプロジェクトに何人訪れているかを確認できます
  • Facebook
  • X
  • LINE
  • note
2021年02月22日 07:36

抜粋。その8。『特別な眼への対抗。それは登校拒否』

 花南は小六の修学旅行の時に特別な目を投げかけられた。
「あんた。お小遣いはいくらら持ってきたの」と安達享子が聞いてきた。特別
仲が良い子ではなかった。席が隣だったので親しくしていた。
「五千円」
「やっぱり。みんな。一万円だよ。セイカツホゴならしょうがないよね」
 花南の背中に衝撃が走った。                                
    ビクンの余韻が背中に残っている。
 どうして知っているのだろう。知っているのは美子と大輔だけ。二人は言っ
たりはしない。誰にも知られていないと今の今まで思っていた。一人が知ると
みんなが知る。それが女の子だ。家に帰りたい。けれど一泊二日。ここは洞爺
湖。山を越えてJRの洞爺駅まで歩く。ヒッチハイクできれば直ぐに駅に着く。五千円を持っている。列車で帰れる。でも突然帰ったら迷惑をかけてしまう。母さんが悲しむ。明日の夕方まで我慢。我慢。これは多分、試練なんだ。
 お土産を何ひとつ買わなかった。お土産屋でお土産を買わない花南にクラス
メイトの視線が集まった。次の日バスがサッポロに入った。学校まであとわず
か。学校にはクラスメイトの母さんたちが迎えに群がっているに違いない。
    健太がお土産を期待して来ているかも。健太のお土産くらいは買った方が良
かったかも知れない。でも五千円を一円たりとも使いたくなかった。母さんが
働いた五千円。それをつまらない耳かきとか、フラッグとか、タオルとか、孫
の手に使いたくない。お土産を買うのは義務ではない。買おうが買うまいが勝
手。健太はお土産よりもガチャガチャを三回も奮発すれば喜んでくれる。
 花南はバスの窓辺に頬杖をついて少しずつ記憶のある景色に変わってゆくの
を眺めていた。もうすぐ夕方。藻岩山の南斜面に親子の鹿がいた。子どもは母                                
親にジャレている。甘えている。母親が子どもを置いて走り出した。子どもは
離されまいと追う。それでもどんどん離されて行く。母親が止まり振り返った。子どもが追いつくと母親はまた走り出した。
…オッパイが欲しかったらここまでおいで…と言っているように見えた。
 信号が変わった。
 あの小鹿もそう遠くないうちに乳離れしてゆく。冬を越した来年には母親を
追い越して行ける丈夫な脚を持つ。冬に敗けるな。頑張れ小鹿。
 学校に着いた。健太は来ていなかった。良かった。クラスメイトは修学旅行
を終えた達成感を迎えの母に伝えていた。花南は冴えない表情。それを健太に
見られたくなかった。健太が見ると何かあったと気づく。気づかせるのも、そ
れを払拭しようと話すのもわずらわしかった。
 家に着くと使わなかった五千円を母に差し出した。
 母は何も言わなかった。それを見ていた健太はお土産を催促しなかった。


 翌日学校は修学旅行の代休。美子が午前中に家に来た。
「どうしたの。血相変えて」
「腹立って。腹立って。許せなくってさ」
「美子がそんなに感情をむき出しにするのは初めてかな」
「あんたに向かってセイカツホゴを言った安達享子さ。本人に確かめたんだ。
どうして花南の家の事情を知ったのかって…。そしたら担任の先生が言ったっ
て。言うはずがないでしょうと問い詰めた。担任の先生が事務室で『遠野の家
は修学旅行の一括払いが無理かも。どうしたものか。厄介だな』と事務員に相
談していたのを聞いたんだって。安達享子が届いた落とし物を事務室に取りに                                
行った時だって。それでピンと来たのが生活保護。一括で払わなければ援助を
受けられないのをアイツは知っていたんだ。知っていたとしてもピンときたと
してもみんなの前で花南に言う必要ある…‼…」
「美子。ありがとう。教えてくれて。そんなことだろうと思っていた。隠して
いることは何時かバレる。そう思っていた。担任の先生の他に、事務員の人た
ちも、校長先生も教頭先生も知っている。その何処からか、何時かバレると思
っていた。もうひとつ美子にありがとうを言わなくちゃ」
「あんた。冷静なんだね。もうひとつのありがとうって…」
「ハブられるくらいなら何でもない。何とも思わない訳ではないけれどそこか
らイジメに発展すると対抗しなければならない。反撃する。イジメる奴に思い
知らせる。『ゴメンナサイ。もうしません』と泣いて謝るまでやる」
「どうやって…」
「暴力。イジメる奴は複数。そいつらに報復するのは暴力がイチバン。健太が
イジメられた時によ~く分かった。痛い目に会わないと分からないから」
「花南。今からイジメられた時の準備を考えているんだ」
「受け身ではイジメはエスカレートする一方。その果ては自殺。わたしはイジ
メた奴を自殺まで追い込むつもり」
「イジメた奴が自殺するなんて聞いたことがない」
「だからやる価値がある。イジメた奴が自殺したと世間が知った時には学校で
のイジメがなくなる。腹を括らなければわたしへのイジメもなくならない」
「花南。そこまで思い詰めなくても私が守る。大輔も守ってくれる」
「美子。それは甘い。二人が守ってくれるのは分かっている。でもね。イジメ
の現場に美子と大輔のどっちかが居ないと防げない。居ないのを見計らってイ
ジメが始まる。二人ともクラスが違う。それに美子がわたしを守ろうとすれば
今度は美子が女子からのターゲットになってしまう」
「そうだよね。男子は女子には手を出さない。でも大輔は大丈夫だ。大輔をイ
ジメる奴は現れない。そんな奴が現れたら大輔にさっさとぶん殴られる」
「気づいた。イジメへの解決策のひとつが暴力だって」
「私。何とも言えない」
「美子は人間のクズを相手にしてはいけない。美子に気苦労や面倒をかけたく
ないんだ。それに暴力にまで腹を括るのは腹立たしいんだ。でもわたしを特別
な目で見て、ハブり、イジメになってゆくのが手に取るように分かる」
「私は花南を守る。それが長い闘いになったとしても…」
「決めたんだ。明日から学校に行かない。登校拒否する。『暴力少女現る』っ                             
て言われたくないから。中学も行かない。中学では入学時から生活保護をみん
な知っている。小学校が違って知らない生徒も直ぐに知る。特別な目にさらさ
れる毎日になる。学校は安心して過ごせる場所ではなくなった。何時特別な目
が襲ってくるか分からない。特別な目はまとわりついて離れない。それも幾人
もの両目が…。美子はわたしを守ろうとする。大輔も同じ。けれど特別な目は
変わらない。クズ相手に面倒をかけたくないんだ。登校拒否が最善との結論に                                
達したんだ。それがもうひとつのありがとうなんだ」
「あんた。もの凄いことを言っている。中学に行かないでどうするの」
「これから考える。先ずは六年生のこれからを考える。あとひと月で夏休み。
夏休みが終わるまでに答えが出ると思う。きっとミチがあるはず」
「ミチがあるなんて考えられない。私には無理。花南が登校拒否を始めてもト
モダチでいるからね。大輔に言ってもイイ…」
「助かる。大輔が心配しないように上手く言ってね」         
「自信ないけれどやってみる」


 花南は健太へのイジメが忘れられなかった。
 ばいきんまんのシールが貼られていた健太のランドセル。
 それを発見した時に健太がイジメられていると確信した。
 花南は問い質した。
「健太。大丈夫なの。イジメられてない…?…」
 健太は下を向いたまま答えない。
「誰がばいきんまんのシールを貼ったの」
「分からない。ある日貼られていた。でもこれはイジメではないよ。僕。ばい
きんまんもドキンちゃんも好きだからそのままにしているんだ」
「健太はバイ菌と呼ばれていないんだね」
 健太の返事は曖昧だった。
 次の日。花南は気になって健太の下校を物陰に隠れて待った。健太が三人と
歩いていた。こともあろうに健太は三人分のランドセルを持っていた。自分の
は背負っている。三つを落とさないように頑張っていた。ランドセルは重い。
ひとつ五キロはある。健太がフラフラしているのを三人は笑って見ている。ひ
とつを落とした。その時一人が健太の胸を小突いた。健太はその衝撃で二つを
落とした。三人が健太を囲み非難している。
「お前のランドセルと違ってもらったものではないんだ。買ったんだぞ」
 三人が健太を代わる代わる小突き始めた。
 健太は耐えていた。歯を食いしばっていた。
…もう我慢できない…
 花南は健太にダッシュ。三人にキックを入れた。飛び蹴りは最初に小突いた
男の子に。残りの二人には回し蹴り。飛ばされ、歩道に転んだ三人は、蹴りが
入ったところを押さえ、あわてて自分のランドセルを拾った。
「あんたたち。健太をイジメたら承知しないからね。健太に謝りなさい」
 三人は健太に謝らずに走って逃げた。
 健太は花南に抱きつき泣きじゃくった。
「健太はどうして何でもないって嘘をついたの」
「姉ちゃんに面倒をかけたくなかったから」
「バカ。だから時々心配になる。面倒をかけたくないと考えるのは分かるけれ
どそれが後々大きな面倒になるんだ。イジメられたのは生活保護かい…」                                
「いや。生活保護は知られていない。母子家庭なんだ。『お前。父さんがいな
いんだ。死んだのか。何処かに消えたのか。どっちなんだ』。これが最初」
「ひとつ質問。アイツらが言っていたもらったランドセルとは…」
「ランドセルにマジックで書いた僕の名前がこすれて薄くなった。そしたら違
う名前が下から出てきたんだ。それでさ」
「分かった。イジメはイジメられている本人では解決できない。守る人間が現
れないとイジメる側が飽きるまで続く
「本当はバイ菌と呼ばれてシールを貼られたんだ」
「やっぱり」

「あの時、姉ちゃんは凄かった。顔が真っ青。『仮面ライダー01』のキック
だった。あいつらが逃げなかったら続けて二発三発とパンチする形相だった。
あれからあいつらは僕をハブった。でもそんなのは気にならなかった。姉ちゃ
んのお陰さ。あの時に僕は姉ちゃんの家来になると決めたんだ」           
 健太は今でも遠くを見つめてその時を呟く。
   健太はケンカできない弱虫ではない。
   でも健太はイジメる奴にパンチしない。
   健太は実は強いのかも…。
 小三のイジメはこんな程度。たわいない。中学生になるとこうはゆかない。
 男子の場合は集団での暴力。それから「金持って来い」。女子とてあなどれ
ない。さすがに殴る蹴るの暴力にならないけれど、休み時間に、椅子に座って
いる後ろから、ポニーテールをばっさりハサミで切ったりする。これって立派
な暴力。他は陰湿。靴入れロッカーの上履きを隠したり、靴の中に画鋲を入れ
たり、ハブるのは日常茶飯事。あることないことの悪口を少し本人に聞こえる
ように喋る。「うざい」「きもい」「死ね」を直接言ったりする。携帯でLi
neやメールで悪口の拡散。こうなると止めようがない。男子では自殺の練習
まである。本当に自殺しても痛みを感じない。次のターゲットを探すだけ。
 イジメる奴は退屈している。ゲームと同じ感覚。自分は安全な処を確保して
「イジメられる方が悪い」。「イジメられる方に原因がある」と自己肯定に終
始する。イジメることで自分の優位に満足する。

  

 




 

  

リターン

5,000


応援してくれた方には直ちに感謝のメールを送らせてもらいます。

応援してくれた方には直ちに感謝のメールを送らせてもらいます。

『どうせ死ぬなら恋してから(上)(下)』の書籍を郵送します。

支援者
0人
在庫数
200
発送完了予定月
2021年7月

10,000


10000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせてもらいます。

10000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせてもらいます。

『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』(圧縮ワープロ原稿)を添付メールで送ります。

支援者
0人
在庫数
200
発送完了予定月
2021年7月

15,000


15000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。

15000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。

『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』『スパニッシュダンス(上)(下)』をワープロ圧縮原稿を添付メールで送信します。

支援者
0人
在庫数
200
発送完了予定月
2021年7月

20,000


20000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。

20000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。

『どうせ死ぬなら恋してから(上)(下)』の書籍を郵送します。次に『未来探検隊』『スパニッシュダンス(上)(下)』『』アンダルシアの木洩れ日』のワープロ圧縮原稿を添付メールで送ります。

支援者
0人
在庫数
200
発送完了予定月
2021年7月

記事をシェアして応援する

    https://readyfor.jp/projects/56075/announcements/159320?sns_share_token=
    専用URLを使うと、あなたのシェアによってこのプロジェクトに何人訪れているかを確認できます
  • Facebook
  • X
  • LINE
  • note

あなたにおすすめのプロジェクト

注目のプロジェクト

もっと見る

新着のプロジェクト

もっと見る