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支援総額

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目標金額 1,100,000円

支援者
0人
募集終了日
2021年5月10日

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2021年03月09日 07:46

下の抜粋。その13。『今香港が騒がしい』

 西南戦争を超える書き込みは無かった。
 それは致し方ないのだ。自分のルーツと向き合う評伝は唯一無二なのだ。
 気に懸かったのが『今、香港が騒がしい』と『地球温暖化』のふたつ。
『今、香港が騒がしい』は見出しだけ。
 書き込みが無かった。書こうとすれば幾らでも書けるのにどうして…。
 美子は陽大になったつもりで『今、香港が騒がしい』の空白を考え始めた。
 メモ用紙に使っているA4を半分に切った用紙に書き込んだ。
 書き上げたら今は花南の教科書に清書して書き移すつもり。
『地球温暖化』は「俺たちが取り組まなければならないのはコレだ」とだけ。
『地球温暖化』は香港の後。ふたつを同時に考えられない。

 

■私たちが私たちのまま、今、香港で暮らしていたなら必ずや『国家安全維持
法』に反対する。いいえ。それ以前の『行政府による被選挙権の制限』や『逃
亡犯引き渡し条例』にも反対して街頭に出る。香港の大規模デモはここから始
まった。私たちが私たちのままに生きられないなら黙っては居られない。花南
も陽大も大輔も健太も出る。それだけでは無い。クラスのみんなにも呼び掛け
て一人でも多くなるようにして出る。ヘルメットや部厚いマスクは欠かせない。ゴーグルも。もっと頑丈な防御も考えなくては…。催涙ガスは強烈。機動隊が振り下ろす棍棒は暴力そのもの。
 私たちは投石するのか、火炎瓶を機動隊に投げつけるかは分からない。私と
花南が石や火炎瓶を投げても遠くに届かないし威力も無い。陽大・大輔・健太
は違う。特に健太は野球少年。それもピッチャーだ。力強い球を放る。石も火
炎瓶も力強く遠くまで届く。そして狙った処を外さない。
 機動隊が出動してくると街頭は危険が一杯。その他にも群衆に紛れ込んだ私
服警官が眼を光らせている。石と火炎瓶を投げた者たちを捕まえようと懸命だ。街頭に出る前には打ち合わせが大事だ。何処まで何をやるのか決めておかないとダメだ。デモでは大人しくしていても逮捕される。やり過ぎても逮捕。ボヤッとしていたら間違いなく逮捕される。逃げ方も決めなくては…。
 香港には被選挙権が無い。行政府が認めた者にしか与えられない。一国二制
度は終わったのだ。中国本土と同様の自由と平等しか与えられないのだ。中国
共産党の一党支配が始まったのだ。香港の行政府は中国共産党の傀儡に過ぎな
い。香港は此処まで来てしまった。
 街頭に出ても何も変わらない。 
 でもこの事態をNOと叫ばすにはいられない。
 私たちが私たちで居る為に叫ばずにはいられない。
 香港には自由と民主主義が根付いているのだ。私たちの誰かが理不尽に逮捕
されたら身体を張って何としてても取り戻す。これがみんなの合意。投石と火
炎瓶はひと先ず保留。デモ用の衣装をホームセンターで買い揃えた。みんなが
黒の繋ぎ。白の塗料で背中と胸に『NO』を書いた。
 日本でも街頭が戦場と化した時代も在った。                                
 その時でも日本には自由が在った。その時に日本から自由が無くなるとみん
なが認識していたら街頭はまさしく戦場となり収束しなかったと思う。
 今の香港とは本質が違う。
 私は街頭から戻ると香港からの脱出を考えるだろう。
 私が私のまま暮らしてゆける場所を求め探す。
 今の香港の若者の多くは、求め、探しているに違いない。母国を捨てる覚悟。それ以外は中国共産党に屈服する他ないのだ。

 中国本土の民主化運動は挫折した。
 1976年の天安門事件。
 当時の中国共産党指導部は一枚岩では無かった。指導部は権力闘争を繰り広
げていた。その間隙を学生たちが突いた。学生たちは民主化を叫んで躍動した。天安門広場の戦車の前に両手を広げて立ちはだかった一人の若者。
 戦車は一瞬ためらいつつも容赦なく轢き殺した。
 この映像が世界中に流れた。
 学生たちへの弾圧が開始された。指導部内では強権勢力が民主化勢力を駆逐
した。以降、指導部は一党支配を強め今に至る。
 中国共産党指導部は自信を持っている。中国人は餓えさえしなければその時
々の権力に従うと。それが指導部の支え。
 当時の中国本土の民主化運動は学生が中心。
 学生は外国からの支配と餓えを体験していない。
 理念と自由が何よりも大切。
 中国国民の多数とは違ったのだ。国民の多数は理念と自由よりも餓えと外国
の支配からの解放だった。香港でも親世代は中国共産党には適わないと思って
いる。語り継がれた天安門以降の強権支配の恐ろしさを知っているからだ。
「ある日突然理由も告げられないままに連行され拷問を受ける。気づいたら不
具者になり、誰にも知られないままに抹殺される」 
 これが中国本土における強権弾圧の内実。
 香港でもこれが始まろうとしているのだ。

 今の香港は独裁に対する自由と民主主義の戦い。冷戦の終了で独裁は否と決
着がついたと思っていた。しかし中国が国力を増しアメリカとの覇権争いに語らずとも名乗りを挙げた。事実上の独裁を二〇年以上も続けているプーチン。しかしロシアはアメリカとの覇権争いに名乗りを挙げるほどかつての勢いはない。冷戦終了後にソヴィエトに組み込まれていた地方が数多く独立したのが大きい。国力が乏しくなった。今はクリミアの武力支配へのアメリカなどからの経済制裁が効いている。北朝鮮は論外。しかし独裁が揺らがない。餓死者が出るとその国の体制が変わる要因。歴史では暴力的な体制の変化が起きている。それは革命。フランス革命もロシア革命も「パンをよこせ」から始まった。北朝鮮では数多くの餓死者が出ている様子。しかし北朝鮮からの報道は無い。外国人記者の観測報道。報道の自由が無い国家ならではの国内の不都合隠蔽。
 私は歴史好きでは無い。なにしろ年号の暗記が義務付けられている。それが                                
楽しくない。だから歴史が動く、変わる、要因や要件を考えてしまう。北朝鮮
が餓死者を出しながらも現体制を維持しつつ核とミサイル開発を進めているの
は驚きを超える。これは全否定の驚き。現体制が維持できていることへの驚き。中国は上手くいっている。世界の工場は全世界が認めるところ。十四億人を超える人口の消費行動はどの企業にとっても魅力的。そして個人の年収も右肩上がり。アメリカのGDPを超える秒読みは直に始まる。
 その中国には表現の自由が無い。人権思想も無い。中国に私が私のままに暮
らした時には誰も気づかないまま姿を消す。それだけは確かだ。香港に住む私
たちはそれを恐れている。もう少し時間が経てば香港からも私は消されてしま
うのだ。それはイヤだ。私は台湾に住むのか。いや台湾も安心できない。中国
は台湾を国家として認めていない。ふたつの中国は在り得ないが共産党指導部
の方針。二〇〇四年から決して妥協しない『核心的利益』と云う文言を使い始
めた。台湾はひとつの中国の領土と七〇年以上も主張している指導部。
 デラシネの私は日本の永住権を取ろうとするのだろうか。やはり日本は住み
易い。自由と民主主義を叫んでも命を奪われる危険が無い。他の選択肢はアメ
リカかイギリス。アメリカは嫌いで無いけれど今の大統領の下品さが許せない。アメリカよりもイギリスの可能性が高い。民主主義の発祥の地だし上品な女王陛下が今も君臨している。君臨と云っても象徴のような存在。現行憲法で天皇が象徴と規定されたのはイギリスのモデルを借りたと常々思っている私。それとブリテッシュイングリッシュは早口でも発音が聴き取れる。英会話の先生の授業でそれを体験した。先生はイングランンドの出身だった。
 今の私がイギリスに行って永住権を取得するには先ずは留学。どうせ留学す
るのならオックスフォードかケンブリッジ。ならば私はオックスフォード。な
にせ大学の中に街が在る。人文・社会科学が強く多くの著名な政治家を排出し
ている。一方ケンブリッジは自然科学が強味。私はオックスフォードで必死に
なって政治学や国際関係論を勉強する。「よし。これで勉強を終えた」と思え
るまで頑張る。それから私は何時か香港に戻る。生まれ育った故郷に戻る。
 香港は中国から独立しなければならない。独立して自由と民主主義を大切に
する香港を築きたい。独裁が国家運営に上手く機能し、強い権力基盤の下で豊
かになる国家よりも、自由と民主主義がもたらす多様性に満ち、誰もが政治に
参画する、そして女が活躍できる社会構造を創り上げたい。
    今の香港は豊かだ。豊かさを維持し中国共産党が認める自由しか与えられな
いのなら貧しくなっても良い。これが香港人に問われているのではないか■

 

 

 

 

 


 

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