「原爆、忘れまじ」から　「思い出したくないですね」

Y・Hさん

（当時１７歳）

　本当のことをいうと、もういやですよね。あんなにすさまじい事を思い出すのは‥‥‥。

　８月１日の空襲で、三菱造船の建物は窓ガラスはほとんどありませんでした。その窓を背にして報国隊の一員として仕事をしていました。「パァッ」と後ろの方で、光が走りました。何だろうと思う間もなく、「ドッカ—ン」という物凄い音。

　隣の席の山口さんとあわてて机の下にもぐり込みました。しばらくたって、おそるおそる机の下から出てびっくりしてしまいました。私達の班長の五島さん、課長さん、係長さんたちも皆、血だらけです。「グズ」の私達二人だけが、机の下で無傷でした。それからあとは、夢中でした。どれくらい担架で往復したでしょう。

　くたくたになって、火の海に追われながら、やっと家にたどり着いたら、家の中も見るも無惨でした。

　母は小さい妹たちと、島原の方へ疎開していませんでしたが、すぐ下の妹がいたはずなのですが、父も姉もいません。

　途方にくれてぼんやりしていましたが、とにかくお腹がすいては何もやれないと、お昼に食べられなかったおべんとうを、瓦礫の真ん中に椅子を持ち出して食べていました。やっと姉が帰って来て、矢の平の親戚の家に妹が無事にいる事がわかり、私達もそちらの方へ行きました。

　でも父の様子がわからずに、あちこちとさがしてまわりました。近所の方が、勝山小学校で見かけたと言われたので、学校へ行って見ると、父は無事でしたが、消防団の副団長でしたので、死体のかたづけ、負傷者の手当て等で、目はギラギラとして声も出ない状態でした。家に帰って来たのは一週間もたってからでした。

　あちこちの空地で、古い木材をやぐらにして死体を焼くのです。何ともいえない匂いがどれくらい続いたでしょう。今でもふっとその匂いが思い出される事があって、目頭があつくなってしまいます。

　その後、父も体の調子が悪くなって、とうとう直腸ガンで亡くなってしまいました。私達も、あれから４０年あまりになりますが、心の奥底に、ガンに対する恐怖がひそんでいます。ソ連のチェルノブイリ原子炉の事故、背筋の寒くなる思いがしました。世界中へ、核の恐怖を訴えたいと思います。

 

（資料はチェルノブイリ救援中部　河田昌東氏作成）