支援総額
目標金額 610,000円
- 支援者
- 61人
- 募集終了日
- 2015年11月27日
「玄海ブルース」田端義夫
私が震災後、被災地を毎週のように訪れて、避難所や仮設住宅で音楽療法を行っているという情報は音楽療法の仲間だけではなく、SNSなどを通じて各方面の方にも伝わっていました。全く音楽療法には関わりのない仕事をしている人や、被災地ボランティアに興味や関心を抱く人などからも連絡をもらい、時には我々の活動に同行して現地の様子を見てみたい、といった申し込みも何件かありました。
震災の発生する以前から、そうしたSNSを通じて付き合いのあった秋田県の女性からも、一度実際に足を運んでみたい、とメールをもらい、ご一緒したことがあります。まだ仮設住宅の巡回を始めて間もない頃だったのですが、彼女と妹さんの二人を車に乗せて、何度目かの訪問となる、とある仮設にお邪魔した時のことを書きます。
その仮設は、音楽療法の活動を開始した頃は大勢の住民が参加して、それなりに賑わっていたのですが、音楽療法はあまり人気が出ず、徐々に参加人数は減っていきました。盛岡市から片道二時間弱の道のりを移動して、複数のスタッフでそれなりの準備を進めてきた活動が、参加者ゼロで遂行出来ないというのは、やはり残念な気持ちになりました。何らかの手段で、もっと大勢の方に来てもらいたい。しかしイベントやボランティア活動が無理強いであっては、被災した方の心的な負担にもなりかねず、悩ましい問題でした。社協から派遣される支援員は、戸別訪問に様々なルールと制限が設けられていて、イベントの参加者を増やすために勧誘に回るという行為を禁じられていましたので、我々も自然に集まるのを待つしかありませんでした。
秋田からいらした二人が同行した日も、開始時間ギリギリになって誰も談話室を訪ねてくる気配が無く、せっかく足を運んでくれた二人には申し訳無い気持ちになっていたのですが、マスクをした常連の女性がやってきて、私はほっとしました。
「あら、私一人?申し訳ないわね、わざわざ遠くから来てくれたのに。誰か呼びに行こうかな」
女性がそう言ってくださったのですが、どうやら風邪で体調が悪かったらしく、寒い中そんなことをさせるのも申し訳ないなあ、と思っていたのですが
「私、良かったら声掛けしてきましょうか?」
と、妹さん(初対面)が切り出しました。
「あら、じゃあいってらっしゃいよ。多分××さん(男性の常連さん)は日中いると思うから。ノックしても返事無かったら、構わないから部屋の中まで入り込んで、手を引っ張って連れていらっしゃいよ」
と言いました。
「いつも来る常連さんの部屋番号、わかりますか?」
妹さんがそう言うので、私は参加者の名前や年齢、リクエストした曲名を記録したノートを取り出しました。このノートには何人かの部屋番号も控えてありました。しかし、初めての方にそんなことお願いして大丈夫かどうか、不安もありましたが、彼女は頼もしい笑顔でどんどん居室へ向かっていき、数分後には部屋の住民である70代の男性を伴って戻ってきました。男性は昼寝中だったらしく、妹さんはノックに返事が無かったのでドアを開け、直接彼に声をかけて連れてきたとのことでした。寝起きなので髪の毛もボサボサ、寝間着がわりのジャージ姿で、半分寝ぼけ眼でした。
「お休み中のところ、すいませんでした」
眠りを中断されたにも関わらず、男性はニコニコと笑顔で頷き、さっそく田端義夫の「玄海ブルース」をリクエストしました。この曲は宮古市の南に位置する山田町の避難所を巡回していた時によくリクエストが出て、私は何度も弾き歌いしていた馴染みの歌でした。
「この曲、前回もリクエストしてくださいましたよね。何か思い出がありますか」
私は彼に質問しました。すると
「この曲の歌詞、実は俺がゴーストライターなんだ。作詞者が昔からの船乗り仲間で、俺が若い頃に書いたのをくれてやったんだよ」
と真顔で語り始めました。もっと詳しく聞いてみたところ、この男性は宮古市よりも北にある沿岸の町で長年漁師をしていて、広い交友関係があったということです。話の端々に出てくる固有名詞やエピソードは口からでまかせを言っているようには思えないほどしっかりしていて、顔も真剣な表情です。彼の背後に正座していた住民の女性は、ニコニコしながらマスク越しに
「でまかせ!でたらめ!ほらふき!」
と我々に小声で言いました。聞こえていないのか、男性はさらに
「誰もが知っている昭和の名歌手、あれは実は俺の腹違いの妹なんだよ。話せば長くなるんだけど、小さい頃に生き別れになってね。俺も大きくなってから人から聞かされたんだけど、よく見たら顔似てるだろ」
と続けました。顔‥似てません。でも、男性の語り口調や飄々とした風情から、我々をからかっている訳ではなさそうに思いました。それに、訊いているうちに何だか愉快な気分になってきたのです。極めつけは
「先祖を辿って行くと、イギリス王室の血が流れているからさ。俺」
でした。秋田の姉妹も身を乗り出して
「じゃあ、本当の名前はなんていうんですか」
と聞き
「エドワード」
と言われた時は思わず拍手が出たほど、我々はすっかり彼のファンになっていました。毛玉だらけのジャージを来て、寝癖がひどく寝ぼけ眼のエドワード!彼に会えただけで、参加人数の少なさはすっかり気にならなくなりました。この後も、エドワードは三陸の漁師が使っていた英語風の符牒(前進はゴーヘー、後退はゴスタン、全速前進はホースビ)なども教えてくれました。これらは後で調べたら、実際に皆さん使っていたようです。って疑ってごめんなさい。私は彼との出会いで、たくさんのことを学び、三陸に住む人々の豊かな精神性を知る事ができました。
エドワードの住むこの仮設団地に、我々は二年ほど通いましたが、諸事情で今は足が遠のいています。風のうわさでは部屋にヘルパーさんが通っているそうですが、エドワードは健在とのことでした。また会いたいです。
リターン
3,000円
①お礼状(ポストカード)
- 支援者
- 31人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月
10,000円
①お礼状(ポストカード)
②写真集1冊
③当法人ホームページへお名前の記載
(掲載を希望されない場合はご連絡下さい)
- 支援者
- 20人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月
30,000円
①お礼状(ポストカード)
②写真集1冊
③「三陸ことば絵本」1冊
④オリジナルエコバッグ1枚
⑤当法人ホームページへお名前の記載
(掲載を希望されない場合はご連絡下さい)
⑥仮設住民がヘンプもしくは刺繍糸で編んだミサンガ、フクロウなどのマスコット、布製小物など5点セット
(色や模様、種類は在庫により変更がございます、あらかじめご了承ください。)
- 支援者
- 8人
- 在庫数
- 1
- 発送完了予定月
- 2016年2月
50,000円
①お礼状(ポストカード)
②写真集1冊
③「三陸ことば絵本」1冊
④オリジナルエコバッグ1枚
⑤当法人ホームページへお名前の記載
(掲載を希望されない場合はご連絡下さい)
⑥仮設住民がヘンプもしくは刺繍糸で編んだミサンガ、フクロウなどのマスコット、布製小物など5点セット
(色や模様、種類は在庫により変更がございます、あらかじめご了承ください。)
⑦仮設住民と一緒に「歌と体操のサロン」体験にご招待
(2016年9月まで有効、現地までの交通費は自己負担となります)
- 支援者
- 3人
- 在庫数
- 完売
- 発送完了予定月
- 2016年2月