プロジェクト完了報告
コロナ禍における安心・快適な患者搬送をめざして〜最後の砦を守る〜
【プロジェクト報告】
新型コロナウィルス感染症が蔓延するなか、まだコロナウィルスを排出している患者さんを搬送するためには、周りと隔離しなければなりません。当時一般的に入手できるアイソレーターはいわゆる布団圧縮袋のようなビニール製のもので、中に入った患者さんは内部が陰圧であるためビニール袋が肌に密着し、かなりの不快感を感じられておりました。特に夏場は汗もかくため、より一層不快感が強くなります。また、搬送中の閉塞感もかなり強いものでした。一方で、搬送に携わる医療者からすると、患者さんの顔色や息苦しさなどの情報が視認しづらく、内部を陰圧にしてHEPAフィルター越しに空気を外部に出すファンが頭もとに設置されているため音もうるさく、総じて患者さんとコミュニケーションを取るのが非常に困難な状況でした。実際に患者搬送をする際、搬送スタッフは搬送前にドクターカー車内の感染防止の準備として、養生、帰院後の消毒・清拭等にかかる時間は通常の患者搬送に比べ約2時間と長くかかるため、 1日に搬送できる患者さんの数も制限されていました。
そこで患者さんの不快感や閉塞感、不安などをできるだけ取り払い、同時にスタッフの負担も軽減できる、双方にとって安心・安全なオリジナルアイソレーターの製作を検討し、本プロジェクトを企画しました。令和2年3月22日(月)から5月31日(月)まで70日の間、400名以上の方々から1800万円を超えるご支援をいただき、念願のアイソレーターを製作することができました。これも皆様お一人お一人からのご支援の賜物と存じ、改めて御礼申し上げます。
本プロジェクト開催中は、ちょうど新型コロナウィルス感染症の第4波のピークを迎えていたため、我々医療従事者は様々な面での格闘が強いられ、つらいことも少なくありませんでしたが、皆様からいただきました励ましや温かいお言葉に感謝、感動しながら、日々のコロナ診療に必要な力をいただき、同時に本プロジェクトを完結することができました。
頂戴したご支援により、オリジナルアイソレーターを無事に製作することができ、新型コロナウィルス感染症患者さんの搬送に使用させていただいております。患者さんに快適な空間を確保でき、医療従事者の労務を軽減でき、患者さんにも医療従事者にも安心・安全な患者搬送の実現が可能になりました。
以下、オリジナルアイソレーターが完成するまでの工程について報告致します。
オリジナルアイソレーターが出来上がるまでは苦難の連続でした。
既製品ではないオリジナルアイソレーターの設計・製作にあたっては、様々な町工場の技術者や各業者の専門家に一つ一つの構成品の依頼を行い、何度も意見交換、打ち合わせを行いました。患者さんが安心できる空間を維持しながら、医療機器の操作性や医療従事者の安全性にも配慮した形になるよう検討を重ねました。
写真は、オリジナルアイソレーター(木型)の一部です。アイソレーターのドーム型の部分を1枚物として作るのは形状・強度の両方の面から難しいとのことで3分割にして作ることになりました。
アイソレーター両端のパーツ木型 アイソレーター真ん中のパーツ木型
成型は、以下のような大型のプレス機を使用し樹脂をプレスするのですが、大きな樹脂製ドームの製作は初めての試みとのことで、なかなか設計図どおりにはいきませんでした。実際にはドームの高低差が大きく、成型中に型と樹脂の温度差が起き、それがほんの少しの歪みになるそうで、10人以上で1枚の樹脂を引っ張りながら成形したり、温度の設定値を変更したりと試行錯誤を繰り返し、用意した型をすべて使い切ってしまい、新たに型を作り直すという大変な苦労がありました。
今回のプロジェクトメンバーが現地に赴き、中間検査を兼ねて工場を見学、お話をさせていただいた中でアイソレーターを設計してくださった方から「今までいろいろな設計に携わってきましたが、これほどまでに強い使命を感じ、充実する仕事は初めてです。今現場で切望されているアイソレーターをオリジナルなものとしてゼロから製作している事の大事さをスタッフで実感しました。」と熱意あるコメントをいただきました。新型コロナウィルスに対してともに戦う仲間であると強い絆を感じた次第です。
今回、アイソレーターの重要性、必要性を理解して頂き、機能的にもデザイン的にも素晴らしいオリジナルアイソレーターを製作してくださった技術者、専門家の皆様には、スタッフ一同感謝しかありません。
また、搬送時に患者さんが急変した際の対応として、このように車内天井の手すりとカプセルの持ち手にベルトを引っかけ前方部を持ち上げることで急変時に胸骨圧迫を実施できるように設計されています。
令和3年12月11日(土)には、本プロジェクトをご支援いただきました方々をお招きして、ご家族、特に子供さんたちも参加できるイベントを本学吹田キャンパスで開催し、オリジナルアイソレーターを披露するとともに、ドクターカー、DMATカー、ドクターヘリを直接見ていただくなど見学会や意見交換会を開催いたしました。さらに、オリジナルアイソレーター完成のパンフレットとオリジナルグッズを配布させていただきました。
2020年4月にドクターカーが導入され2023年3月末で1000件を超える患者搬送を行い、そのうち新型コロナウィルス感染症の患者搬送件数は約200件で、うち37件にオリジナルアイソレーターを使用しました。皆さまのご寄附により製作いたしましたオリジナルアイソレーターは患者ご本人と、医療従事者の双方から非常に好評を頂くことができました。
オリジナルアイソレーターが活躍する機会は無い方が良いのですが、今後発生するかもしれない新興感染症を見据えた場合、その使い道は無限大だと思われます。
また支援金の一部は、コロナ禍でご家族がなかなか面会に来れず寂しい思いをしている入院中の子供たちにオリジナルグッズをプレゼントしたり、本院DMAT隊の感染対策や装備等の充実に役立たせて頂きました。一同心より感謝致しております。
今後も安心・快適な患者搬送を目指して取り組んで行きたいと考えております。引き続き応援のほどよろしくお願い申し上げます。
【収支報告】
寄附受入額:18,510,000円
仲介者手数料:△3,054,150円
大学管理等経費:△925,500円
部局管理等経費:△925,500円
受入額計:13,604,850円
支出額:13,451,352円
(内訳)
カプセル型アイソレーター 1台:4,730,000円
アイソレーター蓋部分替え 1台:1,320,000円
パンフレット作製費:18,130円
イベント開催費:313,508円
オリジナルグッズ作製費:4,262,350円
その他
・備品(紫外線照射装置2台、TVモニター1台):619,420円
・消耗品:1,995,482円
・郵送料:192,462円
残額:153,498円
残額はDMAT活動支援を含む本院の災害対策に役立てさせていただきたく存じます。
プロジェクトメンバー 一同