プロジェクト終了のご報告
この度は、盲ろう者スポーツ支援プロジェクトにご支援頂き誠に有り難うございました。改めて御礼申し上げますとともに、今回の成果につきましてご報告させて頂きます。
「指点字ツールで盲ろう者と一緒にスポーツを楽しめる社会を作る!」と、いささか大きな風呂敷を広げさせて頂きましたが、その為の布石となる成果を、取り組みでご一緒させて頂いた盲ろう者の方々と確かめる事ができました。
<新規ウエアラブル指点字ツールの製作>
独自に開発した「ウエアラブル指点字ツール」につきましては、初期のプロトタイプの課題を整理し仕様を再検討しました。デザインおよび設計を新たにすることで飛躍的に進化させながら、当初の予定通り、指点字発信および受信の機能について合計5セット分のツールを製作することが出来ました。これらにより、最大同時、4名の盲ろう者同志の会話、3組の盲ろう者・通訳者の会話が可能です。具体的には、従来の遠隔指点字の一方通行コミュニケーションのものに加え、指点字の送信と受信の両方が行える双方向タイプのツールの新規開発にもチャレンジし完成させることができました。一般的な使用での耐久性を向上させた他、構成ユニットの集約により軽量化をはかり、機動性を高めました。
これらにより、発話が可能な盲ベースの盲ろう者だけでなく、ろうベースの盲ろう者とも指点字会話が可能になりました。
一般的に、指点字習得には、指点字の打ち(送信)と受け(受信)について、一定の訓練が必要ですが、双方向指点字ツールを用いることで、これから指点字を学ぶ人にとって有効なトレーニングツールとなることが期待されます。
そして、このツールを応用した様々なスポーツの展開ですが、新型双方向ツールにおいては従来のタイプとは異なり、取り回しの配線類がなくなり手元のみのユニット構成を実現したことで、先ずはメインの「ランニング」シーンにおいて快適性を著しく向上させることが出来ました。伸び伸びと腕を振ってひとりで自由に走る感覚です。腕振りがより重要である「競歩」での活用も期待されます。
そして、一般公道での使用が可能になったタンデム自転車によるサイクリング体験でも、盲ろう者の方々に喜んで頂いております。健常者パイロットと二人で走りますが、状況を共有して息を合わせてペダルを漕いだりカーブで身体を傾けたり、行動の予見を可能にするコミュニケーションが重要なことは、マラソン伴走と変わりません。遠隔で通信可能な「ウエアラブル指点字ツール」を併用することで、より安全で快適な走行に加え、指点字会話しながらのタンデムサイクリングを可能にしました。実際には、指点字コミュニケーションのスキルに応じて、簡単なサインから流暢な日常会話まで、利用者の状況に合わせて活用しています。そしてさらに、盲ろう者自身が自転車の前席に座ってハンドル操作を行うという願いにも応えました。このチャレンジは、視覚障害者にも勇気を与え、同様の体験をして頂き大変喜ばれています。取り組みは障害の枠を超え裾野を広げています。
<リターン>
ご支援頂きました皆様へ、ご希望のリターンをお送りさせて頂きました。気に入って頂けましたら幸いです。盲ろう者自身が製作した陶芸作品につきましては、日本を代表する青磁作家である浦口雅行さんの全面的な協力なしでは実現出来ませんでした。改めて心より御礼申し上げます。盲ろう者の造形センスの高さには目を見張るものがありました。完成した手捻りの作品に触れながら、見えなくて聞こえない盲ろうの作者の指先と直に繋がる感動体験です。
今後、盲ろう者の才能を活かし就労支援に繋がる取り組みとして、この様な創作活動を発展させてゆけたらと思います。
<収支報告>
皆様からご支援頂いた資金(手数料を除く110万円)は、全額、今回の取り組みのために使用させて頂きました。
●「ウエアラブル指点字ツール」開発および製造費(5セット) 260万円
●特許出願費用 30万円
●タンデム自転車購入および改造費(1台) 10万円
●イベント費(リターン準備含) 10万円
プロジェクト合計310万円
<今後の展開>
盲ろう者が自由にスポーツに参加しハツラツと輝く社会を実現するためには、イノベーションが必要です。人的なサポートに加え、テクノロジーの活用でそれを実現しようというのが今回のプロジェクトの骨子です。
新たな活動の担い手の育成は急務です。大学の福祉ボランティアサークルと連携し、盲ろう者と一緒に繋がってスポーツを楽しんでくれる若くて元気な「スポーツ指テンジャー」を育成する活動を本格化させます。
また、盲ろう児童・生徒の療育やスポーツの現場での「ウエアラブル指点字ツール」の活用など取り組みの裾野を拡げてゆきます。
「ウエアラブル指点字ツール」は漸く実用レベルになってきましたが、まだまだ改良の余地はあります。新たなツールの研究開発には多くの時間と費用が必要です。今後、更に開発協力者や開発資金を集め進化させることができればと思います。音声入力などITの技術を組み合わせれば、介助者側に指点字の知識やスキルは不要となり、さらに多くの人々と盲ろう者を繋げることになるでしょう。
今回、副産物として、もうひとつ、「ウエアラブル指点字ツール」を生み出すことができました。これまで別々だった、点字表と指点字表をひとつにした「指手ん字表」を考案し、これをTシャツにしました。これを見れば、点字の知識がなくても誰でも直に指点字が打てます。これら二つのウエアラブル指点字ツールで、多くの盲ろう者が外へ飛び出し人々と繋がりスポーツなど社会参加できることを切に願っています。
今後とも、取り組みへのご理解とご協力をお願い出来ましたら幸いです。
何卒宜しくお願い申し上げます。
ハートウエアデザイナー
東京都盲ろう者通訳・介助者
米山爾