わたしと、社会と、地球と。笑顔をつなぐアートマスク。

 

Zoomのミーティングルームに入室すると、周囲のにぎやかな雰囲気に気がついた。

 

自然生クラブのお昼休み時間中とのこと。案内してくれたのは、茨城県つくば市・自然生クラブの支援員である谷中さん。

 

昼食後の午後一番。ひょっとすると、少し眠たくなる時間帯かもしれない。
しかし、聞き手である私は、眠気どころか、むしろ興奮気味である。

 

理由はシンプル。現在、ヘラルボニーがクラウドファンディング中の「アートマスク」を彩るアーティスト、「坂本大知」との遠隔初対面のインタビューだったからだ。

アートマスクを彩るのは、この「ギザギザ」という作品。

 

 

いつも、この「ギザギザ」を見るたびに、線を追う。
追った線の先、気づいた時には、すでに色の変化に出会う連続だ。

まるで、宇宙のブラックホールに吸い込まれんばかりの力強さと、緻密な線と色づかいにいつも目が釘付けになる。

インターネット回線がすこし遅くなってきた気がする、とある昼下がり。
この「ギザギザ」が生まれた背景と、アーティスト・坂本大知の人柄について伺うため、Zoom上で対面させていただいた。（聞き手・大田雄之介）

 

アーティストプロフィール

 

 

坂本 大知（さかもと だいち）

 

茨城県立美浦特別支援学校卒業後、2016年に自然生クラブに参加。温厚な性格でユーモアがあり、どんな仕事にも責任をもって取り組む。創作田楽舞では2019年の香港公演に参加。自由でのびやかな感性を持ち、太鼓を叩いたり、ダンスや歌を歌ったりする。絵画では「筆を滑らす動き」を重視し、ダンスと融合している印象を与える。形に着目し、何度も形をなぞって描き上げた「土偶」(2019)は、好評で、市役所の市長室控室に展示された。

 

 

坂本 大知「土偶」（2019）

 

Q1. ご出身はどちらですか？

 

坂本さん「（茨城県）稲敷市です！」

 

小気味良いリズムとテンポで回答いただいた。
卓球のラリーのようにどんどん質問を進めていく。

（ちなみに、普段は周りから「大ちゃん」と呼ばれているとのこと。お言葉に甘えて、インタビュー中は「大ちゃんさん」と呼ばせていただきました。）

 

Q2. 坂本さんの好きなことを教えてください。

 

坂本さん「食堂のお手伝い。テーブル拭き！」

 

テーブル拭きなど食堂のお手伝いは彼の日課とのこと。
インタビューの様子からも誠実な様子が伝わってくる。

一方、私のテーブル上はキレイとは程遠いカオスな状況。
インタビュー後はそそくさとテーブル拭きに励みました。
（ちなみに、大ちゃんさんのお昼ご飯は「豚しゃぶ」と教えてくれた。）

 

そして、焦る気持ちを抑えられず、インタビューの核とも言えるアート作品「ギザギザ」について迫った。

 

Q3. 「ギザギザ」という作品のこだわりを教えてください。

 

坂本さん「弱く、フォークで描きました。」

 

・・・意外にも弱く！しかも、フォークで。
私が初めて作品を観たとき、非常に力強い印象を受けていたので驚きを隠すことができない。

そこで、制作方法について、アート担当の谷中さんに解説をいただく。

谷中さん「上の黒い部分を、下地が見えるようにスクラッチで描いています。フォーク以外にも、スプーンや筆の柄などを使ってスクラッチをしています。」

 

「スクラッチ技法！」

思わず声が出てしまった。
それは、偶然にできる形や色を利用して表現する技法であるモダンテクニックのひとつであり、多くの方が一度はスクラッチ技法を用いて描いたことがあるのではないだろうか。

それにしても非常に緻密で、繊細かつ大胆な作品。
どれだけの制作時間がかかったのか、想像もつかない。

 

 

Q4. 坂本さんの作品がアートマスクになった感想を教えてください。

 

坂本さん「がんばりました！」

 

その声を聞いた瞬間、「ギザギザ」の制作風景が頭の中に浮かんでくる。

 

まずは、複数色のクレヨンで画材いっぱいに描いていく。その上に、ジェッソと呼ばれる下地材を塗る。そこから、フォークやスプーンを使ってひっかく、「ギザギザ」が始まる。

 

制作風景が浮かぶと同時に、より一層「ギザギザ」に対して思い入れが強くなり、言葉自体は短いかもしれないが、「がんばりました！」という声に感動している自分がいた。

 

そして、日頃から坂本大知さんをよく知る自然生クラブ代表の柳瀬さん、舞踏家として活躍し、坂本さんたちと数多くの舞台に立たれている安田部さん、アート担当・支援員の谷中さんにも「坂本大知さん」の日常・お人柄についてお伺いしていく。

 

Q5. 坂本さんが日常でこだわっていることはありますか？

 

柳瀬代表「ルーティンはぜったいです。朝起きて食堂の手伝い、仕事の順番、お風呂の時間、寝る時間、全て彼はルーティンとして時間通りです。」

安田部さん「とてもキレイ好きなところにこだわりを感じます。」

谷中さん「パントマイムや合言葉、歌などでコミュニケーションをとるのが好きです。」

 

気まぐれ。マイペース。というより、やはり「ルーティンを大切にする、しっかり者。」というイメージかもしれない。自然生クラブ内でも同時に、パントマイム、合言葉、歌でコミュニケーションを取るのが好きという、インタビューでは見られない意外な一面も垣間見えた。

 

Q6. 坂本さんのお人柄を教えてください。

 

柳瀬代表「とにかく、信頼できる頼りになる人です。裏切らない。人を出し抜いたり、だましたりしない正直な人です。」

安田部さん「仕事にもアートにも一生懸命。太鼓にも一生懸命。キッチンの手伝いも誰よりも頼りにされている若手のホープです。」

谷中さん「朗らかでいつも笑顔でうたっている。ほめ上手。相手を気遣ったり、いたわることができるやさしい面があります。」

 

Q7. 坂本さんが描く「作品名：ギザギザ 」の制作活動の様子を教えてください。

 

柳瀬代表「ギザギザは偶然できた作品です。彼は「動き」(身体)をそのまま絵にします。ギザギザは、ギザギザの動きということです。」

安田部さん「スクラッチで仕上げた作品です。クレヨンを大きな画面全面に力強く塗り込めました。ひたむきに。その後、黒で画面を着彩し、楽しく、軽快にスクラッチ。存分に「ギザギザ」下絵の色が表出する喜びや驚きを感じました。」

谷中さん「線の流れ、動きにこだわりを感じます。大知くんの踊った軌跡のようです。直線、曲線、ツンツン、ギザギザといろいろな動きを言葉にしながら制作しました。」

 

坂本さんは田楽舞と呼ばれる踊りの活動にも精力的に取り組んでいることもあり、優雅な踊りがアートの制作活動にも取り込まれている。
なんと、「ギザギザ」というタイトルは、スクラッチ部分のことを指しているのではなく、「ギザギザ」な動きをしながら描くことから「ギザギザ」というタイトルになっているようだ。

 

Q8. 日常生活で起こった坂本さんとの思い出を教えてください。

 

柳瀬代表「あいさつです。今は、「ハロー、ハウアーユー」。その他、今まで「オッケーグーグル」とか、「ピアノ売ってちょうだい」など、あいさつがわりの言葉がいろいろありました。」

安田部さん「♪「あ〜なたのお名前は？」「坂本大知です！」「おとなりへ！」「はい！」楽しい歌の会話を楽しんでいます。大知君、英会話も得意です。朝、会うと「Good morning!」とあいさつをしてくれます。」

谷中さん「太鼓の舞台で一緒に「とおりゃんせ」を歌いました。それからは日常でも、すれちがったりするときに自然とお互いに「とぉーりゃんせー、とぉーりゃんせ♪」と歌い始めたりして楽しんでいます。大知くんから「オッケー☆」と合格サインをもらえるよう、私も日々精進。（大知くんは歌が上手！）」

 

・・・今、ほっこり度数が100%を超えました。

 

周囲から絶大な信頼を寄せる中にも、多彩なユーモアも合わせ持ち、高低差が大きいギャップで魅了する坂本大知さん。

そんな、坂本さんから見て欲しい2020年最新作があるとのことなので、ここでご紹介させていただきたい。ちなみに次に描きたい作品は「ひよこの足」と話してくれた。

 

 

坂本 大知「おはな」（2020）

 

自然生クラブとは

 

 

自然生クラブで運営している田井ミュージアムは、地域の大谷石作りの米倉庫を改装して2001年12月に誕生しました。シアターとアトリエの2部屋があり、知的ハンディキャップのある人たちの表現活動の場となっています。毎週火曜・木曜の午前中に行われる「表現ワークショップ」のほか、草木染や絵画の作品展、音楽・演劇・ダンス・朗読・太鼓など幅広く創造的な活動を行っています。毎年、春と秋に芸術祭を開催しています。
ヨーロッパでの公演を契機に、アール・ディフェランシェ（Art Differencie：異才の芸術）を実践する芸術団体との交流を深め、2009年には、国際交流基金より地球市民賞を受賞しました。

 

さいごに

 

インタビュー終了後、興奮は最高潮に達していた。

 

誠実ながらも、ユーモアたっぷりな彼のギャップも然ることながら、何よりもずっと気になっていた「ギザギザ」の秘密について余すことなく伺うことができたのだから。インタビュー前後では「ギザギザ」の見方も全く異なる。舞うように描く優雅さと、やさしさを持ち合わせた偶然の産物「ギザギザ」を改めて、お愉しみいただきたい。

 

今回のインタビューにご協力頂いた、坂本大知さん、柳瀬代表、安田部さん、谷中さんにこの場を借りて深く御礼を申し上げます。

 

 

そして、坂本大知さんが描く「ギザギザ 」は、ヘラルボニーがクラウドファンディングで発表した「わたしと、社会と、地球と。笑顔をつなぐアートマスク。」に落とし込まれている。

 

 

ポスト・コロナの新しい生活様式では、マスクは使い捨てではなく、繰り返し使えるサステナブルな存在になると考える。

昨日まで仕方なくつけていたマスクを、明日からはつけたくなるマスクへ。

その日の朝にファッションアイテムをコーディネートするように、マスクもTPOに合わせてカジュアルやビジネスシーンで使い分けられるようにリバーシブルで無地使用も可能となっている。

開始50時間で目標の100万円を達成したこのアートマスクは、現在200万円を突破した。より多くの方にお届けするため、増産資金として第二目標となる300万円に挑戦中である。

 

ぜひ、日本製かつ高機能であることも紹介しているクラウドファンディングページもご覧ください。
マスクをつけることに、新しい価値を。

#アートマスクはアフターマスク。