プロジェクト終了報告
クラウドファンディングにご支援くださった皆様
日頃より、東京藝術大学 芸術資源保存修復研究センターの活動にご理解・ご支援をいただき誠にありがとうございます。
2021年10月1日より始まった、クラウドファンディング(CF)【文化財保存の課題に挑戦!現代美術作家のアトリエを「まるごと保存」】プロジェクトですが、2022年9月30日をもってプロジェクト期間が無事終了いたしました。皆様からの温かいご支援のお陰で、期間中は本プロジェクトの目的であるアトリエ保存に関連する様々な作業を実施することができました。心より御礼申し上げます。本日は、CFプロジェクト期間に得られた成果等についてご報告いたします。
【CFプロジェクトによる成果】
プロジェクト期間中は、様々な専門家のご協力を得ながら、アトリエ関連の資料調査、デジタル化、保存処置などを遂行することができました。ここでは、代表的な成果をご報告いたします。
1)アトリエの実測図作成および3D撮影
日比野克彦氏が退去する前の、アトリエの最終的な状態を残すことを目的に部屋の実測や3D撮影を行いました。アトリエの実測に関しては、東京藝術大学の建造物保存の専門家にご協力いただき、実測図を作成しました。また、3D撮影に関しては、東京文化財研究所の専門家にもご協力いただき、360度カメラなどにより記録を残すことができました。
あわせてアトリエの存在するマンション自体についても、マンション住人による管理組合や理事会のご協力により、調査及び保存に関わる機会が得られました。アトリエ同様に専門家の協力によって、マンション共用部の写真撮影及び3D撮影による記録に加え、エントランスのレンガと照明、タイル、住所表示プレート、共用部のルームプレートを部分保存することができました。
2)アトリエ関連資料のデータベース作成
アトリエ内には作品だけでなく、創作活動や生活のために必要となる様々な物品が存在していました。それらは作品ではないものの、日比野氏が作品を制作するためには欠かせない道具であり、制作過程や痕跡を示す重要な資料と考えられたため、これらについても調査・記録を行い、データベース作成を行いました。実測図により空間を区分けし、それに沿って各区域に存在する家具や書類といった資料を把握し、資料の位置関係を記録しました。データベースには、各資料の区分けした場所に基づいて付与した資料番号、資料名、数量等の項目を入力しました。資料点数は膨大であり、データベース作成作業は完成しなかったため、今後も引き続き調査・データベース作成を続けていく予定です。
3)玄関タイルの保存
アトリエの玄関に設置されていた「1985」という数字がデザインされたモザイクタイルの保存処置を行いました。モザイク壁画の作家であり修復家でもある専門家にご協力いただくことにより、工期や手法といった様々な問題を解決し、保存を行うことが可能となりました。保存処置と並行して、蛍光X線分析装置という機器を使用した材料調査と、日比野氏へのインタビューを実施しました。インタビューでは、玄関タイル設置の経緯やそれに関わる思い出、保存処置の方針や今後の活用などについても聞き取りを行いました。インタビューの結果を受けて、専門家からは今後の玄関タイルの再設置も視野に入れ、それまでの保管期間にもプロジェクトの展示などで活用できるような裏面の構造が提案されました。
玄関タイルの保存
インタビューの様子
4)床板の保存
アトリエの床には、日比野氏が制作時に使用した絵の具が散った跡が残っていたため、プロジェクトでは床の一部を切り出して保存することにしました。さらに、保存した床板の一部を素材として美術作品(「床板アート」)を制作することで、形を変えつつも日比野氏のアトリエの痕跡を保存することができると考えました。床板の保存及びアート制作には、玄関タイル保存に引き続き、同専門家にご協力いただきました。床の切り出しや、床板アートの額の選定、台紙のデザインなどには日比野氏も参加しました。床板アートは、床板を2枚並べた(大)と1枚設置した(小)の2種類のサイズを作成し、一部の作品は返礼品として支援者様にお届けしました。
日比野氏による床板切り出し
床板アート
その他にも、アトリエ関連書類のスキャン・デジタル化、フィルム資料のデータベース作成や保存状態の把握、段ボール作品に使用された材料の保存性に関する基礎調査などを行いました。フィルム資料の調査については、映画フィルム保存缶の企画・製造・販売を行う株式会社足柄製作所様にご協力いただきました。
また、本プロジェクトは、アトリエ保存を通じて現代美術や近現代建造物の保存における問題といった、文化財保存分野の課題の周知や解決を目指すことを目的としていました。玄関タイルの保存、床板アート、返礼品を通じたアトリエの継承といったCFにおいて実施した各プロジェクトは、文化財保存分野の課題におけるケーススタディとしても重要な役割を果たすことができたと考えています。
【収支報告】
皆さまからご支援いただいた資金は、資料調査、デジタル化、玄関タイル・床板部分保存処置などのための人件費・謝金に1,828,505円、調査・研究のための消耗品費に672,932円、返礼品制作・発送等費等に995,318円、その他、成立手数料(READYFOR(株))、交通費、スキャンサービス利用等の費用に839,245円を使用させていただきました。
【リターンの発送状況】
保存修復Aコース以外の支援者様には、リターンの発送は完了しております。保存修復Aコースのご支援者様には既にご連絡済みですが、印刷の遅れにより報告書(冊子版)のお届けが遅れております(PDF版は既にお届け済みです。)。大変申し訳ございませんが、もう少々お時間いただけましたら幸いです。
尚、リターンに関する不備やご質問等がございましたら、10月31日までにbunkazai★ml.geidai.ac.jp(★→@にご変更の上、お送りください。)までご連絡をお願いします。
※ 本メールアドレスは2023年3月末まで有効です。申し訳ございませんが、それ以降のCFに関するご対応は致しかねますのでご容赦ください。
【アトリエ保存プロジェクトの今後について】
CFプロジェクト期間は、2022年9月30日で一旦終了となりますが、慢性的な人員不足や、コロナ禍における様々な制限により、プロジェクトにはまだ残された作業や課題が数多く存在しています。アトリエ保存プロジェクトは、芸術資源保存修復研究センターの後継組織である「未来創造継承センター」において、引き続き課題解決に取り組んでまいります。今後とも、アトリエ保存プロジェクト及びセンターへのご支援をよろしくお願いいたします。
また、2023年1月下旬〜2月上旬頃に、東京藝術大学においてCFプロジェクトの成果を報告する展覧会の開催を予定しております。皆様お誘い合わせの上、ぜひご来場ください。
展覧会の開催予定など、今後の情報発信は未来創造継承センターのwebサイトを通じて行う予定です。ぜひwebサイトをチェックしていただけましたら幸いです。
東京藝術大学 未来創造継承センターWebサイト: https://future.geidai.ac.jp