終了報告書「リンパ浮腫の進行を抑制する治療法開発を目指す」
終了報告書 (注:昨年の研究報告書を基に加筆しています)
「リンパ浮腫の進行を抑制する治療法開発を目指す、リンパ管の研究を!」
皆様、新潟大学の吉松康裕です。一昨年のクラウドファンディング(CF)では大変お世話になりました。改めてご寄付いただきましたことに心より感謝申し上げます。
繰り返しになりますが、本研究プロジェクトはリンパ管の機能低下や数の減少によって起こるリンパ浮腫という病気を治すため、改善させるための治療法開発を目指しています。そのために、主に
- リンパ浮腫でリンパ管が弱ってしまう分子メカニズムを明らかにすること、
- リンパ管を活性化する(元気にする)、またはリンパ管の性質変化を止める薬物を見つけること、
以上の2点について取り組んでいます。詳しくは最初にご覧になられたCFのページを再度ご覧いただければ幸いです。
最初の①では、リンパ管が弱ってしまうEndoMTという現象について解析を進めてきました。リンパ管の細胞(リンパ管内皮細胞)を培養してリンパ浮腫の原因の一つと考えられているTGF-βというタンパク質を培養液に加えてリンパ浮腫で起こるリンパ管内皮細胞が弱った状態を一部再現して、そのときの細胞の変化について解析を行っています(図1)。


TGF-βを加えてから3日後には図2にあるように細胞の数が減少します(図2左側)。また、Prox1という、リンパ管としての性質を維持するために必須のタンパク質の量も減少し、Prox1を発現している細胞が減っていることがわかります(マゼンタ色で示される細胞の核の数が減っています:図2右側)。このときには他にも細胞内でさまざまな遺伝子の発現が変化してmRNAの量が増減します。これを解析するために、細胞からmRNAを取り出します(図1)。mRNAの配列を読む技術を用いて解析すると、元の遺伝子が何であったかが判明します。これらのデータを基にしてEndoMTを引き起こしている遺伝子の候補をリストアップしています。遺伝子は2万個以上ありますので、これらのデータはビッグデータとなりますが、ここから有力な候補遺伝子をいくつかの指標を用いて絞り込んでいます(図1)。これらについては絞り込んだ有力な候補遺伝子が実際にリンパ管で起こるEndoMTにおいて重要かどうかについて検討を進めています。
リンパ浮腫というのは炎症を伴う病気です。先述のTGF-βというのは炎症が起こるときには必ず産生されるタンパク質ですが、この他にもいくつかのタンパク質が産生されることが報告されています。炎症に伴って免疫細胞から放出されるサイトカインというタンパク質群を始め、それらがリンパ管内皮細胞に悪く作用している可能性がありますので、それについて検討を進めています。その結果、少なくとも一つが悪い作用を持つことを見出しています。将来的にこれを抑えることが、治療薬につながる可能性があります。
二つ目の②では、リンパ管の細胞(リンパ管内皮細胞)を使って薬物を探索することを目指していますが、そのためにたくさんのリンパ管内皮細胞が必要になるので、まずはこの細胞を不死化する技術を使って大量に増やす計画です。細胞の寿命に関わるテロメアというDNAの末端の領域がありますが、これが短くなることで細胞はやがて寿命を迎えます。しかし、テロメラーゼという遺伝子を増やすと、テロメアを長く保つことができ細胞を不死化させてたくさん増やすことができます。この方法により、テロメラーゼが強くはたらく細胞ができ上がり、この細胞が元の細胞よりも速く増えることを確認しました。今後、大量に増やして研究に用いる予定です。
また、リンパ管を元気にする薬物を探すための検出システムが必要になります(図3)。


このシステムのためには蛍光タンパク質によってリンパ管が光るマウス(遺伝子を改変したマウス)が居るので(図4)、このマウスからリンパ管内皮細胞を取ってきます。リンパ管内皮細胞が元気な間は光り続けますので、この細胞に薬物を加えたときにこの蛍光がどのように変化するかを検出するシステムを作ろうとしています。このシステムを用いて薬物を加えたときに蛍光がさらに強くなる場合には、リンパ管を元気にする薬物の候補となることを想定して進めています。
これまでにこの光る細胞が混ざった組織をマウスから採取して、培養することに成功しています。現在の状態だと、いくつかの種類の細胞が混ざった状態になっていますので、この細胞集団から光る細胞、すなわち、リンパ管内皮細胞だけを取り出す計画です。これに成功すれば、薬物を探すためのスクリーニング(大量の種類の薬物候補の作用を調べる実験)が開始できます。
ご寄付により集まった資金はすべて大学の会計係の管理下で、主に実験に必要な試薬、細胞の培養に必要な培地などの購入費、新しく雇用した技術員の人件費に使用させていただきました。以下が、その収支報告になります。

その他の報告として、寄付者へのギフトとして設定しておりましたCFに関するオンライン講演会を2024年7月に行いました。
皆様に申し上げておかなければならないことがあります。収支報告のところにありますように残金があります。これは当初の予定よりもプロジェクトの進行が遅くなっていることを意味しています。実は今回のCFが皆様のご寄付により成立したあとに、私が所属する研究室が日本リンパ学会という学会の開催を2025年に主幹することが決定しました。本CFプロジェクトの初年度はほとんど影響がありませんでしたが、次年度より学会開催の準備にもかなりの時間を割かざるを得ず、研究の進捗に影響が出ています。現在は2025年5月下旬の開催に向けて準備を進めていますが、これが終わるまでは影響が出る可能性が高いです。そのあとは通常通りにこのプロジェクトが再開できる見込みですので、引き続き研究を進めていきます。進捗が遅くなっている点は大変申し訳なく存じますが、私がこのプロジェクトを進めるきっかけになった学会でもありますので、この点はご理解賜りますようお願い申し上げます。
以上を一旦、ご寄付いただいた全員の方に対するCFプロジェクトの終了報告書とさせていただきますが、残金がありますのでこれを使い切った時点でもう一度収支報告を含めご報告致します。
また、ご寄付額3万以上の方にはギフトとしてオンライン報告会を開催予定で、そのあとにその報告会までまとめた内容で研究報告書を作成しご寄付額1万以上の方に送付予定です。
今後も引き続き宜しくお願い申し上げます。
2025年4月
新潟大学 吉松康裕
















