“世界の中心で、愛をさけぶ”のヒロインが冒されてしまう小児がんの、昔と今

 

筆者は書籍、映画を見ました

 

原作は片山恭一さん著の『世界の中心で、愛をさけぶ』という小説で、高校生の純愛と、愛する人を失った喪失感を描いた恋愛小説として2001年に発刊。人気に徐々に火が付き、文芸書としては2003年最大のベストセラーにまでになりました。

 

その後、映画やドラマなど様々なメディアを通じて作品は広がりを見せ、作品に共感した人を中心に骨髄バンクのドナー登録が増えるという社会現象にもなった、この作品。

 

ストーリーとしては、ヒロインが急性白血病になってしまい、無菌空間での抗がん剤治療をするのだが、効果は芳しくなく…というストーリーで、当時の小児がんが『不治の病』であるかのようなイメージを一般の方々に与える影響もあったように思います。

 

すべての小児がんの治癒率の平均値を取ると、およそ80%

 

しかし、医療の進歩により、小児がん=不治の病という時代ではなくなってきています。1980年代には半分を切っていた治癒率は、2010年代にはおよそ8割にまで伸びることになります。

 

まだまだ治らない、治癒しない種類の小児がんは存在するのは事実ですが、小児がん医療を取り巻く状況はこの数十年で大きく変わりつつあるのです。

 

小児がん医療の歴史をかえた抗がん剤​『分子標的薬』の存在と白血病

 

”小児がん医療の歴史を変えた新薬”

 

今も”小児がん医療の歴史を変えた新薬”としての称号を持ち、それまでの治療法が大きく変わってしまうぐらいの大きな影響を及ぼしたのが、分子標的薬という種類の抗がん剤の開発です。

 

従来の抗がん剤は、がんの性質である「活発に細胞分裂を行う」ことを障害することで、がん細胞を破壊していました。がん細胞は無秩序に細胞増殖を繰り返すことが知られているため、細胞分裂を活発に行う細胞をターゲットとする薬剤が抗がん剤として使用されてきたのです。

 

しかし、細胞分裂はがん細胞だけでなく、正常な細胞にも定常的に起きている現象です。そのため、正常細胞の中でも比較的細胞分裂が活発な細胞は抗がん剤によって副作用が起こりやすかったのです。例えば、生殖器細胞(睾丸、卵巣など)や毛髪の細胞、腸の細胞は細胞分裂が活発です。そのため、これらの臓器は抗がん剤による副作用が発生しやすいのです。

 

一方、分子標的薬は、がん細胞だけに存在する特異的な物質を標的としています。すると正常細胞にまで影響を与えにくいため、副作用を軽減することにも繋がります。

 

“世界の中心で、愛をさけぶ”のヒロインが冒された白血病についても、この分子標的薬の開発がすすんでおり、原作が記された時代には日本の抗腫瘍薬として小児適用できなかった薬が、2000年代よりどんどん小児がん医療の現場でも使われるようになっていったのです。一般名ではリツキシマブ(Rituximab)、イマチニブ(imatinib)など――”小児がん医療の歴史を変えた新薬”は、続々と小児がん医療の現場で、その成果を出していくのです。

 

現代の医学の下であれば、あるいは、彼女の命を救うことが出来たかもしれません。白血病にも様々な種類のタイプ(サブタイプ)があるため、完治までいけるかどうかは分かりませんが、しかし、それでも可能性は十数年前の当時と比べて段違いにあるのだと思わされます。

 

“Cure is not enough”――小児がんの残した宿題「晩期合併症」

 

国立成育医療研究センター小児がんセンター長松本の師事した医師でもある

 

しかし、では「治ったらそれで終わり」かというと、そうではない現実も残されています。小児がんは、昔とくらべて治癒するようになってきた一方、成長・発達過程にある子どもが患者さんであることなどから、成長や時間の経過に伴って、がん(腫瘍)そのものからの影響や、薬物療法、放射線治療など治療の影響によって生じる合併症がみられます。

 

これを、「晩期合併症」といいます。具体的な症状としましては、身長の伸び、学習障害、心理的・社会的成熟、生殖機能への影響などが挙げられます。

 

スライドにあるのは、Dr.Giulio John D’Angioの詞です。疾患や障害と共に生きていかねばならない小児がん経験者の権利と自由のため、今この瞬間も、より良い医療の実現が待たれています。

 

小児がん医療は総合力――そして、次世代のつくってゆく世の中への期待

 

また、晩期合併症に適切な対処をするためには、定期的な診察と検査による長期間のフォローアップが必要になります。

 

たとえ幼少期には分からなくとも、成長の過程で影響が見えてくることもあります。病気の種類や受けた治療によって、どんな晩期合併症が起こりやすいかが分かってきているため、国立成育医療研究センター小児がんセンターでは『長期フォローアップ外来』での支援を続けています。

 

小児がん経験者の長期フォローアップを支えるツールたち

 

長期フォローアップ外来では、小児がんを経験された患者さんが過去に受けた治療内容を把握して、健康管理に役立てられるように、一緒に考えていきます。それは、患者だった子どもたちの自立・自律を促し、世の中の理解と互いを支えあう文化の醸成の一助となりうるものです。

 

小児がん経験者らのつどいで設置されていたパネルより

 

小児がんに限らず、難病を乗りこえて社会に出ていく子どもたちには、まだまだ社会に課題が残されています。

 

しかし、今回の様な企画を通して、いつか同級生として机を並べたり、共に働くことになったりするかもしれない次世代のこどもたちには、彼/彼女らの姿を少しでも身近なものに感じてもらいたいと思います。

 

今年度、国立成育医療研究センターの納涼大会でも開催した”レモネードスタンド”

 

そして、いつか大人になっていく彼・彼女ら皆が、“お互いに、共に助け合うことのできる存在”なのだということを知っていただけたらうれしいです。

 

次世代の未来を支える医療としての小児がん医療のため、これからもみなさまのご理解・ご支援のほど、何卒よろしくお願いいたします。この度は、ほんとうに有難う御座いました。

無菌室をつくろう

クラウドファンディグでのプロジェクト期間は終了いたしましたが、まだまだご理解・ご支援の輪の広がりを感じております。そして、一人でも多くの方々の願いのとどく企画にできればと思っております。 小児がんと戦うみんなの願いである「無菌室」の新設に、引き続き力をお貸しください。

▼お申し込みはこちら ※今年度中、もしくは資金調達の目途が立ち次第、募集は終了致します

 

今後とも、国立成育医療研究センターを何卒よろしくお願いいたします。

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