お早うございます。松竹大谷図書館の武藤祥子です。

いよいよプロジェクトの募集終了まであと3日となりました。いまだ目標額を達成しておりませんが、プロジェクトを成立に導こうとして下さる皆様から引き続き応援やご支援を頂いておりまして、おかげ様で現在目標額の95%まで達成しております!追加のご支援で応援して下さった方や、体調が悪いなかをご支援下さった方もいらっしゃいます。本当にありがとうございます!台風に負けずに100%達成を目指して頑張りますので、最後まで応援をよろしくお願いいたします!

 

さて、今回の新着情報では【映画スクラップ】のご紹介をしたいと思います。歌舞伎・新派台本のご紹介その2は、次回の新着情報まで少々お待ち下さい。

 

このプロジェクトのご支援で制作を予定している【映画スクラップ】のアーカイバル容器は、プロジェクトページでもご説明したように2種類あります。戦前から昭和27(1952)年までに製作された作品のスクラップ233冊は経年劣化が進んでいるため、1冊ずつ寸法を測って「タトウ式保存箱」というアーカイバル容器を制作し、その容器でしっかりと保管したいと思います。また昭和28(1953)年から昭和41(1966)年にかけて製作された作品のスクラップ1,596冊は、書架1段につき1個ずつ「組み立て式棚はめ込み箱」を制作し、各箱の中に約30冊ずつスクラップを保管したいと考えています。

 

今回の新着情報では、1冊ずつ「タトウ式保存箱」で保管する予定の233冊のスクラップの中から、木下惠介、黒澤明、そして小津安二郎と、日本を代表する名監督3人の作品をご紹介いたします。
 


【左上】『破れ太鼓』(1949年、木下惠介監督)、【右上】『醜聞〈スキャンダル〉』(1950年、黒澤明監督)、【下2冊】『お茶漬の味』(1952年、小津安二郎監督)の各スクラップ。

 

まず、1949年公開の『破れ太鼓』ですが、戦前から時代劇の大スターとして活躍した阪妻(阪東妻三郎)の現代劇への出演が当時話題をよびました。阪妻が、一代で財を成し、傲慢でいつも家族に怒鳴り散らす父親に扮した、笑いと風刺にあふれたホームドラマです。



この作品で阪妻は、木下惠介監督と初めて組みました。当時の広告や記事も、この2人が組んだことを伝えるものが多く、上のスクラップの下の宣伝広告にも、「鬼才木下惠介 巨星阪東妻三郎が取組んで…」などの文面が見られます。

 

上のスクラップの左上に貼られているのは、松竹京都撮影所でのクランクインを伝える記事ですが、「木下惠介監督と阪東妻三郎の初顔合せによる…」と書かれており、当時30代後半の木下監督と40代後半の阪妻のツーショット写真が載っています。


また、この映画には、木下監督の弟で映画音楽家の木下忠司が、音楽家志望の次男役で出演しており、スクラップの他のページには、「木下監督の令弟「破れ太鼓」に出演」と題した記事が貼られています。「大船の映画音楽家として有名な…」との記述がありますので、当時既に木下忠司が映画音楽家として活躍していたことがわかります。なお木下忠司は、この映画で映画音楽も担当しています。

 

 

次にご紹介するのは、1950年に公開された黒澤明監督の『醜聞〈スキャンダル〉』のスクラップです。


『醜聞〈スキャンダル〉』は三船敏郎、山口淑子、志村喬が出演し、三船敏郎演じる画家と山口淑子演じる歌手が熱愛記事を捏造され、雑誌社を相手取って訴訟を起こし、法廷で争っていく過程を描いた社会派ドラマで、黒澤監督が松竹で初めて撮った作品です。当時、黒澤監督は、1948年4月に始まった第3次東宝争議の影響により、東宝での映画製作ができなくなったため、松竹や大映、新東宝などの他社で映画を撮っていました。『醜聞〈スキャンダル〉』の公開翌年には、再び松竹で『白痴』(1952年)を撮っています。配給作品を含めると、『醜聞〈スキャンダル〉』『白痴』そして1991年の『八月の狂詩曲(ラプソディー)』(※配給のみ)の3作品が、松竹と関わったものとなります。
 
上のスクラップの左ページの記事に、「…黒沢監督が松竹大船でメガフオンをとる第一回作品」「黒沢明監督の松竹初作品」、右の記事にも「黒沢明が始めて松竹で撮る作品」「松竹へ出張しての第一作」などの文面が見られます。
 


上のスクラップの右ページに貼り込まれた広告にも「黒澤明松竹第一回監督」と記述があります。また、左下の逆L字に切り取られた記事は、台紙からはみ出て貼られていますが、スクラップにはこのように貼られた記事が多くあり、こうした貼り込みは、折り目やはみ出た部分の劣化が激しいため、より良い環境下での保存が望まれます。

 

 

最後に、小津安二郎監督作品の『お茶漬の味』のスクラップをご紹介いたします。

1952年に公開された『お茶漬の味』は、佐分利信と木暮実千代が夫婦を演じ、価値観や生活習慣の違いのためにすれ違いながらも和解する様が温かく描かれた名作です。この作品には、9月29日の新着情報でお伝えしたように鶴田浩二も出演しており、上の写真の左側のスクラップの上に貼られた記事には、「鶴田を再認識 『お茶漬の味』で好演」との見出しがおどっています。


当時人気絶頂だった鶴田浩二と小津の作風は対照的で合わないのでないかという論調で始まっていますが、実は「脚本から鶴田を意識して書いた」とのことで、「鶴田浩二が伸び伸びと奔放に巧演している」と書かれ、「鶴田が名匠小津監督にも高く評価されて名実ともに人気スターの貫ろくを示したと一般は見ている」との文で締めくくられています。
 

また、右側のスクラップの右上の記事には、「検閲で怒られた“お茶漬け”」との見出しがあります。『お茶漬の味』は、戦時中に書いたものの当時の検閲に却下されたシナリオを、戦後になって改めて直して撮影した作品で、この事に関して脚本を共同執筆した小津監督と脚本家・野田高梧の談話が載っています。
  
また、上のスクラップにはユニークな記事が。左ページの中央に「お茶漬を食う会 松竹で風変わりな試写」との見出しの記事が貼られています。これは、「お茶漬の味をみてお茶漬を食う会」と題した宣伝試写会が熱海在住の文化人を招いて開催されることを伝える記事で、出席者として、志賀直哉、佐々木信綱、谷崎潤一郎、宇野千代など、著名人の名前が上げられています。「小津安二郎監督以下の製作スタッフが出席して…」とも書かれていますので、この豪華な面々で『お茶漬の味』を観て、そしてお茶漬を食べたことを想像すると、何やら面白いですね。


以上、3人の名監督の作品のスクラップをご紹介いたしました。
いずれも当時の製作や宣伝の状況を伝える貴重な資料なのですが、残念ながら、どのスクラップも経年劣化が進んだ状態です。『破れ太鼓』は表紙下部が大きく破損し、『醜聞〈スキャンダル〉』は裏表紙が既に取れてしまっています。いずれもそのままの状態で書架に立てることはすでに不可能で、『破れ太鼓』は紙で包んで紐でしばり、『醜聞〈スキャンダル〉』は封筒に入れて配架しております。『お茶漬の味』も閲覧のたびに表紙のふちが崩れてくるなど劣化が進んでおり、早急に1冊ずつ「タトウ式保存箱」に入れて保存したいと考えております。

 

是非、この貴重な映画の資料を保存するプロジェクトが達成できますよう、皆様のお力添えをいただきたく存じます。

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