世界が注目した日本画家「加藤弘光」の遺言未来への展覧会と画集

画廊にいる弘光さんを見た。

家にいる弘光さんも見た。

でも、創作現場にいる弘光さんを見たことはない。たとえ弘光さんが生きていたとしても、それは永遠に見ることはできなかったであろう。

生命科学の研究者が高倍率の顕微鏡で一つ一つの細胞を扱うように、弘光さんが桜一枚一枚の花弁を丁寧に描いていく姿は容易に想像できるが、作品に集中するには周りからの干渉がない、一人の世界が必要であったろう。

ふと現実の世界に戻ったとき、温かく見守ってくれている友子さんや子供たちのありがたさに気づいたであろうことは、画廊にいる弘光さん、家にいる弘光さんが友子さんに接している姿から感じ取ることができた。彼の優しさがあったから、多くの人から慕われファンができてきたのであろう。

まだ描きたい作品はたくさんあったであろうが、湧き出てくるアイデアに、食べることも寝ることも忘れて生み出した作品一つ一つに、弘光さんの魂が宿っているに違いない。天国に旅立ってしまった悲しさ・寂しさはあるが、弘光さんの作品を通してその魂に触れられる喜びが我々には残っている。

天国ではどのような絵を描いているのであろうか？私もそちらに行ったときに見るのが楽しみである。

老化研究者

　石井直明