瀬戸内法50年プロジェクト

   通称・瀬戸内法は，1972年に議員立法によって瀬戸内海環境保全臨時措置法として成立し，1973年10月施行された。5年後の見直しで特別措置法として恒久法となった。日本では最初の「海の環境法」であった。
　瀬戸内法成立と同時進行していたのが，瀬戸内海汚染総合調査団（以下，調査団）だった。岡大在学中であった私は，岡山県北の自衛隊演習場「日本原」に強い関心を注ぎ，調査団のことを全く知らなかった。
　和歌山県龍神村という山の中で生まれ育った私には，海は陸から眺める対象でしかなかった。瀬戸内海を見たのは高校の修学旅行。私も参加した生徒による旅行の企画会議で，「瀬戸内海を見よう」ということになった。となると，昼間にフェリーで大阪天保山から別府まで瀬戸内海を縦断することになる。私が通った高校がある和歌山県御坊市から。当時の交通事情では，御坊市を昼過ぎバスで出発，大阪市内で一泊して翌朝午前8時のフェリーに乗船するしかなかった。今から思えば「うっそう！」と言われそうな話だが，このときが私の最初の瀬戸内海との出会いだった。
　船上から見る大阪湾の海は茶色く濁り臭いが漂っていた。明石海峡を通過した途端に海の色が変わり，そして周防灘まで島々の眺望，時とともに変わる景観に見飽きることはなかった。夕日の沈む豊予海峡では潮の干満によるうねりをフェリーのローリングとともに体験した。そんな体験が岡山を選択させる一因になったのかもしれない。
　そして，この30有余年，瀬戸内海の環境問題に取り組み続け，後期高齢者となった今も自分の健康状態と相談しながら続けようと思っている。その大きな取り組みが瀬戸内法50年プロジェクトだ。おりしも今年は瀬戸内法施行50年目を向える節目の年。今後の世代のため，今の瀬戸内海を，今を生きる世代がどう見ていたのか，瀬戸内海の環境はどうだったのか，記録を残すだけでも大いに価値があると思っている。
　また，瀬戸内が誇る漁業の再生の可能性を探るため必要不可欠な作業であると思っている。瀬戸内海の漁業は1985年ごろをピークに減り続け回復の兆しは見えていないし今も減り続けている。しかしこの国の食糧の自給状況を見ても，漁業はなくしてはならない。プロジェクトは持続可能な瀬戸内海の漁業の将来を取り戻すための一助になると確信している。
　そのための資金を求めるクラウドファンディングは「未来への投資」と，皆様のご理解ご協力を切にお願いしたい。

 環瀬戸内海会議事務局長　松本宣崇