私たちが自立支援セミナーの教材として使っている『そらまめガイド ビジネスマナー編 ~社会人としての心得~』の中に

『魔法の言葉「ありがとうございます」「すみません」を忘れずに!』という項目があります。

この言葉が載っているページは、ビジネスシーンに限定したものですが

これらは、日常の様々なシーンで誰もが使うありふれた言葉のうちのひとつです。

 

『心を込めて伝えましょう』

 

 

この項目には、こんな注意書きが記載されています。

心を込めるってどういうことだろう?と改めて振り返ったとき、私が新人だった頃の苦い体験を思い出します。

 

 

私が新人として初めて配属されたのは、小中学生の男の子達が暮らすホームでした(私たちの施設では子ども達が生活する場所を「○○ホーム」と呼んでいます)。

当時、彼らとどのように関係を築き上げていくかということに頭を悩ませ、日々もがき続けていました。

 

 

盆を過ぎたあたりのことだったと思います。

朝、子ども達を起こしにいくと、全然見たことのない子どもが部屋で寝ていました。

「君はどこの誰?」と質問すると、「朝早くに遊びにきました。職員の方を起こすと迷惑かと思ったので勝手に上がりました。すみません。」と言葉が返ってきました。

素直に謝意を示し、こちら側の話すことを真剣に聞いていたので、たまたまそうだったのかな?と私は思っていました。

ですがこの後、彼は毎日のように子どもたちの居室に上がり込むことが続きました。

さすがに様子がおかしかったので、その度に私を含めホームスタッフは、彼の話を聞きながら注意を促し続けました。

彼の口からお決まりのように最後に出てくるのは「すみません」という言葉でした。

 

 

二学期に入ると、毎朝必ず居室に上がりこんでいた彼が来なくなりました。

私たちは、夏休みだったからかな?と腑に落ちない感覚を覚えつつも、それ以上深く考えることをやめていました。

ですが、私たちの知らないところで、地域の子ども達と施設の子ども達が、近所のバイクを盗み、深夜から早朝にかけて走り回っていたのでした。

夏休み後半、毎朝施設に忍び込んでいた彼は、ある晩転倒し怪我をしていたようでした。

だから二学期になって来なくなったわけです。

 

 

この事実が明らかになったとき、私を含めホーム職員は、自分達の不甲斐なさに直面し、子ども達にどのように声をかけていけばよいのか分からなくなりました。

また、当然ですが、ご迷惑をお掛けした地域の方々に対して、お詫びして回る日々を過ごしました。

 

 

そんなある日のことです。

お詫び行脚から戻ってきて、リビングで放心状態になっている私のところに、事件の主犯格であり、ホームのリーダー格でもある子どもがやってきました。

『今更なんだろう?』と私はボンヤリと彼を見つめました。

 

 

「迷惑かけてごめん」「あと、後始末してくれてありがとう」

 

 

彼はボソッと語り、自分の部屋に戻っていきました。

私は一瞬何を言われたのか理解できませんでしたが、彼なりの精一杯の謝意であったと気づきました。

 

 

毎朝ホームにやってきた子の言った「すみません」と、当事者として地域に迷惑をかけた彼の言った「ごめん」

私の心に響いたのは、共に暮らしている彼の言葉でした。

今改めてこの違いを考えてみたとき、それはきっと、穏やかな日々やそうでもなかった日々を含め、共に過ごした時間(あるいは密度と言い換えてもよいかもしれません)や、事件発覚後、お互いにどう解決していけばよいか悩み苦しんだ関係性があったからではないかと思います。

 

 

私たち自立支援プロジェクトのメンバーは、セミナーを通じて、子ども達に様々なメッセージを送っています。

ですが、初対面の相手に対し、どのような態度で、どのような言葉を使い、そして何を感じてもらうのだろうかと常に考えています。

お互い過ごした時間や場所が全く異なる子どもたちに対して、私たちの取組が少しでも良いきっかけとなるために。

セミナーは子ども達にとって一期一会の場ですから、それが最良の場となるよう、様々な場面を想定し準備を行っています。

 

 

私たちは、今回のプロジェクトを通じ、様々な人の「気持ち」に触れました。

これらの気持ちは、私たちを通じ子どもたちに届けていかなければならないと思います。

これからも自分達の実践のあり方を考え続け、磨き続けていきたいと思っています。

 

                        春田真樹

 

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