支援総額
目標金額 800,000円
- 支援者
- 95人
- 募集終了日
- 2023年3月6日
畑で暮らす黒猫のお話(その7)
2022年になっても、ハタケーズは相変わらず元気でした。
畑の厳しい寒さも、みんなで寝床ボックスを使って、何とか乗り切ってくれました。
そして、4月を迎えたある日のことです。
その前日まで大雨が2~3日続いていたこともあり、その日は4月としては肌寒い日でした。
そんな中、私がいつものように畑へお世話に行くと、どこからともなく「ゼーゼー」という奇妙な音が聞こえてきました。
私はそれが何の音なのか理解できず、慌てて周囲を見渡してみました。
すると、近くにともくんと空歌ちゃんが座っていたのですが、2匹には特に変わった様子はありません。
気になって音がする方へ近づいた時、寝床ボックスが目に入りました。
もしかするとという思いで寝床ボックスを開けてみると、そこにはアクオスが横たわっていたのです。
そして、畑に響いていた奇妙な音の正体は、アクオスが苦しそうに口で息をしている音でした。
しかも、私が寝床ボックスを開けても逃げ出さないということは、アクオスは相当に深刻な状態に違いありません。
この状態を目の当たりにした私は、急遽アクオスを保護することに決めました。
しかし、手元にアクオスを運ぶための物は何もなかったため、急いで家に帰ってキャリーケースを持ち、再び畑に戻ってきました。
キャリーケースを準備してから寝床ボックスを開けてみると、アクオスは先ほどと変わらずにうずくまったまま口で呼吸をしている状態でした。
アクオスが抵抗したり逃げ出したりしないよう、慎重に首を掴んでキャリーケースに入れたのですが、私の不安とは裏腹にアクオスは身動きひとつしませんでした。
この時は既に、アクオスが身動きできないほど、弱っていたのです。
私は家にアクオスを連れ帰ってきましたが、ケージの空きは無かったので、ひとまずお風呂場にアクオスを運びました。
お風呂場で見るアクオスは変わらずに苦しそうで、どうするべきなのか判断に困ってしまいました。
家に着いてアクオスを運び込んだのが午前4時ですので、病院に行くのはもちろん、頼みの友人と連絡を取ることもできません。
動物用の救急病院を調べてみたのですが、私の住む地域には深夜救急の病院は無かったため、朝一番でいつもの病院へ行くことにしました。
ただ、病院が開くまでにアクオスの命が持つかどうか、という最大の問題が残っています。
とりあえず私は仮眠を取りながら1時間おきにアラームを掛けて、その都度アクオスの様子を見ることにしました。
お風呂場へアクオスを見に行くと、相変わらず身体を波打たせながら苦しそうに息をしており、このままでは間違いなく死んでしまうでしょう。
私はアクオスを抱きかかえ、朝まで頑張るように言い聞かせました。
今まで触ることすらできなかったアクオスを、私はこの時はじめて抱くことができたのです。
しかしそれは、アクオスが絶体絶命の状態であることも示しています。
その後、私は祈るような気持ちで朝まで過ごし、8時には病院を目指して出発しました。
病院には友人も駆けつけてくれたのですが、アクオスの様子を見てひどく驚いたようでした。
そして、9時に開いた病院で一番に診察してもらったところ、アクオスの様子を見た先生の顔色が変わりました。
どうやら予断を許さない状態のようで、レントゲンを1枚撮ってからそのまま酸素室へと運び込まれたのです。
レントゲンの結果、アクオスの病状は肺炎とのことでした。
肺炎で苦しい状態が長く続いており、そのせいで口呼吸になって空気が入り込んで胃が膨張していることを、レントゲンの写真で説明してもらいました。
ここまで胃が膨らんでしまうと食欲の回復も難しく、しばらくは入院が必要という診断でした。
その時に先生が思い立ったように、猫エイズキャリアかどうか聞いてきたのですが、アクオスは検査したことが無かったので、急いで採血して猫エイズの検査をすることになりました。
その結果、アクオスは猫エイズ・白血病ともに陰性でした。
先生は猫エイズの検査結果を見て、これなら回復するかもしれない、という見込みを話してくれました。
ひとまずアクオスは入院することになったため、私と友人は一旦アクオスを見舞ってから家へ帰ることにしました。
そこで、酸素室にいるアクオスを撫でようとしたところ、先生から高濃度の酸素が充填されているからドアをあまり開けないように注意されました。
今まで酸素室に入った子を見舞ったことはありますが、先生からドアの開閉で注意されたことは無かったので、それほどアクオスが切羽詰まった状態なのだと実感しました。
私は帰り際に、先生へアクオスが助かる確率について聞いてみました。
すると先生は「30~40%というところでしょう。」と答えました。
慎重派の先生が30~40%と答えるということは、おそらく五分五分くらいで助かる見込みがあるということです。
私はほんの少しだけ、アクオスの今後に希望の光を見たような気になりました。
その後、家に帰ってひと休みしようかと思った瞬間、病院から電話が掛かってきました。
電話の相手は看護師さんで、アクオスの容態が急変して息を引き取ったと伝えられました。
電話越しに呆然とする私に看護師さんは、今なら蘇生措置もできます、と付け加えてくれたのです。
私は蘇生措置がどういうことなのか分からなかったので内容を聞いてみたところ、開胸して臓器に直接強心剤を注射する、と説明を受けました。
しかも、開胸して蘇生措置をしても、必ずしも息を吹き返すとは限らないそうです。
私はその説明を聞いて言葉を失いました。
数日間に渡る苦しみからようやく解放されたアクオスを、さらに開胸することなど私には考えられなかったからです。
私は蘇生措置を断り、アクオスの亡骸を引き取りにいくことを伝えました。
途中で友人と合流して病院へ着くと、診療時間は過ぎていましたが、先生が病室でアクオスと一緒に待っていてくれました。
先生の説明によると、治療が間に合わないほど衰弱が激しかったようです。
また、肺炎は猫にとって危険な病状のひとつなので、命取りになることが多いそうです。
その状態を見つけてあげられて、酸素室で少しは楽になりながら最後を迎えられたのは、アクオスにとって良かったのではないか、と先生が落ち込む私と友人を慰めてくれました。
私は先生にお礼を伝え、アクオスを連れて家へ帰りました。
その帰り道に友人と相談して、次の日にアクオスを火葬することにしました。
家に着いたアクオスは、もうひと晩お風呂場で過ごすことになりました。
その後はいつも通りに家の猫たちのお世話と外猫たちのお世話を済ませ、その日は早めに床につくことにしました。
前の日はほぼ徹夜状態でしたし、次の日は朝早くから葬儀場へ行かなくてはならないからです。
ぐったりと疲れた状態だったのですぐに眠りに落ちたのですが、寝ている最中にふとアクオスの息遣いが聞こえたような気がしたのです。
私は飛び起きてお風呂場に向かいました。
もしかして、という思いがあったのですが、やはりアクオスは息を引き取っていました。
思い返せばアクオスとは5年間の付き合いでしたが、週に1度しかお世話をしてあげられませんでした。
そんな状況でしたので、アクオスは飢えてお腹を空かせていたことや猫嫌いの人にイジメられたことなど、辛いことが沢山あったでしょう。
私はとても幸せとは言えないアクオスの生涯を考え、申し訳ない気持ちになりました。
私がもっと小まめに畑に行ってあげられれば、アクオスはもう少し満ち足りた一生を過ごせたはずです。
どんなに後悔しても取り返せないような思いが、私の感情を支配していました。
しかし、アクオスが寝床ボックスを最後の場所として選んでくれたことだけは、不幸中の幸いでした。
もし他の場所を死に場所として選んでいたら、私はアクオスの生死を把握することはできなかったでしょう。
そして、アクオスが寝床ボックスを最後の場所に選んだのは、自分の死期を悟ったからこそ最後までハタケーズのみんなと一緒に居たいと思ったのかもしれません。
アクオスが住み慣れた畑で仲良しのハタケーズたちに見守られながら、ゆっくりと天国へ行きたいと思っていたのだとしたら、病院へ連れていきそこで最後を迎えさせた私のことを、きっと恨んでいるはずです。
私は夜中にひとりでアクオスの亡骸を見つめながら、色々なことに想いを巡らせました。
そして朝になり、アクオスの葬儀の日がやってきました。
私は友人と合流する前に畑の近くを通って、アクオスに最後のお別れをさせることにしました。
畑の近くから車の窓を全開にして周囲の空気を入れ、後部座席にいるアクオスへ畑に着いたことを教えてあげました。
その日は天気が良く、まさに春の訪れと言える麗らかな陽気でした。
アクオスに暖かな春の空気を吸わせてからゆっくりと畑の横を通り過ぎようとした時、畑の近くの丘の上にともくんの姿が見えました。
アクオスと仲良しだったともくんが、最後のお別れに来てくれたのです。
私はアクオスにともくんが来てくれたことを伝え、丘の上にいるともくんにはアクオスが旅立ったことを伝えました。
早い時間に畑を通ったので猫はいないだろうと思っていたのですが、ともくんが見送りにきてくれたのはハタケーズの絆のおかげなのでしょう。
葬儀場では友人と2人でお見送りをして、お骨は私の家で安置することになりました。
思えばアクオスは保護してから亡くなるまで、わずか10時間ほどのあっという間の出来事でした。
私はアクオスが亡くなった実感を持てないまま、家でボンヤリとお骨を眺めていました。
そのうち、後悔や悲しみとは違った感情が、沸々と自分の中で芽生えていることに気付きました。
そして、この気付きはやがて新たな決意へと繋がるのでした。
~2022年4月7日、アクオス永眠~
(おわり)
リターン
500円+システム利用料
お礼のメール
感謝のメールをお送りします。リターン希望なしの方向けのコースになります。
- 支援者
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1,000円+システム利用料
お礼のメール&保護猫画像
感謝のメールをお送りします。ご希望の方には保護猫画像も一緒にお送りします。
- 支援者
- 39人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2023年4月
5,000円+システム利用料
お礼のメール(リターンなしご希望の方向け)
感謝のメールをお送りします。リターンなしご希望の方向けのコースです。
- 支援者
- 34人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2023年4月
10,000円+システム利用料
お礼のメール&保護猫カレンダー(2023年版)
○感謝のメールをお送りします。
○2023年版の保護猫カレンダーを郵送にてお送りします。
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- 18人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2023年4月
50,000円+システム利用料
お礼のメール&保護猫オリジナルトートバッグ
○感謝のメールをお送りします。
○保護猫オリジナルトートバッグ(ユニクロオーダー品)を郵送にてお送りいます。
- 支援者
- 1人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2023年4月
100,000円+システム利用料
お礼のメール&保護猫オリジナルトートバッグ&保護猫シェルターご招待権
○感謝のメールをお送りします。
○保護猫オリジナルトートバッグ(ユニクロオーダー品)を郵送にてお送りします。
○保護猫シェルター(千葉県船橋市)へご招待します。遠方の方は最寄り駅への送迎などご相談に応じます。ご招待権の有効期限は2023年4月1日より1年間と致します。
- 支援者
- 2人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2023年4月
200,000円+システム利用料
お礼のメール&保護猫グッズ詰め合わせ&保護猫シェルターご招待権
○感謝のメールをお送りします。
○保護猫カレンダー・保護猫オリジナルトートバッグ・オリジナルコースターなどの詰め合わせを郵送にてお送りします。
○保護猫シェルター(千葉県船橋市)へご招待します。遠方の方は最寄り駅への送迎などご相談に応じます。ご招待権の有効期限は2023年4月1日より1年間と致します。
- 支援者
- 0人
- 在庫数
- 制限なし
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- 2023年4月
500,000円+システム利用料
お礼のメール&保護猫シェルター命名権&保護猫シェルターご招待権&保護猫グッズ詰め合わせ
○感謝のメールをお送りします。
○保護猫シェルターの命名権をお渡しします。命名後は頂いた名前にて保護猫シェルターを運営致します。
○保護猫シェルター(千葉県船橋市)へご招待します。遠方の方は最寄り駅への送迎などご相談に応じます。ご招待権の有効期限は2023年4月1日より1年間と致します。
○保護猫カレンダー・保護猫オリジナルトートバッグ・オリジナルコースターなどの詰め合わせを郵送にてお送りします。
- 支援者
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- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2023年4月