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2021年03月21日 09:29

(上)の抜粋。『ホタテと瓢箪』。その5。「安心と興奮」

 もうひとつ絶対に忘れられない記憶が在った。関内での食事を終えてジャスミンティを飲んでいる時だった。Reiが「ところでのぞみさん。二者択一で安定しているけれど退屈なのと、不安でもワクワクドキドキする興奮が在る。どっちを取る…」と尋ねて来た。
 わたしは暫し考え「安心と興奮かなぁ…」と言おうとする前に「安定と興奮が欲しいんじゃない」と言われてしまった。この時のReiの表情は少し意地悪だった。初めて見たReiの意地悪顔。わたしの心の奥底を見抜いたかのような意地悪顔。…俺は不安と興奮の只中に居て不安と向き合い興奮に突き動かされる日々を送っているんだ。その絶頂が今…と、わたしに伝えたかったに違いない。やはりReiはわたしを『お嬢さん』としか見ていない。「安定と興奮が欲しいんじゃない」はわたしのトラウマになった。このトラウマを解消しなければわたしはReiの裡で『お嬢さん』のまま。解消してReiを見返さなければわたしの女がスタル。わたしは執念深い女。

 

 決定的に思い知ったのが最後の手紙。中華街から三ケ月後に勇気を振り絞って手紙を書いた。『一緒にスペインに行きましょう』。この時の返信は無かった。これ以降Reiからのコンタクトが消滅。
 わたしが振り絞った勇気は蛮勇だった。無謀。Reiが向き合っている困難はReiなら乗り切れるとしか考えなかった。本当の処は分からない。分からないまま『スペイン』を送ってしまった。この時は辞める決心が固まり退職届を何時出そうかと思案していた。三学期が終わる一ケ月前が良だった。これなら学校に迷惑を掛けなくとも済む。退職届提出期限まで残り一ケ月を切った。

 わたしは焦り気味に『一緒にスペインに行きましょう』とだけを書いた。これが最後の勝負と一行にすべての想いを託した。惨敗。自分のことしか考えられなかった。

 わたしは思慮も分別も足りない女。足りなくてもスペインには意味が在った。だからこそ一行に想いを込めた。それをReiが知らぬはずがない。
 箱根に一泊する予定で車を走らせた。箱根は一度案内したい処だったのとReiの希望でも在った。「箱根駅伝のコースを生で観たい」。Reiは道中の景色を喰い入るように見つめていた。「ここが権田坂かぁ。思ったよりも勾配がきつくない」。Reiは車から降りて走り出した。この時のために着衣した短パンと用意したシューズで三キロ走った。Reiは車に戻り「今度は六郷橋の風を感じたい」と言って橋を走った。大平台のヘアピンカーブでも走った。
「この坂とカーブはきつい。蹴りを強くしても蹴り上げてもストライドが伸びない。伸びないと膝を上げる悪循環に陥る。それなのに芦ノ湖のゴールまでは十一キロ以上もある。ここからが本格的な山上りなんだ…」
 わたしは狭い道幅が心配になった。追い越して行く車と接触しないかと。それでReiの後ろにつけている車をセンターラインぎりぎりまで寄せた。そして前と後ろを注視。パーキングランプを点滅させた。ハンドマイクを学校から借りて来なかったのを悔やんだ。頼み込めば借りられたのに。

「そうそうそうそうそう。このペースだ。四年間の集大成が今日の今だ。気負うな。肩の力を抜け。大地を蹴るんだ。みんな観ている。お母さんも観ているぞ。そうそうそう」と叫んでみたかったのに。
 Reiの野望は独り箱根駅伝の完走。出張の度に一区間を走る予定を建てていた。今回は下見を兼ねての試走。わたしはReiの無茶と無謀にまたも胸キュ~ン。走り終えたReiはわたしからのタオルで汗をぬぐいつつ山上りのランナーに想いを馳せていた。
 宿に着いた。Reiは満足そう。ふくらはぎとハムストリングを車中で揉みほぐしていた。週半ばの昼中に入浴客は居なかった。わたしは女湯から仕切られた岩壁を上ってReiの湯に降りた。驚いたReiは「滑るぞ」と言い、下りの岩の途中で私を抱き止めてくれた。わたしのチャレンジは大成功。抱きしめられ勢いのついたわたしは他にも湯けむりで上気していたのかも知れない。
「二年間。悩んで来たけれど昨日決めた。やっと決められたんだ」
「何かしらの特別な決定打が在ったんだ…」
「在った」
「なに…」
「授業中にウォークマンで流行りの曲を聴いている女子が居た。イヤーホーンを髪で隠して。モーツアルトの弦楽四重奏のCDを流してわたしのピアノでモーツアルトの旋律と和声と美しさを伝えようとしている時だった。その女子は下を向いてモーツアルトと違うリズムを刻んで居た。それで気づいた。叱る気力が失せた。授業を準備するのが虚しくなった。わたし。何をやっているのだろう…と」
「そうか。音楽の授業は音大に進もうとする生徒以外には休憩だからな。でも俺の時にはケッコウ楽しかった。先生はお婆さんだったけれど音の楽しみ方を教えてくれたんだ」
「教わった音の楽しみ方って…」
「無限に展開されると思っていたコード進行のセオリーと意外性。意外性が発揮される最大はサビ。それをピアノで弾いてくれた」
「お婆さん先生のピアノはわたしと同じ試み。なのにわたしはウォークマン。お婆さん先生はReiから感謝」
「そう落ち込むなよ。のぞみさんは教師に向いている。教師と云う高みから知識を教え込もうとしない。俺は教え込もうとする教師は最低と思っている。自分の好奇心を満たしてくれた彼是と必要な大切のありったけを伝えようとする。そして自分もこれからを求めて探して居る。その根元には生徒たちと同じ目線と好奇心が在るから生徒から共感される。敬愛される。生徒たちの記憶に残る」
「褒められちゃった。ありがとう。辞めると決心できて気が楽になった」

 

 

 


 

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(上)の抜粋。『ホタテと瓢箪』その4。「無茶と無謀」(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その6。「決心」
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