（上）『ホタテと瓢箪』。その１５。「カタルーニアの独立」

　わたしは四階でＲｅｉの「ヒント」を探した。これを見届けたかった。大きなパネルが出口に在った。出口までは内戦時の写真と銃やゲリラ戦に用いた道具や武器が数々展示されていた。カルドナ城での暮らしも写真に。不思議なことに、みんな、笑顔でのどか。義勇兵も数人が村人と写っていた。みんな死を目前にした笑顔だった。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
『我々は戦った。レコンキスタでは村の存亡を賭けて。内戦ではＵｎｉｏｎの矜りを胸に。Ｕｎｉｏｎには外国人も義勇兵として参加していた。多くの村人が殺された。義勇兵も少なからず殺された。我々もファシストを殺した。ファシストたちにも故郷に家族が居る。戦さとは残酷で無残だ。敗れても屈しなかったのが我がカルドナ。亡くなった戦士の家族は生き残った村人で守る。皆で守り通す。義勇兵の遺骨はそれぞれの国へ送り届けた。レコンキスタでは勝利した我々。内戦では敗れた。敗れても我々の暮らしは続く。我々の戦いはこれからも続く。カタルーニヤの独立を成し遂げるまで』

　この記述が記念館の結び。二階からの展示の最後の最後は四階の出口。カルドナの村人たちの赤裸々な想い。わたしは胸を打たれた。胸が熱くなった。涙が零れた。昨夜読み終えたばかりの『カタロニア賛歌』が蘇った。作者は『カタロニアの人たちの、人なつっこく、おおらかで、どんな時でも人間味を喪わない笑顔に愛情と尊敬を強くした』と。『我々もファシストを殺した。ファシストにも家族が居る』はまさにそれを表している。『カタロニア賛歌』の賛歌とはカタロニアの人たちを敬い褒め称える詩なのだ。Ｒｅｉが語ったＵｎｉｏｎの具体的な記述は無かった。無くてもわたしは理解できた。何もかもが手に
取るようにイメージできた。Ｒｅｉが伝えてくれたお陰だった。Ｒｅｉはわたしと同じように胸をときめかせ、熱くして、時には眼球から零れ落ちる涙をぬぐおうともせずに、『カタロニア賛歌』を読んだ。そして一心不乱にＵｎｉｏｎを調べたに違いない。これが分かっただけでも来たかいが在る。
　わたしは三階と二階を素通りして外に出た。外では快晴の下で巨大な太陽がわたしを待って居てくれた。スペインは何処に行っても何処でも日陰に入らない限りは眩しい。傾いていても大きい太陽。
　内戦における共和国政府軍の結束の在り様はややこしい。分裂する危機を初めから内包していた。自由を愛する者たちはアナーキストと称された時代。ジョージオウェルが始末されていたならば後年の『動物農場』や『一九八四年』は世に出ていない。Ｒｅｉとわたしが、自由へ、突き動かされた『カタロニア賛歌』も。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　歴史記念館に仕舞い込まれた只ならぬ緊張にくたびれてしまったわたしはトボトボとパラドールカルドナに向かった。この記念館には待ち望んでいた歴史が在った。カタロニアの激動が在った。民族の鼓動と矜りが在った。わたしは息を止めて緊張に立ち向かった。急回転を続けた頭を緩めたかった。ところがそうゆかないのがわたし。のめり込んでしまうと何処までものめり込む。
　でもお腹が空いた。
　食事までは後一時間。先ずはシャワー。そうすれば頭が休まる。