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jean1949paul

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2021年5月10日
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2021年04月18日 08:00

(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その33。「大聖堂」

  大聖堂には一日一万人以上が訪れる。入堂を待つ人が広場に群を成している。巡礼者は整然と順を待ち、厳かに、菱形に分かれた左右の階段を上る。階段の幅は狭く、入場者数を制限している構え。
    入口の正面に立つと、威風堂々と建つバロック様式の大聖堂を見仰る。そうして栄光の門をくぐり、中央の支柱に手をあて、そして額を支柱の台座の凹みにつけ、己の願いの成就を「聖大ヤコブ」に祈り、無事に着いた巡礼の旅の終わりを感謝する。
 わたしは反則を承知で入堂を待つ人の群れを掻き分けて階段を上った。門の左に菅笠・金剛杖・白衣。首からカメラを下げたニックが立って居た。走り寄るわたしに気づき手を振ってくれた。
「予定通りの時刻に着いた。まだ彼らは来ていないと思う。犯罪者を捕まえるのではないから目立った方が良いと思った。池脇氏がこの姿を見た時には必ず僕に声をかける」         
 余裕を喪ったわたしは「ありがとう」を言うのが精一杯だった。
 わたしは入口の右に立ち巡礼者の入場を見つめた。
 二人とも大理石の柱を背にして立っている。
 夥しい人の流れから二人を発見するのは至難。

    けれども今はこれしか方法がない。
 佇んでいると、怪しまれたのか、警備員に咎められた。ニックは警備員に訳を話してくれた。彼はフェリー内で撮った二人の写真を二〇枚もプリントしていた。『We’re looking for two』が写真の裏に。そして彼の携帯番号が記されていた。
   わたしは写真をボーッと眺めているだけだった。再び近づいてきた巨体の警備員は「一〇枚欲しい。仲間にも渡す」と言ってくれた。
 この日は待ち人来たらず。簡単にはゆかないと分かっていても閉院の時には疲れが一気に出た。今朝の二人はガリシア海岸の入口ビベイロに居た。そこで音信を絶った。サンチャゴに着くのは最短で一二時頃。昼前にはニックが見張っていた。見逃してしまうことも在り得る。それを考えてしまうと窮余の一策の見張りは続けられない。実に頼り気ない窮余の一策。だからと云って他に見つけ出す手立てを考えても何も浮かんで来ない。
「今日の張り込みは無駄ではない。今日、来なかったのは生きている証し。明日が勝負処だな。明日も頑張ろう」
 ニックの励ましをわたしは上の空で聞いていた。「ホテルを探します」。これが、やっと、の返事だった。サンチャゴのホテルは何処も満室。わたしは大手旅行代理店の特権をフルに活用し遂にキャンセルされた二部屋を取った。 
                       
 ニックと一緒に遅い食事。わたしは沈み込んでしまい、会話は途切れがち。それでもドンヨリしていられない。ニックはわたしの応援に駆けつけてくれたんだ。今のままでは彼に失礼だ。
「私。見ました。支社長から渡されてスペインの子供たちの写真を。表情がとても良かった一〇枚でした」
「梶原さんは何かあれば俺を使ってくれるんだ。感謝している。子供たちは名刺代わりの売り込み。ちょうど一年前。フリーと言えば聞こえが良いかも知れないが名前が売れないと何時も仕事に飢えている。それで東京本社に飛び込み営業。その時に対応してくれたのが梶原さん。おかげで生き延びている。そして今回も…」
「ニックはどんな写真を撮りたいの…」
「そうだな。強いて言うなら子供たちかな。世界と社会と大人の矛盾は直接子供たちに襲いかかるから。子供たちは逃げたくても逃げられない。子供たちの一瞬の表情にすべてが現れる。それを逃したくないんだ」
「私。子供たちの人権を感じてしまった。安心して楽しく毎日を過ごすのが子供たちの権利。それを保障するのが大人の責務と」
「そんな風に言われたのは初めてだ。カメラマンはのぞみさんのように言葉で考えない。言葉で言い表せない瞬間に命を張る。在るのは良い写真か、ダメか。使えるか、使えないか。被写体の心を写し出しているのか、いないのかだけなんだ。心を写し出していたら見た人が強い印象を持つ。それぞれの印象を持つ。時として独り歩きする。そのひとつが子供の人権。それを保障するのが大人の責務と。それでも構わないのさ。そう感じてもらえたなら写真家としては光栄」
「ニックはピューリツアー賞を取ろうと」
「それを目標に据えた時が在った。でも俺には無理だ。俺が賞に近づくとしたら子供たちの写真だ。恐らく戦場に置き去りにされた子供たち。そこに俺が立っていたら必ず撮る。でも俺は撮る前に助けてしまう。必ず助ける。カメラマンとしては失格者なんだ」
「戦場に置き去りにされた子供たち。助けるのか、撮るのか。重い。わたしが見た一〇枚は戦場とは対極。でも息を呑んだ。子供たちを助けてしまうニックの写真と改めて分かった。優しい眼だね」
 この時初めてニックの眼を正面から見据えた。眼球が少し飛び出ている。黒眼が大きい。髭ダルマの眼球。瞳が大きいと言うべきなのだろうけれど瞳とは言えない。瞳だと見えるものを見る眼。ニックのは見えないものを見ようとする眼。威圧感すら在る。髭ダルマの眼光。これがカメラマンの眼なんだ。                                          
 わたしはニックの眼にどう写っているのだろう。少し怖い。けれど優しい眼。気に懸かっていた「ニックの重い荷物とは…」を最後まで尋ねられなかった。尋ねたかったけれど尋ねる時でもなかった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 


 

(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その32。「失踪者」(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その34。「未熟者」
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リターン

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『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』(圧縮ワープロ原稿)を添付メールで送ります。

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『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』『スパニッシュダンス(上)(下)』をワープロ圧縮原稿を添付メールで送信します。

支援者
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2021年7月

20,000

20000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。

20000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。

『どうせ死ぬなら恋してから(上)(下)』の書籍を郵送します。次に『未来探検隊』『スパニッシュダンス(上)(下)』『』アンダルシアの木洩れ日』のワープロ圧縮原稿を添付メールで送ります。

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