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jean1949paul

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支援総額

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目標金額 1,100,000円

支援者
0人
募集終了日
2021年5月10日
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2021年04月17日 08:00

(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その32。「失踪者」

 一行がサンタンデールの港に降りてから五日目の朝。これまでは天気にも恵まれ極めて順調。携帯が朝夕に全員と繋がる。わたしはカンタブリア海岸に近いヒホンで、皆の行程表を睨み、それぞれの状況と状態を書き込んだ。毎朝八時から携帯を手に連絡を取り始める。携帯がこの世に存在していなければ、この企画は成立しないとシミジミ思う。今日何も起こらなければわたしはラコールニャに。
    ニックとはアルタミラの翌日から別行動。
 成田からの道中で被写体に応じてくれた客に密着している。
    二人と連絡が取れない。どうしても携帯が繋がらない。仲の良いカップルだった。男は池脇慎一・二八歳・自営業。女はイギリス人のキャサリン・二五歳・留学生・実家はロンドン。呼び出し音がブーッブーッと一〇回ほど続くと、留守番電話に切り替わらずに切れてしまう。明らかに着信拒否設定。不吉な予感。今は九時四〇分。一〇時になるまで待って、もう一度、試みよう。それでも繋がらなければ支社長に対策を仰がなければならない。
    ショートメールの着信音が鳴った。
『池脇慎一とキャサリンはこれから消えます。探さないで下さい』
    ショートメールなら繋がるかもしれないと思い『ガイドの細川です。とにかく携帯が繋がるようにお願いします』と送信した。しかしメールは届かずに戻ってきた。失踪。ひょっとして心中。 
    わたしはパニックに陥りかけていた。相手の一方的な遮断で携帯が繋がらなくなり、安否確認が出来なくなるとは考えてもみなかった。例え繋がらない時があっても、それは何らかの事情による一時であり、直ぐに繋がるのが大前提だった。
『これから消えます。探さないで下さい』
    何と云う身勝手。消えるのは勝手だけれどツアーの責任者のわたしと会社が探さないで済まされるはずがない。ニックに電話した。彼は『JTC』の社員で無ければ委託を受けたガイドでも無い。支社長の教訓が活きた。
「使える者は誰でも使う。それが私で在っても遠慮は無用。特にピンチの時には後先を考えてグズグズしてはいけない」
 ニックは成田から三〇人と同行。ロンドンとリバプールにも池脇慎一氏とキャサリンと一緒に行っている。わたしの知らない何かしらの情報を持っている可能性が大。直ぐに電話に出てくれた。  
「彼は直江津にある浄土真宗の寺の跡取り。キャサリンは代々、受け継いできた敬虔なカトリック。それもイエズス会。彼女は身籠っていて五ケ月。『僕達はどんなことがあっても今生では一緒になれない』と彼はポツリと語った」      
「心中の可能性ありだね」   
「心配だ。池脇氏は心が強いタイプではないと感じている。『これから一〇日も時間がある。異教徒であってもヤコブの聖霊に触れ、これからに集中して希望を見出そうじゃないか。巡礼の旅に出る者は何かしらの重い荷物を背負っている。俺もそうさ。それと正面から向き合って、これからの力を宿すのが巡礼の主題』と言うと、彼は俺の両手を強く握り、大きく眼を開き、何度も頷いていた」      
「キャサリンの実家はロンドンと会社のデータに残っている。彼女は実家に立ち寄らなかったんでしょう…」                      
「一緒にロンドンからリバプール行きの列車に乗ったから…」                  
「わたしなら一時間でも両親に顔を見せる」                
「婚前に身籠ったとは言えなかったんだと思う。キャサリンは両親に受胎を告知できないから大ヤコブに告げようとしている。だから告げるまでは二人とも生きている。カトリックは自殺を禁じている。これは救い。男は極楽浄土の僧侶。救いにはならない」            
「ありがとう。助かりました。サンチャゴの大聖堂に賭けます。私は大聖堂で二人を待ち受けます。ヒホンからは五時間で着きます。とにかく見つけ出さなくてはなりません」          
「俺も急いで向かう。ラコールニヤからだと二時間で着く」
    わたしはフローリカに事情を伝えた。
「のぞみは急いでサンチャゴに行きなさい。私はツアーを守る」
    それから支社長に全てを報告しサンチャゴ行きの決裁を仰いだ。
「悔いを残すな」  
    数珠とクロスの不条理に打ちのめされている二人に、わたしは少しずつ怒りが込み上げてきた。心が弱い。弱すぎる。イクジナシの典型。結婚できなくても、励まし合って共に生きてゆける。一緒に暮らせなくても二人で子供を育ててゆける。子供が大きくなった時には二人の絆と、苦労を必ず分かる。そしてこの世に生を受けた自分を誇らしく想う。
 …宗教者がどうして分からないのだろう…
 わたしはサンチャゴ行きのバスに乗って、これまでのスペインを、取り留めなく想い起こしていた。何の当てもなく、勢いだけてやって来たわたし。幸運は長くは続かない。初めての試練が訪れた。
 

(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その31。「アルタミラ洞窟」(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その33。「大聖堂」
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リターン

5,000

応援してくれた方には直ちに感謝のメールを送らせてもらいます。

応援してくれた方には直ちに感謝のメールを送らせてもらいます。

『どうせ死ぬなら恋してから(上)(下)』の書籍を郵送します。

支援者
0人
在庫数
200
発送完了予定月
2021年7月

10,000

10000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせてもらいます。

10000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせてもらいます。

『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』(圧縮ワープロ原稿)を添付メールで送ります。

支援者
0人
在庫数
200
発送完了予定月
2021年7月

15,000

15000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。

15000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。

『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』『スパニッシュダンス(上)(下)』をワープロ圧縮原稿を添付メールで送信します。

支援者
0人
在庫数
200
発送完了予定月
2021年7月

20,000

20000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。

20000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。

『どうせ死ぬなら恋してから(上)(下)』の書籍を郵送します。次に『未来探検隊』『スパニッシュダンス(上)(下)』『』アンダルシアの木洩れ日』のワープロ圧縮原稿を添付メールで送ります。

支援者
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200
発送完了予定月
2021年7月
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