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jean1949paul

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2021年04月16日 08:00

(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その31。「アルタミラ洞窟」

    眼にした様々な事象を在りのまま書くのでは意味が無い。ガイドマップの写真を眺めているのと同じになる。様々な事象には背景が在る。自然にしても歴史的建造物にしても人間にも。自然を描くのが最も難しい。自然を形成した背景を描き今に繫げたとしても人間はポツンと置かれているだけ。人間は自然に働きかけられない。せいぜい自然の景観を眺め何を感じ想うのか程度。自然と人間には隔たる距離が在る。距離を縮めようとすると陳腐の極まりに。ここで気づいた。わたしが書きたいのは自然では無い。人間なんだと。
 歴史的建造物には建てた人の想いが在る。それを見つめている人にも想いが在る。建つまでの歴史と建ってからの歴史を共有する人たちの想いとは感慨。わたしはこの感慨を書きたい。感慨を体験したわたしには書く前と書いている最中と書き上げた後に必ず変化が起こる。この変化も書かなければならない。いいえ。この変化こそがノンフクションの醍醐味と想う。わたしの心象が変化する心模様の連続にわたしの今が在る。わたしは書く前と書いている最中と書き終わった時とでは同じで在るはずが無い。同じならノンフィクションを書く意味が無いのだ。そして読む人にとっても面白くない。これは間違いの無い処
だ。今のこの模索がノンフィクションの書き手の心得として成立しているかどうかは分からない。けれど支社長の期待には応えられる。人間を描くとは対象者と書き手のわたしの心模様なのだ。それが繋がった時には何かが生まれる。
 
 岸壁に横づけされたプリマスからのフェリー。

 いよいよ巡礼の旅が始まる。   

 三〇人の客が直ぐに識別できるよう『ホタテと瓢箪』を描いたプラカードを掲げ、皆が桟橋から降りて来るのを待ち受けた。わたしの周りに一人、また一人と集まってくる。大きなリュックとトレッキングシューズが客の目印。
    一人、異彩を放つ男が降りてきた。菅笠で顔を識別できない。白衣の上下。白い手甲と脚絆。草鞋を履き白足袋。首からは紫の下地に金色の刺繍が入った輪袈裟。白の頭陀袋を肩に担いでいた。完璧なお遍路さん姿。ひょっとしてカメラマンかも…。
 男は金剛杖に瓢箪を括りつけていた。桟橋から降りると背中を見せた。そこには両手大のホタテの貝殻がカラーでプリントされていた。彼は振り向くと右手でゆっくりと菅笠を上げた。やはりカメラマンだった。彼は菅笠の中から笑顔で近づいてきた。全員が集まった。わたしはひとり一人の名前を読み上げて確認。「沢田研一さん」と呼んだ時には客から「ニック」と拍手が起こった。

『ホタテと瓢箪』の初日が始まった。
 朝の八時にサンタンデールの港を出発。アルタミラ洞窟までの歩き。全員が参加。わたしが先頭に立つ総勢三二名の行進。
  九月中旬の北スペインの天候は安定していて晴れの日が多い。そしてさほど暑くない。ハイウェイの国道を歩くのは危険極まりないけれど聖地までは千年以上も前からの巡礼の道がある。この道に車は入って来ない。海沿いの丘陵に拓かれた畑の中の道。遠くまで繋がっているのが見渡せる。黙々と歩く。眼下の海面が陽光を浴びてキラキラと輝く。ニックは今日もお遍路姿。昨日と違うのは折り畳みのドローンを背負っていた。「隊列を整えて歩かず自分のペースでの歩みが大切」と出発前に伝えた。今のところは無駄。日本人は隊列を組むのが好きなようだ。
 ニックがドローンを飛ばした。当然のことながらドローンにはカメラが備え付けられていた。それも二台。一台は動画用。もう一台は連写可能なカメラ。どちらも遠隔操作。三〇人は空を見仰げ嬉しそう。表情はみんな晴れの舞台の主人公。これだけでも上々の滑り出し。満足そう。ドローンの演出は大成功。
    三時間を過ぎると単身参加の中年女性が遅れ始めた。彼女は太っていた。わたしも隊列を維持しようとしていた。この調子でもフローリカが昼食を用意して待つ地点までは余裕。
  わたしは小学生の引率の先生のよう。ときどき振り返って様子を見る。次第に隊列が縦に長くなってゆく。ニックはドローンを背負い前に出たり後ろに下がったりしてシャッターを押していた。
 最後尾の中年女性の歩きがオカシイとニックがわたしに伝えに来た。わたしはニックに引率を頼んだ。彼女は左足を引き摺っている。トレッキングシューズは新品。「豆ができたみたい」と彼女は顔を歪めた。わたしは彼女にリタイアを促し中村君に「迎え頼む」と電話。事前のシュミレーションが生きた。 

 

    アルタミラ洞窟は『最も美しい村』と呼ばれているサンティリャーナ・デル・マル村の外れに在る。丘陵に向かう一本道を二キロ登ると洞窟の入り口に着く。北スペインは中南部と違って緑が多い。緑の北スペインは美しい。赤土と緑の畑や草原。青く高い空と白い雲。太陽に照らされた輝く海と白波。このコントラストが透き通った大気に浮き出る。浮き出た風景と景色が良い。夕方も悪くない。傾いた太陽には情緒が在った。
    アルタミラ洞窟がわたしの初舞台。緊張気味。
「この洞窟は雨水が石灰岩を浸食して形成され、かなり奥まで続いています。全長で二五〇メートルほど。ここに一万六千年前から人が住んでいました。今、皆さんが立っている処は天井が高く生活の中心部です。火を焚いても煙が外に逃げてゆく。多くて二〇人が暮らしていたと推測されます。家族・血縁者の共同生活です。時には見知らぬ人も訪れたに違いありません。食べ物が不足していなければ争いは起こらず、見知らぬ人は未知の世界を知る情報提供者として歓迎されたでしょう。洞窟の奥には食料となるバイソン・鹿・馬・ヤギが描かれています。特にバイソンの頭と逞しい肩の描写がリアル。絵の具はベンガラと煤です。この岩絵からは食べ物に困っていたとは思えません」

 

 全員、シーンと聴いてくれている。

 

「一万六千年前は日本では縄文時代の幕開け。氷河期が終わり、日本は大陸から切り離されました。既にマンモス・ナウマン象と云った大型獣を獲り尽くし、そこに追い討ちをかけたのが温暖化。草原が森に変わり、鹿や猪、熊を狙う狩りは困難に。人間は森と共存できなければ餓死してしまう情況。幸いなことに森には沢山の恵があったのです。ドングリ・栗・トチの実。四季折々の果実、そして茸などなど。それらを調理・保存する必要が土器を生み出しました。ここからは土器が出土していません。食料は何時も身近にあり保存しなくて済んだのが理由と思われます。アボリジニの人達と同じです。彼等も土器を作りません。アルタミラの人達も一万一千五百年前までここで豊かに暮らしていた。その象徴が岩絵です」 
 

    拍手が起こった。嬉しくて深々と頭を下げた。
 カメラの連写のシャター音が聞こえた。
 わたしは照れてしまって顔を上げられなかった。


 

(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その30。「ニック」(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その32。「失踪者」
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