日本遠征(前編)からの続き

 

【3月8日】古賀塾訪問、合同稽古

この日、ブータン柔道協会会長・夫人が東京に到着、午後から合流し、講道館館長と全日本柔道連盟事務局長にご挨拶。記念として、ブータンのタンカ(チベット仏教の仏画、曼荼羅)を贈呈した。その後、夕方から生徒たちを連れて神奈川県川崎市の古賀塾を訪問した。道場主の古賀稔彦先生(バルセロナ五輪金メダリスト)はReadyForの呼びかけの際に全面的にサポートしていただき、その後98枚もの畳の寄贈とともに、2月にはブータンの道場を訪問してくださった。そして今回、ブータンと日本の道場の草の根交流が実現したのだ。古賀先生が「昔ながらの日本の街角道場」をイメージしてつくったという古賀塾は自宅に併設されており、決して大きな場所ではなかったが、溢れるくらいの子どもたちが集まっていて活気に満ちていた。私も以前、日本の小中学生に柔道を教えていたが、日本で柔道をしている子どもの数は減る一方なので「道場運営」という観点からもとても勉強になった。2020年の東京オリンピックに向けて柔道が再興し、このような光景が日本のいろいろな場所で見られればよいなと思った。

 

けん玉初体験

 

ブータン柔道協会会長ご夫妻来館、古賀道場訪問(講道館ウェブサイト)

 

「柔の心を伝えたい」青年海外協力隊がつなぐ五輪金メダリストとブータン――ブータン唯一の柔道チーム来日、古賀稔彦さんが稽古(JICAウェブサイト)

 

【3月9日】応急処置講座、歓迎会

この日は午後から応急処置の講習を受けた。講師は協力隊柔道隊員OBの安部勇次先生。安部先生からは、熱中症や脳震盪などの症状や、けがをした際のアイシング、テーピングの技術などを学んだ。これらの知識は今後、ブータンの道場で役立っていくと思う。その後、歓迎会の会場であるJICA市ヶ谷に早めに移動し、ブータンで美術教師として活動していた元隊員が働いている「JICA地球ひろば」を見学した。

 

テーピングの練習

JICA地球ひろば

 

その後、日本ブータン友好協会、在東京ブータン名誉総領事館が主催してくださったパーティーに参加し、夕食を楽しみながら今回の遠征の支援に対する御礼を述べ、メンバーの紹介などを行なった。この会では、在東京ブータン王国名誉総領事や、元JICAブータン事務所長の他、日本とブータンの親善に長年貢献されている方々にお会いすることができた。

 

 

応急処置法の講習を受けました(講道館ウェブサイト)

 

【3月10日】浅草観光、蕎麦打ち体験

午前中は浅草観光、昼から講道館の地下にあるキッチンで「蕎麦打ち体験」なるイベントに参加した。講師は松井勲先生、椛澤先生、荘先生とそば職人ではなく、いずれも警察で柔道の師範をされていた(現在は退職)高名な先生方で、全員八段であった。その方々に柔道ではなく、そばの打ち方を教えてもらえるのだからある意味とても贅沢な時間であった。元々、寿司職人による「寿司づくり体験」はどうかという話だったが、生魚を食べる習慣がなく、メンバーの中にはベジタリアンが2名いるので、「他の料理を」ということでこの蕎麦打ちが実現した。結果的にこの蕎麦打ちとその後の食事(手づくりのそばとつゆ、かき揚げのてんぷらなども用意していただいた)を生徒たちは大いに楽しんだ。夕方からは毎月一度、講道館で行なわれている月次(つきなみ)試合にコーチと事務局長が参加した。この試合は段位ごとの勝ち抜き試合で、勝利の数に応じて昇段のためのポイントが加算されるというものである。生徒たちにも参加させたかったが、神戸での試合を控えているため参加は見送られ、大人2名のみの参加となった。

 

 

 

蕎麦打ち体験を行いました(講道館ウェブサイト)

 

【3月11日】閉講式、神戸へ移動

東京滞在最終日、この日は10時から講道館館長立ち会いのもと、閉講式が行なわれ、生徒一人ひとりに修了証が手渡され、記念撮影をして講道館の一週間にわたるプログラムが終了となった。その後、東京駅に向かい初めての新幹線に乗り、神戸へと向かった。

 

 

閉講式を行いました(講道館ウェブサイト)

 

新神戸の駅のホームで甲南大学柔道部部長の山崎先生(ブータン初代コーチのお父上)や兵庫県柔道連盟の方々(2012年9月にブータンの道場を訪問)に迎えていただき、ホテルにチェックインして、しばし休憩、夜はホテルの中の会場で歓迎会を開いていただいた。ここで、「自他共栄ブータン柔道を支援する会」(山崎先生や自他共栄杯の主催者、兵庫県柔道連盟関係者)や神戸ブータン友好協会関係者、在大阪ブータン名誉総領事など、関西の支援者の皆さまにお会いすることができた。

 

 

柔道通じて日本とブータンが交流(朝日新聞)

 

【3月12日】灘高校合同練習、シンポジウム

午前中は、日本有数の進学校としても有名な神戸市東灘区の灘高校を訪問。(私立の男子中・高で、姫路市立の灘とは別)この地域で古くから酒造業(菊正宗、白鶴)を営んでいた嘉納家が設立し、長く教育者として活躍してきた講道館柔道創始者の嘉納治五郎先生も顧問として関わっていた学校である。その関係で校是は「精力善用」と「自他共栄」、体育の授業とは別に柔道の時間があり、全校生徒必修となっているそうだ。当初は灘中・高校の生徒たちだけと合同練習をする予定だったが、講道館から上村館長がゲストとして見えることになって近隣の強豪校、報徳学園や神戸市立科学技術高校などからもたくさんの柔道部員たちが集まり、かなり大きい規模の合同練習となった。ごつい高校生たちに囲まれ、ブータンの生徒たちは道場の隅で小さくなっていた。

 

 

ブータンの柔道選手団、兵庫の高校生と交流 神戸(神戸新聞)

 

午後は日本武道学会柔道分科会のシンポジウムが講堂で行なわれ、私と柔道協会会長・夫人は登壇者として参加した。その間、生徒たちは灘高の英語教師であるマーク氏の案内で、学校のクラブ活動を見学させてもらった。シンポジウムのテーマは、「これからのグローバル社会において中学校・高等学校の柔道教育がもたらすもの」で、ブータン柔道協会の発表は私がブータンの柔道のはじまりから現状、展望などを話し、その後柔道協会会長がコメントをし、それを夫人が通訳、という構成で行なった。会場には講道館館長の他、高校生や大学生もいたので、途上国の柔道や青年海外協力隊の活動について知ってもらう良い機会になったのではないかと思う。詳しい内容は、後日「武道学研究」という学術誌に掲載される予定とのことであった。

 

 

「日本武道学会柔道専門分科会」「KOBE 自他共栄 CUP 実行委員会」共催シンポジウム(プログラム)

 

神戸で柔道シンポ ブータン協会、普及状況語る(神戸新聞)

 

【3月13日】自他共栄杯

自他共栄杯に参加するため、朝からグリーンアリーナ神戸に移動。この大会は、「阪神・淡路大震災から10年を機に、兵庫県神戸市東灘区御影町に生まれた嘉納治五郎師範の精力善用・自他共栄の理念の実践を目的として、長い歴史と伝統がある神戸市学生柔道優勝大会を発展させたもの」で、今回で12回目。全国から男子33、女子32チームが大学の団体戦に参加する大きな大会だが、その中で特別に神戸市の選抜2チーム(男子5名、女子2名)と特別試合を組んでいただいた。互角に戦えるよう、冬休みの間にたくさんのトレーニングを積んできたつもりだったが、経験や体格で勝る神戸選抜チームを相手に惨敗、唯一、講道館で誕生日を祝ってもらったキンレイが背負い投げで有効ポイントを取り、勝利を挙げた。勝敗にこだわりはないが、一勝できたことは彼らの励みになったのではないかと思う。会場には、元JICAブータン関係者の皆さんが民族衣装やブータンカラーの服装で応援に駆け付けてくださった。さらに、ブータンの柔道を応援してくれているオーストリアのオリンピック選手、サブリナもトレーニング先から駆けつけてくれた。この大会の様子は、NHKニュースに取り上げられ、地域版、全国版、さらにNHK WORLDでも放送されたようで、「ブータンで見た」という嬉しい報告もあった。

 

ブータンチーム唯一のポイント、有効を奪った背負い投げ

日本でトレーニング中だったサブリナ選手(オーストリア)も応援に

 

ブータンの若者 日本の学生らと柔道親善試合 神戸(NHKニュース)

(ニュースの冒頭、「JICA(国際協力機構)などの呼びかけで行なわれた親善試合」とありますが、実際には、「JICAがNHKに情報提供をした」という誤りです)

 

柔道自他共栄杯 ブータンの17歳が日本選手破る(神戸新聞)

 

【3月14日】甲南大学表敬訪問、朝日飲料明石工場、淡路島見学

この日は甲南大学理事長の吉沢英成氏と学長の長坂悦敬氏を訪問した。以前に私立大学で働いていた私にとっては、少し懐かしい雰囲気を感じる場所であった。その後、別のキャンパスに移動し、前日の試合に参加した選手たちが合同で行なっている稽古を見学した。

 

かしこまった席に緊張気味の様子

 

午後からはアサヒ飲料明石工場を見学、その後、世界最長のつり橋と言われる明石海峡大橋を渡り、淡路島で観覧車に乗せていただいた。

 

【3月15日】神戸市役所表敬訪問、船に乗り帰路へ

午前中はホテルから徒歩で数分の距離にある神戸市役所に玉田敏郎副市長を訪ねた。午後は市内の100円ショップなどに連れてってもらい、ブータンの家族や友人にお土産を購入した。夕方、ホテルに預けていた荷物を受け取ってお世話になった方々との別れを惜しみ、船に乗って関西空港へ移動。海の上の船は、生徒たちにとって初めての体験であり、さらにポートライナーが自動無人運転であることにも、とても驚いていた。空港で日本最後の夕食を済ませた後、16日0時台の飛行機に乗りバンコクへ、早朝にブータン行の便に乗り継いで約2週間の行程を終えた。

 

柔の心 ブータンで咲け(毎日新聞 ほっと兵庫)

 

 

 

 

 

【そして】

ブータンに戻った後、JICA短期ボランティアのコーチを迎え、すぐに練習を再開しました。コーチは現役大学生で、生徒たちと年齢も近いのですぐに打ち解け、一ヶ月の滞在を楽しんだようです。

 

折り紙教室

浴衣の着付け

タクツァン僧院

 

そして、5月中旬には昨年と同様、大会に参加するため、陸路ネパールへ。日本遠征では、支援者の方々が差し入れをしてくださったこともあり、予定していたほどは食費の出費がありませんでした。そのため、余った支援金はネパール遠征の経費にも使わせていただいたことをご報告します。

 

豪雨のため、試合場が冠水するというハプニングも

ここでもキンレイががんばりました

ネパールとブータン、日本の交流も続きます

ネパール遠征メンバーの半数は、日本遠征メンバー以外から選びました

 

 

また、日本滞在中には、私の恩師や練習仲間、両親からさらなる支援がありました。これらは、皆さまからの支援の残額と合わせて、IJF(国際柔道連盟)公認柔道着の購入費用に当てさせていただきました。柔道着は日本で発注し、現在ブータンへ輸送している最中ですが、このIJF公認マークの付いた柔道着(白と青を各一着ずつ)、適格なサイズを揃えないと、公式の試合に出ることができません。近い将来、国際柔道連盟、アジア柔道連盟に加盟し、公式の試合に出場することを望んでいるブータン柔道協会にとって必須の物で、長く大切に使えるもの、という観点から柔道着を購入しました。

 

日本遠征(その後)に続く

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