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通常医療が提供困難な状況で、1人でも多くの命を救うプロジェクト
【令和6年能登半島地震】地震発生から124時間、倒壊家屋に埋もれた90代女性を救出
2024年1月6日、午後8時30分頃、倒壊した家屋から90代の女性が救出され、救急車で搬送。珠洲市内の病院にて治療を受けています。地震発生からおよそ124時間がたった出来事で、この奇跡ともいえる救出において救助医療処置を担ったのが、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”のプロジェクトリーダー、稲葉基高医師です。
その奇跡の瞬間を、稲葉医師が振り返ってくれました。
2024年1月6日午後5時頃、緊急消防援助隊より本部に「珠洲市内にて倒壊した家屋に埋もれている女性あり」との連絡があり、ドクターの出動要請がなされました。
倒壊家屋のような狭く限られた空間で処置や救出を行うには、CSM(コンファインド・スペース・メディスン)と呼ばれる、特別な救助医療処置技術が必要で、その場にいたドクターの中でCSMの技術と知識を持ち合わせているのは、稲葉医師のみ。
稲葉医師は、看護師1名とともに出動し、現場に急行しました。
本部には必要な薬がなかったため、別の看護師に薬を調達し時間差で持ってくるように指示。
現場には100名を超える消防と警察が集まる騒然とした雰囲気のなか、稲葉医師と看護師は倒壊した家屋のなかに入っていきます。
女性は、つぶれた家屋の中で顔と手は見えるものの、脚ががれきに挟まれて身動きがとれない状態。
災害時における行方不明者は通常、72時間以内に救出できないと助かる確率は急激に落ちるといわれています。
発見されたのは、被災してから約120時間。絶望的な状況でしたが、女性に稲葉医師が声をかけると、かすかなうめき声が聞こえ、さらに手をさわると軽く握り返したことから、稲葉医師は「いけるかもしれない」と希望を持ったといいます。
こうした状況で疑われるのが、クラッシュシンドロームです。クラッシュシンドロームとは、長時間、がれきなどに挟まれていた傷病者が何も処置をせずに救助されると、突然容態が悪化し体への急激なショックが生じて死亡してしまうという病状で、救出する前に適切な処置を施す必要があります。
稲葉医師は、見えていた左手と首の左側の2カ所から点滴を施し、さらに必要な薬を投与。クラッシュシンドロームの危険性を抑えるための医療処置を施していきました。
現場は滑りやすく、雨が降りしきるなか、さらに余震も発生。時折退避命令が出る状況で、安全を確保しながら処置できる時間は限られ、患者に寄り添えるのはほんのわずかな時間。レスキュー隊から患者の容態を随時確認しながら慎重に処置を続けるのと並行して、受け入れ先の準備も進めなければいけない。
時間は慌ただしく過ぎながら一刻の猶予もない、逼迫(ひっぱく)した状況が続きます。
発見されてからおよそ3時間。
処置をはじめた当初は脱水、低体温症の症状が見られ、体は冷え切ってかなり危険な状態でしたが、点滴や薬を施しながら体をあたため続け、クラッシュシンドロームの危険性を抑えられたことを確認してからレスキュー隊が救出。ABC(気道・呼吸・循環)が確認されると、女性は待っていた救急車に運び込まれ、病院に搬送されました。
処置中も周囲からは「がんばれ! がんばれ!」の励ましの声が絶えず、女性が救出された瞬間、現場には大きな歓声が上がったといいます。
救急車のなかで女性に付き添った稲葉医師が「お名前は?」と聞くと、女性はしっかりと答えたそうです。稲葉医師によると、まだ予断を許さない状況に変わりはありませんが、こうした救出劇は前例がないことだといいます。
病院で患者を別の医師に引き継ぎ、病院のなかへと搬送される患者を見ながら、稲葉医師は「本当に心から嬉しい気持ちであふれた」と振り返りました。
「いろいろな災害医療を続けてきたけれど、ここまで完璧に処置ができた上で救出できたのははじめて。ほかでもあまり聞いたことがない。警察、消防、医療が連携して、いろいろな奇跡が重なった結果で、あとは本当に無事に元気になってくれることを祈るだけです」
女性の状態は安定しており、翌朝には会話ができるまで回復しました。この出来事によって稲葉医師は、「まだ救える命がある」という思いがあらためてこみ上げてきたといいます。
その強い意志を持って空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”は、一秒でも早く、一人でも多くの被災者を救うために、支援活動を続けています。
皆様のあたたかいご支援をよろしくお願いします。
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