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支援総額

24,000

目標金額 1,200,000円

支援者
6人
募集終了日
2020年9月25日

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2020年08月26日 04:10

短編の他作品になります。宜しければご覧ください!

弱きを助け、粗略を挫け

 

 

 白血病。

 それは私の名前だろうか。

 

 そう告げられてから私の世界は、この小さな檻の中だけとなった。顔を上げれば楽しそうにじゃれ合うモノたちが自由な時を謳歌している。

 

 私が何をした?

 私は、私の事が解らない。

 

 身を小さく丸め孤独の温もりに埋まると触れた左右の壁が脆弱な体温を奪い去る。この世界に私の居場所は無く、私の存在は許されない。

 

 ある時、私に気付き歩み寄るモノが居た。しかしアノ男は私に近付こうとしたモノを大きな声で怒鳴りつけたのだ。初めて聞いた怒鳴り声に小さな私の心臓は破裂してしまいそうな程、激しく脈を打ち小さな胸は、きつく締め付けられる様に苦しかった。では何故、生かし続けるのだろう。さっさと殺せばいいものを。  

 

 目を閉じれば蘇る。アノ男と出逢った日の事を。回顧する穏やかな陽だまりでは私を愛でるアノ男が今日も優しく微笑んでいる。幸せだと、これが幸せなんだと思い、その胸で抱かれるまま抵抗する事は無かったのだ。

 

 アノ男と出逢う前の私は奔放な性格も相まって同じ場所に留まる事はせず宛てのない旅を続けていた。着の身着のまま自由な大地を闊歩し、食べたい時に食べ、眠りたい時に眠るだけ。行きずりの恋に身を任せた時もあったが今では遠い昔の様に想う。

 

 自由を得る代償として自分の身は自分で守らなければならない。思えばあの時、既に疲れていたのかもしれないな。

 

 フッ・・

 と口角を上げてしまった自分を正し、窮屈な檻の中で少しだけ伸びをする。

 

 敗北など考えた事も無い。

 私が産まれた地域は無情な程に白が降り注ぐ凍てついた大地であったが生き抜く為に皆、強かった。

 

 例え自然が、愛を育まずとも。

 例え誰かが、愛を育まずとも。

 

 私はこの世に生を受け、生まれたのだ。

 

 例え両親が居なくとも。

 例え兄妹が居なくとも。

 

 生まれたならば生きねばならない。

 

 何かに紛れ

 何かに塗れ

 何かに怯えて生きてきた。

 

 白が溶け出すと舌が痺れる痛みだったが背に腹は代えられない。水で満たさねば死んでしまう。ここは駄目だ、もっと温かい場所は無いのか。

 

 こうして私の旅が始まったのだ。

 

 どの位の時と、どの位の距離を歩んで来たか。

 泥を啜り、塵を漁り、それでも私は生きてきた。

 

 そうして、ようやく辿り着いたのだ。

 

 初めて覚えた感情、生まれて初めて感動した。

 澱んだ空気を振り撒き続ける建物たちから澱みを、汚れを吸い込む様に突如として現れた悠然と聳える木々。広大なその中には見渡せぬ程の水溜りがあり淵には色鮮やかな桃色が己の顔を覗き見ながら上下に彩を添えていた。

 

 探し求めた安住の地。

 それはここだと本能が告げる。

 

 珍しく高揚したのか足取りも軽く、水溜りに浮かんだ大きな鳥を眺め歩いていた。あの白い鳥は何だ? 人間が二人、鳥の中に居るではないか。成程、そうか。この安住の地では醜い争いも無く皆、仲良く暮らしているのだろう。

 

 気の抜けた私は、目の前に現れたモノたちの気配に気付けず不意打ちにより片手に大怪我を負った。

 

 一対三が卑怯だとは思わない。

 不意打ちが卑怯だとも思わない。

 

 これが、これこそが自由の代償なのだ。

 美しく見えるソレには、いつだって死が付き纏う。愚かにも気を抜いた私は死を覚悟したが、その時私の命を救ったのがアノ男だった。大声を挙げながら駆けて来るなり動けない私を抱えると、その場から直ぐに逃げ出す。正直、格好良いとは呼べないものの命を救われた私にとって、かけがえのないモノを感じたのは確かだ。

 

 安堵からか急な眠気に襲われ、薄れゆく景色の中に意識を手放す。

 

 

 気が付いた時には優しく微笑みながら私を愛でるアノ男が居た。光を反射する銀の台上に横たえ、ここが何処かと不安に思う気持ちと初めて感じる暖かな温もりが鬩ぎ合い勝ったのだ。

 

 いつまでもこうしていて欲しい。そう思った矢先、他の見知らぬ男が近付き思わず威嚇しかけたがアノ男に制止され、掻くように強く愛でられると感情の昂りは次第に落ち着いていった。

 

 白血病。

 確かに、そう聞こえた。

 

 もちろん意味など知る訳も無いが昔、旅先で出会ったモノに聞いた事がある。【名前】と言うらしいが、どうやらそのモノを指し示す目印の様なモノかと聞き流した。

 

 白血病。

 確か当時、聞いた話では、もう少し端的な印象を受けたと思うが何より私にも目印が、居場所が与えられたようで心地良かったのを覚えている。しかしアノ男は私に向き直り一度だけその名を呟くと哀れんだ眼で見下ろしていたのだ。

 

 私には解らず、ただ愛でる手が止まってしまった事が何より悲しく生まれて初めて人に擦り寄ってみた。

 

 自分の姿を俯瞰し、何だか照れ臭くて伏し目がちに男の顔を覗き見る。

 

 辛かった。

 悲しかった。

 

 今まで生きてきて幾つもの感情を覚え苦しみを乗り越えて来た筈なのに。この時、抱いた感情はそのどれもを軽々と凌駕し感じた事も無い羞恥心と罪悪感が塗り潰し、身を焦がした。

 

 私が何をしたのだろう。

 私は何をしてしまったのだろう。

 

 後方に飛び退いたアノ男は慌てて私が擦り寄った箇所を必死で拭っていた。

 

 茫然と立ち竦む私の腕に、もう一人の男が何かを刺すと小さな檻へと促され再び遠のいていく意識の中で安らぐ緑の風と自由な匂いに包まれる。

 

 

 

 まだ間に合うのなら心から謝罪したい。

 擦り寄ってはいけないと知らなかったのだ。私には親も兄妹も居らず触れ合い方も知らなかったが、あの時アナタが愛でてくれて嬉しかった。ただもう一度、その手で愛でて欲しかったから私は頬を寄せてしまった。

 

 もうしないから、もう一度だけ愛でて欲しい。他のモノたちが目の前でされている様に私の事も愛でて欲しい。手狭な檻にも慣れたから。もう一度だけ触れて欲しい。

 

 私の声は届かない。

 私の叫びは届かない。

 

 騒ぎ立てる他のモノたちの声に顔を上げると目の前にはアナタが立っていた。ようやく巡って来たのかと小さな胸を躍らせたが檻ごと持ち上げられ私と目が合う事は無かった。

 

 何度呼んでも

 何度叫んでも

 

 私の声は届かない。

 

 今度は何処へ行くのだろう。

 乗せられた白く大きな動く箱は上下に激しく揺れている。立つ事も横になる事も出来ず揺られるまま身体中に痛みを覚えたが何より心が痛かった。この時もう一つ思い出したのが我々の種族が迎える宿命についてだ。やたらと詳しく教えてくれた物知りな良い奴。だけど自由を求めた私は共に歩むことを拒んだのだ。最後に教えてくれた事、それが我が種族の宿命だった。

 

 一年という単位は解らなかったが桃色が緑になり、赤々と燃える様に彩ったあと枯れていく。そしてまた彩を付けるまでの間に同じ種族が七万頭殺されるそうだ。七万という単位も私には理解出来なかったが心配そうに見送る素振りから、とても多いのだろう事は分かった。そのモノたちは増え過ぎたから殺されるのだと言っていたが何故そうなってしまったのだろうか。

 

 この白い箱の行く先は判らないが恐らく私は殺されるのだろう。ならばせめて、ようやく辿り着けた桃色を。水溜りに映える彩を、もう一度観たい。何より最後にもう一度だけ触れて欲しい。

 

 私は誰だ。

 私は何だ。

 

 生きていてはいけなかったのか。

 擦り寄った事が過ちだったのか。

 

 檻ごと壁まで吹き飛ぶと私は小さな天井を見上げている。白い箱は止まり何処かへ着いた様だ。私に待っていたのは安住では無かったが、せめて最後に感謝くらい述べてもいいだろう。

 

 ごめんなさい。

 ありがとう。

 

 最後まで眼が合う事は無かったが声は届いていたと信じたい。

 

 私の檻は見知らぬ人間に手渡され、アナタは振り返る事無く行ってしまった。自らの失態と無知を恥じる。

 

 ごめんなさい。

 

 

 

 傷心に俯き、間も無く終わる命について回顧する。

 どんなに反省を繰り返してもアナタはもう戻らない。ふと顔を上げると二人の人間が檻を開け手を伸ばし入れてきた。殺される、もう終わってしまう。私は生きていては駄目なのか、もう何もかも許されないのか。

 

 昂った感情に任せ押し入って来た手に噛み付くと慌てた人間が後方に仰け反る。

 

 今なら!

 無我夢中で檻から飛び出すと気力を振り絞り、力の限り逃げ回った。

 

 死にたくない。

 殺されたくない。

 

 

 どれ程、逃げまわったか定かでは無いが気付くと老いた二人の人間は膝を折り、床に手を付いて瞳から水を溶かしていた。人間は白くも無いのに溶けると水を流すのだろうか? 老いた人間は手を差し伸べながら悲しみに声色を震わせている。何故この二人が悲しむのだろう? 殺されるのは私なのに。

 

 二人は差し伸べた手を決して引かず、私の体力も限界に近い。

 

 もう疲れた。

 良い命だったとは言えないが最後はせめて、あの温もりを想い描き抱かれながら死んでいきたい。疲れからか意識が途絶えた私は、あの温もりに抱かれていた。心から待ち望んだ、あの温もりに。

 

 

 

 目を開けると老いた人間に抱かれていたと気付き慌てて噛み付いてみせるが今度は抱いた手を離してはくれない。それどころか苦しい程に抱きながら私の事を愛でたのだ。嬉しいのは私なのに二人は『ごめんね』『怖かったね』と声色を震わせて笑みを零す。

 

 目印では無いのか?

 私は殺されるんじゃ無いのか?

 

 二人は『ウィッシュ』と繰り返し、何度も何度も愛でてくれる。堪らず私が少しだけ頬を摺り寄せると喜びながら逆に顔を擦りつけられた時には反応に困ってしまった。

 

 私は生きていても良いのか?

 その問いの答えを二人は毎日、愛情で示してくれる。

 

 

 

 「ウィッシュ。そろそろ散歩に行こうか」

 

 日課となった散歩だが、私は抱かれたまま決して動かない。初めて知った【愛】から片時も離れたく無いからだ。

 

 

 私は今日も抱かれたまま覗き観る。

 今は色付き赤々と燃ゆる彩を。

 色付きを返す、その水面を。

 

 いつまでも

 この人たちと共に。

 

 

 

 弱きを助け、粗略を挫け    完

 

リターン

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