プロジェクト概要

 

《第一目標達成!2019.7.16追記》

みなさまに背中を押していただきゴールしました.本当にありがとうございます.残りの募集期間では,シャチの皮膚サンプルのDNA分析を目指して挑戦します.

 

この分析で,知床のシャチのグループが,世界のどのグループに遺伝的に近いのかを明らかにすることができます.詳細はこちらをクリック.

 

 

ページをご覧いただきありがとうございます.北海道大学 海獣班の三谷曜子です.北海道沿岸では,シャチが多数発見されています.このシャチについて,基礎的知見を蓄積することを目的に,東海大学,常磐大学,三重大学,京都大学,北海道大学が中心となって,北海道シャチ研究大学連合 (Uni-HORP)が,2011年に立ち上げられました.

 

北海道周辺海域のシャチの個体識別写真を撮影したり,鳴き声を録音したり,衛星発信器でシャチを追跡したりしています.

 

シャチが,「この時」に「この場所」にいる,というデータが蓄積され,毎年羅臼の海にやってくるような“常連さん”もいることがわかっています.

 

さらに,興味深いことにある事実が浮かび上がってきました.

 

 

事実

 

シャチは主に知床半島の東側,急深な根室海峡を主に利用すること,

そして夏になると根室海峡には入らず,北方四島のオホーツク海側を利用する.

 

知床半島の先端,知床岬をかわせば,西側にはなだらかなオホーツク海が広がっています.なぜ,シャチはあまり知床半島西側に行かないのでしょう.そして夏になるとなぜ根室海峡からいなくなるのでしょう.

 

もしかしたら,海の中の環境が異なるのかもしれない.あるいは,私たちの目の届かないだけで,シャチは西側にもいるのかもしれない.それを海の中から明らかにしたいと思います.

 

 

 

不足する調査設備

 

しかし,これらを明らかにするためには,今の調査設備では足りません.

 

例えば,「餌を食べる場所」として移動しているのでは?と仮説を立てたとします.

 

シャチたちが餌を食べるのは海の中.船からの観察ではなかなか見えません.そして,もし餌をその場所で食べているのであれば,10~30頭の群れ全体が同時に食べられるような,豊富な餌があるに違いなく,その餌の餌もそこにいて,豊かな生態系を支えているのだと考えられます.

 

このように,私たちの目の届かない海洋生態系を明らかにするためには,シャチなどの海棲哺乳類研究だけではなく,「魚,プランクトン,そしてプランクトンを集める海の流れはどのようなものなのか」という海洋物理まで明らかにしなければなりません.

 

そのためには調査船で赴いて,色々なデータをとる研究者が集まって集中して調査する必要があるのです.しかし,このような調査もまた時間や季節が限られており,季節変化を追うのは難しいのです.

 

例えば,海氷に覆われる冬には,砕氷船でないと調査できません.しかしこの海氷こそ,豊かな海をつくる鍵だと考えられます.そこで,海の中に係留系という計測機器を設置して,季節変化を追うことが必要になります.

 

海の中から,この疑問を解き明かすヒントを拾う必要があるのです.

 

そこで,北海道大学水産学部の「おしょろ丸」で調査をし,皆さんのご支援で海の中に計測機器(係留系)を設置することで,季節ごとのシャチの変化を追いたいと思います.

 

 

 

これまでの調査,分析から明らかとなっていること

 

 

◼︎ シャチ:鯱,killer whale

 

漢字で書くと魚へんに虎で鯱,英語だとkiller whale(殺し屋クジラ)と,恐ろしげな名前が付いています.みなさんもクジラやアザラシを襲っているシャチのイメージが強いかもしれませんが,主に魚を食べているグループもいます.

 

シャチは,全世界の海に分布していますが,海棲哺乳類を食べるグループと魚を食べるグループでは,同じ海域にいても交流することがなく,遺伝的にも違っています.羅臼でもクジラを食べているグループが見られている一方で,ミンククジラが自ら寄ってくるようなシャチのグループもいます.

 

北海道シャチ研究大学連合(Uni-HORP):

シャチの生態調査での面白さは,「見ていて飽きないこと」.個体識別の写真は,左側の背びれと「サドルパッチ」と呼ばれる白い模様を撮影しています.固まって泳いでいるとき,左から近づいて,あと一呼吸で並走して良い写真が撮れる!と思っても,誰かが泳ぐ方向を変えて群のメンバーも向きを変えます.「誰がこの群れの統率をとっているのだろう?」と,とても不思議です.そして時には船に近づきすぎて,望遠レンズからはみ出すこともあります.スパイホップという頭を出す行動をして,こちらを見ていることもあります.私たちはシャチを観察しているつもりでいて,シャチから観察されているのかもしれません.

 

 

羅臼沖で撮影されたシャチの背びれ写真について,同じ日に撮影されている頻度によって個体たちをグループ分けしていくと,8つのグループにまとめられることがUni-HORPのこれまでの分析から明らかとなっています.

 

このグループは,それぞれ10~30個体から成っていて,通常はグループごとに行動しているように見えますが,時に複数のグループが一堂に会し,100個体が同日に観察されたこともあります.

 

シャチは母親を中心とした母系のグループで行動しており,息子も娘も同じグループにいるため,他のグループと出会った時に交尾をしていると考えられています.よって複数のグループが集まる羅臼沖は,繁殖の場として利用されているのかもしれません.

 

しかし,これまでオス同士の疑似交尾については観察されているものの,雌雄での交尾の様子は観察されていません.

 

そこで,シャチは羅臼沖でどのような行動をしていることが多いのかを明らかにするため,発見したシャチのグループを,行動を阻害しないように船で追跡し,行動をビデオで記録しました.

 

シャチの行動を社会行動,採餌行動,移動行動,休息行動といった4つに分類した結果,「移動・休息」の時間が最も長かったことが明らかとなり,採餌行動の指標とされるアーチダイビング(腰を持ち上げてから潜る行動)も様々な場所で観察されました.

 

よって,シャチは餌を探して移動しつつ,休息の場としても羅臼沖を利用していることが,現状では考えられます.

 

 

 

浮かび上がる疑問

 

そして,今回これまでの調査から照らし出された新たな疑問に答える挑戦をしたいと思います.

 

つの疑問

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シャチは,主に知床半島の東側,

急深な根室海峡を主に利用するのはなぜか
 

夏になると根室海峡には入らず,
北方四島のオホーツク海側を利用するのはなぜか

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世界自然遺産地域である知床半島周辺海域は,知床半島によってオホーツク海と根室海峡に分けられており,知床半島を境にして西側よりも東側の根室海峡の方が急深になるという海底地形となっています.

 

なぜ,シャチはあまり知床半島西側に行かないのでしょう.

そして夏になるとなぜ,根室海峡からいなくなるのでしょう.

 

この季節と地理に関係するシャチの生態の謎に迫ります.

 

クジラ,イルカにも見られた変化があった.

 

オホーツク海,根室海峡ともに,4月に海氷がとけた後,植物プランクトンのブルームが起き,5〜6月になると海鳥類やヒゲクジラ類がやってきます.


しかし,観光船の目視情報から,シャチは根室海峡の羅臼沖で見られるものの,オホーツク海の網走側ではあまり観察されないこと,一方で,カマイルカは網走側ではよく観察されるものの,羅臼側ではあまり観察されないなど,違いが見られることが明らかとなっています.


また,昨年は羅臼側にもいたナガスクジラが,今年はあまり見られず,網走側では見られている,という情報もあります.

 

目視調査によって,海棲哺乳類の分布に差異が見られるのはなぜか.


プランクトン採取や,魚のネット採取,海洋環境の観測により餌環境や海洋環境にどのような差異が見られるのか.謎は深まるばかりです.

 

 

海の中から環境を知り,音を聴く

 

◼︎ 仮説

・海底地形や餌となる生物などの環境が知床半島の東西で違うのかもしれない

 

・私たちの目が届いていないだけで,実は東西を行き来しているのではないか

 

◼︎ 検証方法

そこで知床半島西側のオホーツク海,及び東側の根室海峡において,北海道大学水産学部の練習船「おしょろ丸」による調査を行い,係留系と呼ばれるものを知床半島の東西に設置.

 

係留系は,水深400〜600mに沈め,そこから浮かせて,シャチが潜る300〜400mの深さのところのデータを記録します.記録するデータは,水温,塩分,海の流れといった海洋物理のデータ,そして水中音響です.この水中音響記録計により,海棲哺乳類の鳴き声を録音することができます.そして一年後に切り離して回収し,データを得ることができます.


長期間モニタリングすることで船で観測しない間でもモニタリングし,季節変化を明らかにしたいと思っています.

 

▲音響記録計.このような様々な記録計を以下の浮きに取り付けて,海に沈めます.

 

 

 

調査を積み重ねてきた今,新たな疑問に答える,次の段階へ.

 

日本におけるシャチの研究は,諸外国から比べるとまだまだ始まったばかりで,未知の海域となっています.しかも,研究が進んでいるカナダなどのシャチとは違った特徴がいくつか明らかになってきています.

 

この研究を続けることで,世界から見ると「空白地帯」となっているシャチの生態を発信することができます.

 

また,シャチが来遊する羅臼の海は,非常に生産性が高く,漁業も盛んな海域です.また近年,「シャチに出会える海」として有名になっていますが,海洋物理などのデータはあまりなく,この研究が最初の連続データとなります.

 

これを機に,なぜ羅臼の海にシャチが集まるのか,そのメカニズムについて環境から海棲哺乳類まで,海洋生態系を多層的に縦断できる研究が始まります.

 

 

研究を続ける私たちは,「シャチのことを知りたい」と考えているのはもちろん,シャチを通じて「海の生態系のことが知りたい」と思っています.

 

分かってきたようで,まだまだわからないことの多いシャチの生態.

 

環境がシャチに影響を及ぼすことはもちろん,高次捕食者であるシャチが環境へ影響を及ぼすことも考えられます.

 

シャチと環境の相互作用を明らかにするためには,長期間のモニタリングが必要です.今回のプロジェクトは,これまでわかって来たことから照らし出された,新たな疑問に答えるという,次の段階への一歩となるのです.

 

 

 

みなさまのご支援の使い道

 

季節と地理に関係するシャチの生態の謎に迫る調査費用の一部に,大切に使わせていただきます.

 

❏ 係留系 
❏ 鳴音記録計メンテナンス
❏ 水温塩分記録計機材
❏ XCTD
❏ 切り離し装置バッテリー
❏ 船上装置整備費
❏ 流速計バッテリー

 

 

プロジェクトメンバー

北海道シャチ研究大学連合(Uni-HORP)

 

大泉 宏
東海大学海洋学部海洋生物学科・教授
シャチはどのような環境を必要としているのでしょうか.シャチと人との共存に必要な科学的知見はまだ蓄積されているとは言えません.直接シャチに関する事だけでなく,その棲んでいる海に関する正確な情報こそ,保全に不可欠なものだと思うのです.
 
 

中原史生
常磐大学総合政策学部 教授

魅力的で謎に満ちた動物,シャチ.少しでも彼らの生活を解明できればと思います.

 

 

北 夕紀

東海大学生物学部海洋生物科学科 准教授
Killer Whaleと呼ばれる一方で,愛らしくとても人気者のシャチが,
高次捕食者として海の生態系にどのように関わっているのかを解き明かしたいです.
 

 

三谷 曜子

北海道大学北方生物圏フィールド科学センター准教授

北海道に来るまで,北海道の海にこんなにシャチがいることを知りませんでした.調べれば調べていくほど,いろいろな「なぜ?」が見えてきます.そんなシャチと,シャチの暮らす海の「なぜ?」を解き明かしていきたいと思っています.

 

 

吉岡 基

三重大学大学院生物資源学研究科 教授

はじめて根室海峡で野生のシャチをみたとき,ここは日本のジョンストン海峡だと思いました.カナダでの研究によって,その生態が明らかになってきたシャチの姿が,この日本のフィールドからも新たな形で世界発信できればと思います.
 


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