親子いっしょに、特別な時間を。ひとり親のご家庭を演奏会へ

■機会を必要としているご家庭に、きちんとチケットを届けるための工夫。

 

ーー今回のプロジェクトは、山岸さんがゼロから企画立案されたものなんですよね。
 
山岸：
私自身は子どもがおりませんが、太田のように子育てと演奏活動を両立している楽員が周りにいますし、エデュケーション・プログラムで多くの家族をお迎えしていると、こんなプロジェクトをやってみたいなと思うようになって。

 

とはいえ、私たちは福祉の専門家ではありません。実現のためには、まずはひとり親支援の現場におられる方の声を聞くことからだと思い、NPOなどの支援団体さんと繋がっていきました。

 

その中で、どんな形でチケットを届けるのが良いか、いろいろなご意見をいただきました。最終的に、ひとり親家庭の方々には支援団体さんからコンタクトをとっていただき、私たちは要望があった枚数のチケットを支援団体さん宛に送る、という方法に落ち着きました。つまり、私たちはご家庭とは一切、直接のコンタクトをとっていません。

 

やはり、こういった形でチケットを貰うというのに、引け目を感じる方もいらっしゃるとお伺いして。だから、もうチケットは先にお渡ししてしまって、コンサートにお迎えするときは普通のお客様として。我々お迎えする側としては、誰が該当の方なのか全く分からないようにしました。

 

最終的に、全部で13の支援団体を通して、チケットをお届けすることができました。

 

さくらだ：
今回たくさんのご支援をいただいて、ひとり親のご家庭が実際に招待を受けるコンサートはどのようなものなのでしょうか。
 
山岸：
第一弾では（2018年）11月23日のコンサートと決め、募集しました。第二弾も、（2019年）6月のコンサートと決めております。開催まで少し間がありますが、支援団体さんからも、「余裕をもって、良い形で案内したい」という声をいただいていたので、これくらい早めに資金の目処がついたのは良かったなと思っています。

 

太田：
私は演奏家なので、普段は演奏に集中するあまり、公演の背景に何が起きているのかキャッチできていないというのが正直なところです。

 

ですが、こういった活動のおかげで、「今日はこんな特別な日で、こんな新しいお客様がご来場くださっている」ということを知ることができると、演奏のモチベーションが一層上がります。今回のプロジェクトに自分が関われているということを知った時、本当に嬉しかったし、感謝しています。

 

 

 

■音楽は、生きていく上で「必要」か。音楽家はいつも、その問いを突きつけられている。

 

ーー「こどもギフト」プログラムという枠の中で、他の支援団体さんと横並びでクラウドファンディングをされたことについては、いかがでしたか？
 
山岸：
プログラムに参加されていたのは、虐待で亡くなる子どもや、もっとシビアな状況にある方への支援を掲げる団体さんがほとんどでしたよね。そういった切実な支援を募るプロジェクトの中に私たちのようなプロジェクトが混ざっていて良いのか……少しためらう気持ちはありました。

 

 

でも、物資の支援と心に寄り添うことって両輪だな、とも思うんです。物だけでも、心だけでもいけない。事実、同じ状況でも、気持ちが違うと見えてくる世界も違う、ということもあると思います。

 

なので、「音楽は素敵ですよね」「心って大事ですよね」ということを、前に出て大々的に主張はせずとも、常にそっとそばにあるような社会であれば良いなと、個人的には思っています。そして、そういった社会を作る種火を持つのがオーケストラだとも感じています。

 

  
坂本：
虐待事件や、また震災など生命を脅かされる出来事がある度に、我々ミュージシャンは「音楽なんてしょせん娯楽じゃないか」と突きつけられる気持ちになり、自分は直接役に立てないという歯がゆい気持ちに苛まれることも多いです。

 

だからこそ……、音楽が真に心の支えになることを信じ、支援として繋げてくださることが、すごくすごく嬉しいし、本当に有難い。

 

たぶん皆さんそういう葛藤の中で音楽をされていると思うんです。

 

 
山岸：
震災の当日、私たちもここで定期演奏会をしていて。やっぱり演奏する人たちは色々な思いがあったと思います。それでも最後には、やっぱり「やろう」と。

 

さくらだ：
人間って、食べて寝るだけの生き物じゃない。

 

例えば震災で、音楽やお笑いがなんとなく自粛ムードにあった時に、私たち（あやまんJAPAN）のような芸人がテレビに出ることで「やっと日常が戻ったような気がする」という言葉をいただくこともありました。

 

私たちなんて、そもそも存在自体が不謹慎、みたいなところがあったんですけどね（笑）。

 

音楽も、お笑いも、ファッションも、アートも、生きる上で必要なものではないのかもしれないけれど、ひとり親のご家庭など、毎日頑張っている方々にとって、明日を生きるために必要な時間なのだと、本当に思いました。

 

山岸：だから、この取り組みは引き続き行っていきたいと思っています。

 

第二弾のクラウドファンディングの「その後」については、プロジェクトページの新着情報でアップをしていきますので、ぜひご覧いただけると嬉しいです。
https://readyfor.jp/projects/japanphil0602/announcements