私が危口さんに出会ったのは約10年前、2008年の「搬入プロジェクト」第1回目のイベントでした。ヘルメットをかぶった危口さん率いる現場作業員が巨大な物体を会場の中に搬入しようと必死になっていて、一体何なの?このパフォーマンスは…と呆れながら見ていたのですが、物体が見事会場の中に入りきった時には、会場中が大きな拍手で満たされ、なぜか清々しく、私も感激していました。ただ巨大な物体を搬入するというだけの目的のない無駄な活動。こんな面白いことやっている人もいるんだな〜と思ったのが最初の印象でした。 
 
 それからすっかり、この無駄で清々しい活動に魅了され、「搬入プロジェクト」に5回も参加させてもらいました。思い出深いのは、2012年にスイス3都市で開催したツアーに同行し、危口さんや滝尾さんと共にスイスで2週間過ごしたことです。危口さんは演出家なのに、なかなか決めない人でした。物体の形状や搬入ルートなど、もう決断しないと本番までに製作が間に合なくなる時期になっても、ギリギリまで決めてくれませんでした。タバコを吸い、珈琲を飲み、だらだら思考する。スイスの学生からは「日本人は効率的な国民性だと思っていたが、こんなに時間を無駄にする人達だとは思わなかった。」と呆れられるほどでした。滞在製作中の多くは、危口さんを待つ時間でした。(いいから早く決めてくれ!)と心の中で思いながら、彼をひたすら待つのでした。 

 


 
 危口さんがよく言っていた、忘れられない言葉があります。 
「世の中にとって無駄なことに興味がある。無駄とかムラなものを作りたいんだよね。」 
作ることの意味や効率を優先する代わりに、多くのものを切り捨てている自分に気づかされ、今でも胸に突き刺さっていて、よく思い出します。 
 
 昔、搬入プロジェクトについて、危口さんにインタビューをしたことがあり、こんなことを言ってました。 
「搬入プロジェクトは作品性がもともと希薄で、鬼ごっことか缶蹴りみたいな遊びの一種にも捉えられるんだよね。俺昔から、鬼ごっこの新ルールを考えて提案する事好きだったし!暇だから遊ぼうか?でなくて、遊ぶんだったら、全身全霊で遊んだ方が良いしね。」


 そんな危口さんとは、よく無駄なことを企画して、私の事務所がある武蔵小山の「STUDIO4」やジャークチキンハウス「アマラブ」でよく遊びました。「ボードゲーム大会(危口杯)」「メタルロゴ講座」、「路上麻雀」など、どれもくだらなく、たわいもない思いつき企画でしたが、これらの無駄な遊びたちも、これらを全力で楽しんでいた彼のことも忘れたくない。 

 


 
 危口さんの遺品整理を手伝いに倉敷に伺ったとき、大学生のころからの膨大な数のスケッチブックやツバメノートを見ました。演劇の構想や、建築の課題に対するアイデアだけでなく、ゲームのルールや勝敗のメモなど、遊びの記録も残されていました。たわいもない、無駄な日々の綴りかもしれませんが、これはまさに、危口さんのライフログなのです。 

 

 アーカイビングプロジェクトの中で、危口さんの「作品」を残すだけではなく、危口さんが、いつも決断することなく、切り捨てずに、しつこく探し続けていた、思考や、興味、彼の気配を残せるのかもしれないと、このライフログを見た時に思いました。 
 
 危口さんの生きた日々の記録を残すことに、私も応援したいと思います。

 

安藤僚子(合同会社デザインムジカ代表・インテリアデザイナー)

 

新着情報一覧へ