三宅島クジラ鼻水プロジェクトのスタートをきることができました。ご支援いただきありがとうございました!
こんにちは。三宅島クジラ鼻水プロジェクトです。
皆様からのご支援のおかげで、無事に研究調査のスタートアップを切ることができました。研究プロジェクトとしての三宅島クジラ鼻水PJはここからが本番ですが、クラウドファンディングとしてはここで一旦の終了報告をさせていただきます。
「三宅島に来遊するクジラのメッセージから、地球環境の変化を探る!」終了報告書
活動主体
三宅島クジラ鼻水プロジェクト
PJ総括:沖山雄一(有限会社沖倉商店 Cafe691、東京都三宅島)
研究総括:田島木綿子(国立科学博物館 動物研究部、茨城県つくば市)
ドローン総括:藤井雅巳(KURIKURICRAFT合同会社、東京都青梅市)
広報総括:宮田和樹(青山学院大学 総合文化政策学部 デジタルストーリーテリングラボ)
はじめに
ザトウクジラは暖かい時期を北の海域で過ごし、寒い時期には水温20℃前後を維持する温かい海で子育てを行います。日本周辺には、北太平洋と沖縄や小笠原などを回遊するザトウクジラが毎年訪れます。
これまで八丈島では冬にザトウクジラが訪れることが知られていましたが、2018年ごろから三宅島でもザトウクジラが観察されるようになりました(図1)。近年、三宅島周辺の海も水温20℃くらいを維持しているため、ザトウクジラの子育て海域になりつつある可能性があります。クジラの訪れを喜ぶ反面、その背景には地球温暖化が影響しているとも考えられます。ザトウクジラにとって、これまでより北の海域で子育てをすることは安全なのか?それは地球温暖化への警鐘なのか?私たちはこの疑問に答えるため、研究を開始しました。
研究のスタートアップ資金としてクラウドファンディングを行い、無事目標の金額を達成することができました。改めて、心より御礼申し上げます。
ReadyForで行ったこのCFプロジェクトでは、以下の3つの目標をかかげました。無事スタートアップを迎えた三宅島クジラ鼻水プロジェクトについて、概要を報告します。
① 国内初となるドローンを使ったブローの採取
② ブローからわかるクジラのDNA
③ “クジラでつながる”VRワールドの作成
① ドローンを使ったブローの採取
近年、クジラへの影響の少ない調査方法としてドローンが注目されています。クジラを上空から観察するだけでなく、クジラのブロー(噴気)を採取(サンプリング)して、そこからクジラのDNA情報を読み取る調査は、世界のさまざまな海域で導入が進められています。クラウドファンディングでいただいたご支援をもとに、三宅島でもこの手法を導入しました。
クラウドファンディング開始前の2022年12月10日から12日にかけて、研究者やドローンパイロットとともにクジラの出現状況やドローンを飛ばす環境の下調べを行いました。そしてクラウドファンディング達成後の2023年3月・12月、2025年1月に本番の調査を行いました。それぞれの調査で、ブローをキャッチするシャーレの取り付け方をいろいろと試し、また飛行中はクジラの行動にも気を配り、クジラがストレスを感じている様子はないか注意しました。これまでに合計151回の飛行を行い、そのうちザトウクジラに接近できたのは46回、ブローを採取したのは11回という結果でした(図2)。
野生動物の調査では対象動物に出会うことすらなく調査を終えることも多いですが、三宅島では予想を超える数のザトウクジラの出現に驚きました。しかしドローンで接近するには気象条件が難しい場合も多いことがわかりました。またバッテリーで動くドローンは飛行時間に制限があります。限られた時間の中で、自由に泳ぎ回るクジラの行動を予測し、浮上地点に先回りするには経験が必要です。複数回の調査を実施し、試行錯誤を経てブローを採取したことで、確かな手応えを感じています。無事にスタートアップを切った本プロジェクト、今後も継続的にサンプリングを成功させつつ、クジラたちの行動や個体識別情報も記録していきたいと思います。
② ブローからわかるクジラのDNA
シャーレについたブローの中には気管などから剥がれ落ちた細胞が含まれています。そこからDNAを抽出し、その一部を増幅(PCR)して配列を調べました。細胞の中には核に含まれる核DNAと細胞の中にあるミトコンドリアが持つミトコンドリアDNAがあります。ミトコンドリアは呼吸に関係する細胞内小器官ですが、独自のDNA(ミトコンドリアDNA)を持っていて、母系で遺伝します。つまりミトコンドリアDNAを解析すると母系の家系(系統)が分かります。一方で核DNAは両親から受け継がれるので、母系・父系の両方の情報が含まれ、クジラの性別や個体の識別が可能となります。
ミトコンドリアDNAコントロール領域の分析
ブローが採取できた11サンプルのうち、7つでミトコンドリアDNAの増幅に成功しました。配列を比べてみるとこの7つはそれぞれ異なる母系タイプでした。様々な家系のザトウクジラが三宅島に来遊していることが伺えます。また、うち6つはこれまでに国際塩基配列データベースに登録されていない、新しいタイプでした。三宅島周辺に来遊するザトウクジラは遺伝的に多様であることが分かってきました。
核DNA・性染色体の分析
核DNAは核の中で染色体(ヒトでは23対46本)という形で存在しています。染色体には性決定に関与する性染色体があります。オスのみがもつY染色体とオスとメス両方がもつX染色体です。水中で泳いでいるクジラの性別を調べることはとても難しいですが、これら性染色体の一部のDNAを増幅することで、オス・メスを判別することができます。実は核DNAの濃度はミトコンドリアDNAの1/100であるため、増幅が難しくなりますが、これまでに2サンプルで性判別に成功しています。結果はどちらもメスと判別されました。
③ “クジラでつながる”VRワールドの作成
このプロジェクトをより多くの人に知ってもらい、クジラ研究への関心を高めることを目的として、メタバース上でザトウクジラを観察できるVRワールド「Whale Research VR」を制作しました。このワールドは青山学院大学総合文化政策学部デジタルストーリーテリングラボの学生有志チームが中心となって開発を行いました。
ワールドではブリーチング(海面への大ジャンプ)やエスコート(母子クジラに寄り添うオスの行動)といった、ザトウクジラの特徴的な姿を間近で観察することができます。開発チームも実際に三宅島を訪れて調査に参加し、三宅島の雰囲気をVRならではの臨場感で体験できるように設計しました。また、海中に潜ってクジラと一緒に泳いだり、ザトウクジラの歌声を聞いたりと、現実では難しい体験も、安全に楽しむことができます(図3)。ワールド内には三宅島クジラ鼻水プロジェクトについての説明ボードを設置し、訪問者がプロジェクトの目的や研究内容について学べるようにしました。
2022年11月にcluster版、VRChat版の両方でワールドを公開しました。ワールドを体験したユーザーの中には、クジラと撮影した写真をSNSに投稿してくださる方や、実際にクラウドファンディングへの支援を行ってくださる方も現れました。VRやメタバースを通じて研究への関心を高め、具体的な支援行動につながったことは、新しいサイエンスコミュニケーションのプラットフォームとしての可能性を示せたのではないでしょうか。
現在、ワールドの開発を担当していた学生が卒業したため、ベータ版以降の大きな機能拡張は一時中断しています。しかし、ワールドは継続的に公開されており、いつでも自由に訪問していただけます。今後、興味を持つ学生が現れれば、さらなるコンテンツの充実や新機能の追加を検討していきたいと考えています。
収支報告
支援総額 ¥2,688,233
支出内訳(小計)
2022年12月調査費用 ※(¥487,669)
2023年3月調査費用(¥561,636)
2023年12月調査費用(¥437,118)
2025年1月調査費用(¥250,827)
防水ドローン(¥300,000)
サンプリング器具・消耗品(¥47,187)
事務経費
手数料(¥502,700)
リターン製作(¥66,290)
リターン配送料(¥44,809)
セミナー開催(¥53,940)
各種振り込み手数料(¥8,415)
収支合計 ¥-72,358
クラウドファンディングでいただいたご支援は全額、調査の実施とリターンに使わせていただきました。
※CF達成前に実施した予備調査で、費用は調査員が立て替えました。達成後にご支援の中から補填・清算させていただきました。
リターンは全て発送、実施済みです。
今後とも三宅島クジラ鼻水プロジェクトにご支援、応援のほど、よろしくお願いします!

























