「なまけものの通りみち」となる生物回廊農園を共に作り育てましょう！

　８月上旬に「なまけものの通りみち」プロジェクトが進むトラピチェ農園を訪れ、ご自身のバニラの木を植えてこられたI様から、あらためて訪問レポートが届きました。

　ご本人様の許可を得て、転載いたします。

　現地に行って感じたことはどんなことだったのか……。

　ぜひご一読ください。

 

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■心の奥から聞こえる自分の声にしたがって

　今年（2022年）夏にコスタリカを旅する予定だった私は、現地の情報を調べていくうちに、「なまけものの通りみち」プロジェクトに行きあたった。なんだろうと思ってウェブサイトを見てみると、「生物回廊」の問題、つまり生物種を維持するためには保護区を作って管理すればいいというほど単純ではないことを知った。人間の問題に置き換えれば、自分の家さえあれば生活できるのではなく道路が必要なことくらい考えればわかるのに、それを自覚せず、人間が動物の移動を妨げていたことに無頓着であったことに気が付いた。

　失われた生物回廊を取り戻すのは大変なことだけど、それをコスタリカの小さな村の農園で、木を一本一本植えることから始めている。「なんて野心的なプロジェクト！けど絶対に挫折させてはならない！さあ、あなたも立ち上がりなさい！」と今思えば心の奥の声が私に言っていたのかもしれない。
　自分にできることは小さなことだけど、一本の木を通じてこの取り組みを少しでも支えられるならやってみようと思った。そこで、せっかくコスタリカを訪れるのなら実際にその農園に行って、自分で木を植えてみることにした。

 

■自然と「統合」して伝統的な暮らしを穏やかに営む人たち

　「なまけものの通りみち」プロジェクトだから、行くまでナマケモノのことしか想像してなかったけれど、他にも犬、牛、鳥、リス、カエル、チョウ、アリ、昆虫、そして植物たちが自由に暮らしていた。

 

　プロジェクトを始めたトラピチェ統合農園（スペイン語でFinca Integrada Trapiche）の「トラピチェ」とは、コスタリカの伝統的なサトウキビ圧搾機のこと。今ではほとんど見られなくなったけども、伝統を大切にしたいという思いから、ここでは今でも現役。

　“Integrada”（統合）という言葉には、人間も動物も植物も昆虫も、そこにいる生き物すべてを共に生きる仲間として受け入れるという思いが込められている。農園主のクリスティアンは「追い出すことはしない。みんなここにいる権利がある」と言っていた。そこでは、自然にとれたものや無農薬で育てたものを食べ、水や空気を汚さず、自給自足を中心に自然と共生する生活を実践していた。時間がゆっくりと流れているようで、訪問者の私たちもおだやか〜な気持ちになれた。

＜トラピチェの傍らに佇むクリスティアン＞

 

　現地訪問ができてよかったと思えることは、何といっても顔の見える関係を築けたこと。農園主のクリスティアンは優しさがあふれ出るような方で、信じられないくらい親切にしていただいた。とても前向きで、自然のありのままの姿を受け入れている。そこにある好きなもの（動物とか、作物とか）の話はたくさん聞いたけど、「あれが嫌だ」とか「これが嫌い」とかネガティブな発言を一切聞かなかった。
　奥様のニディアは、すべてを包み込んでくれるようなお母さんというイメージ。料理上手で、農園でとってきた作物をおいしい料理に変身させてしまう。文字通り「すてきな夫婦」に出会えて嬉しかった。
　娘のバネッサは、両親の愛をたっぷり受けて育ったからか、穏やかで優しい子。すぐに友達になれた。母親に似て料理上手で、器用に編み物もやっていた。
　息子のアレハンドロとはあまり話ができなかったのが残念。おせっかいなおばちゃんになってもう少し話しかけておけばよかったなと後悔した。彼らとは今後も交流を続けていきたい。
　クリスティアンは、魚を捕まえる鳥や、毎年同じ木に巣を作る鳥、夕方に帰ってくる鳥などいろんなことを教えてくれた。動物だけでなく植物にも詳しく、散策路に出ると、虫よけになる葉っぱや、薬草、それぞれの役割など、まるで森の仙人のように何でも教えてくれた。木の高いところにいるナマケモノを自力で見つけるのは難しいので、クリスティアンと探しに行くことおすすめする。

 

【けもみち探訪記６】農園探索したら野生のナマケモノに出会いまくった！ 

　赤いカエルやリスに出会えたのも嬉しかった。

 

【けもみち探訪記２】イチゴヤドクガエル発見！

　クリスティアンは次々にいろんなことを教えてくれるので、メモも追い付かない。せめて録音・録画しておけばよかったと後悔した。唯一カカオの説明だけ、ビデオに残しておいてよかった。

 

【けもみち探訪記7】#カカオ から#チョコレート を作るまで

　朝一番に大きなユカイモを収穫し、お昼にいただくという贅沢な体験もさせてもらった。

 

【けもみち探訪記３】ユカイモ掘り！

 

　その美味しかったこと！一方で、小さいイモは、一緒に住むブタや動物たちのために残しておいた。そこにも分かち合いの精神を感じた。

＜収穫したユカイモを料理してお昼ご飯に＞

 

　伝統的なトウモロコシ粉の薄焼きパンであるトルティーヤを、生まれて初めて自分で作った（写真はトルティーヤを焼いているところ）。といっても、私がやったのは生地をのばして焼くだけだけど、スーパーで買うのがメインになってしまった今、手作りできるなんて貴重な体験だった。機械で作ったものとはまったく違い、食べていて生地の厚みと重みを感じた。

＜トルティーヤを焼くニディア＞

　パン作りも楽しかった。窯から出す絶妙なタイミングを、さすがの彼らはよくわかっていて、お見事！

＜職人技で見事に焼き上げられたパン＞

 

　トラピチェを回すのは楽しかった。はりきりすぎてばててしまい、第2ラウンドはクリスティアンとアレハンドロに代わってもらった。キャラメルはクリスティアンの子ども時代からのおやつで、今ほど色々なものがなかった当時（道路が舗装されておらず、馬やボートが移動手段だったという）の楽しみや、作ってくれた家族との思い出やその優しさを思い出すのだという。

 

【けもみち探訪記４】おやつの時間です！サトウキビを収穫してキャラメルを作りました！

 

■指さした先に見えていた夢のゴール

　現地を見せてもらうと、最初の頃に植えた手前の木は大きく育っていて、奥に進むほど小さくなっていくのがわかる。一本一本の木だけではなく、森全体としての成長の過程が見えてきた。「ああやって育っていくのか」という姿を想像し、夢見ることができた。

　自分のバニラを植えている時は、クリスティアンに言われたとおりやることに精一杯で、正直何か考える余裕はなかったけれど、「ああ、ここに私の木がこれから育っていくのか」という気持ちが膨らんできた。

 

【けもみち探訪記５】私のバニラの木を植えてきました！

「ナマケモノたちが暮らしている奥の森まで木をつなげることが夢だ」というクリスティアンの話を聞いて、「この木にも遊びに来てくれますように」という願いを込めた。その夢はいつか叶うと確信した。なぜなら、彼が「あそこ」と指さした先にある森は地平線のかなたではなく、見えている。そう、ゴールは見えていたから。
　これまでに植えられた木とプレートを見て、きっと私だけでなく、一人一人のストーリーがあるのだろう、どんな人がどんな思いで関わって下さったのだろう……と思いを馳せた。

 

■コスタリカの平和と私の平和が重なる夢の森

　コスタリカは、1948年に軍隊を捨てた。それは、戦いに勝つのではなく、戦わないという決断をしたからだ。それは同時に、戦わずに相手とともに生き残るために知恵を絞るという決断でもあった。そして平和を自分たちのアイデンティティとしてきた。

　彼らの平和とは、戦争がないだけでなく、自由があること、民主主義があること、人権があること、正義があること、豊かな自然環境とともに生きること。それらはどこからか自然に生まれるとか祈って向こうから訪れるとかいうものではなく、自分たちでつくるもの。平和をつくるのは、政府のトップだけでなく、そこで暮らす一人ひとりだと彼ら自身は思っている。だから、平和をつくる出発点は自分が幸せであること。それから家族、周りの人たち、コミュニティ、環境、地球へと広がっていく。

　クリスティアンたちが自然のありのままの姿を受け入れ、さらに自分たちと共に暮らす生き物たちがさらに幸せになれるような豊かな森をつくることを夢見て、一本ずつ木を植え育てていく営みは、まさに彼らの平和なのだと感じた。その一本の木に自分の思いを託し、人間と自然が共生する農園で彼らと交流してのどかなひと時を楽しみ、遠くからも応援することは、私の平和。こうした小さな平和がたくさんつくられ、重なり合って大きくなる時、夢が叶うのだと心から思う。