土と水を保全する農業や漁業応援プロジェクト

土と水を保全する農業や漁業応援プロジェクト

支援総額

500,000

目標金額 470,000円

支援者
35人
募集終了日
2020年8月5日

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2020年07月26日 17:01

農業と水産業との折り合いをどのように考える? その4

 またまた硬い文章が続きます。土と水を保全する活動が、今どれぐらいまで進んでいるかを書いています。ご参考になりましたら幸いです。

元のアドレスは、

https://ynu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_snippet&pn=1&count=20&order=16&lang=japanese&creator=%E4%BD%90%E3%80%85%E6%9C%A8+%E7%AB%A0%E6%99%B4&page_id=59&block_id=74

 になります。

 

 このころ,地元中標津農業高校に赴任した私が根釧地方で活動を始めた。私は別海町出身であり両親が別海酪農高校教員であったことから,この別海酪農高校で展開されていた自分の家の酪農経営の課題を発見し,解決の方向を探り,課題解決の行動を実施し,成果を反省し次の課題を発見するといったプロジェクト研究活動(「see-plan-do-see」),いわゆるホームプロジェクトに幼いころから触れていた(北海道別海酪農高校1974a,北海道別海酪農高校1974b)。さらに少年期には根室自然保護教育研究会の流れをくむ鳥類標識調査に参加していた。このことが後に,自然と人間活動の両立を目指し,地域に寄り添い,地域の課題を発見し,その解決法を探る姿勢につながっていく(津野1975,津野1991,津野1995,広松ら1991,菱沼1973,菊池2000,三澤2008)。
 マイペース酪農のモデルとされている三友農場の諸研究から,化学肥料及び購入飼料を削減しても乳生産量をある程度維持するメカニズムを解き明かし,環境負荷の低減と酪農経営の両立は可能であることを明らかにした(佐々木2002a,佐々木2002b,佐々木2005,佐々木2006,佐々木2007a,佐々木2007b)。これらの成果は,調査農場主である三友氏との討論によって地域住民に広く伝達され,このことが地域住民との信用につながっていき,さらなる現地調査の可能性を広げることとなった。
 三友農場内で流域が完結する小河川が存在したことが幸いし,三友農場の環境負荷を評価することが可能であった。この結果,実際に三友農場の環境負荷は小さい可能性があることを指摘し(佐々木2002a,佐々木2002b),根釧地方は水産業の経済規模が農業に匹敵すること,また現状の酪農経営が環境負荷を高めている可能性を考えたことから,地域の河川を中心とした自然環境の実態や,環境負荷を低減する草地管理のあり方を中標津農業高校のプロジェクト研究をとおして実態解明を試みることにつながった(舛田ら2003,原島ら2005,原島ら2006,佐々木2008,佐々木2008~2009,佐々木2009b,佐々木2010,佐々木2012b,佐々木2012c,佐々木2012e,佐々木2012f,佐々木2012g)。

 これらの成果は,マイペース酪農交流会,虹別コロカムイの会主催の摩周水環境フォーラムのほか地域の様々な会合で発表され,地域課題の発見とその理論化および課題意識の共有化に少なくない役割を果たした。
 特に,窒素濃度を水道水質基準ではなく水産用水基準を採用し,これに基づいた酪農から河川,水産業にいたる論を展開したのは初めてのことであった(小川2000,日本水産資源保護協会2005,佐々木2009a,佐々木2013a,佐々木2013c,佐々木2013d,佐々木2015a,佐々木2015b)。
 その後,虹別コロカムイの会における議論から,水産業に負の影響を与えているのは河川水中の窒素濃度そのものではなく,重金属類ではないかとの推定がなされ,当初は鉄濃度との関連が検討された。その一方,草地においては土壌中アルミニウムの溶出がイネ科牧草に負の影響を与えることを私が生産現場においても確認したことから(佐々木2012a,佐々木2012d,佐々木2014a 佐々木2014b,佐々木2017),河川におけるアルミニウムの実態とその水生生物・水産生物に対する毒性の検討が行われた(佐々木2017)。この結果,サケマス稚魚に対するアルミニウム毒性に関する研究(橋本1989),硝酸態窒素の存在と土壌塩基飽和度の低下により土壌からアルミニウムが溶出することに関する研究(越川ら2004,和田ら2002),河川水中のアルミニウム濃度と水生生物に関する研究(越川ら2004,和田ら2002)の存在が明らかになるとともに,西別川および当幌川のアルミニウム濃度の実態が明らかとなった。
 これらの成果は,摩周水環境フォーラム(佐々木2013e),マイペース酪農交流会(酪農の未来を考える学習会2009,佐々木2017),マイペース酪農交流会のメンバーが開催した2014年度日本草地学会小集会等(三友ら2014)で公表されることによって,地域住民の議論を活性化し,根釧地方における次の時代を考えるきっかけとなった。
 これまで述べたように,地域の実態解明と課題の抽出,課題の解決法は,1 研究者単独でできるものではなく,多くの立場の異なる地域住民の参加と協力,そして信頼関係によって実現することができる(バリー1972,守山1988,守田1971,広松ら1991)。
 しかしながら現在までの活動では,地域の実態解明と課題の抽出の段階において,やもすると地域で活動する研究者(以下内部研究者・レジデント型研究者)主導になってしまい(菊池2016),課題解決の方向性への討議も内部研究者の視点が強くなりがちな側面があったことは否めない。そこで提案したのが第6 章における議論と提案である。地域内で活用できる研究資源,例えば別海高校施設・機器を活用することによって,地域住民自ら地域の実態解明に向けたデータおよび活動の効果を検証するデータを収取し,研究者(内部研究者および外部からの研究者)が解析の補助をしながら課題解決の方向性と次の活動を練り上げていくことが必要である。いわゆるプロジェクト研究の地域化であり,ここでは内部研究者は内部指導者,外部からの研究者(以下外部研究者)は外部指導者としての役割が求められると考えられた(北海道別海酪農高校1974a,北海道別海酪農高校1974b,村上1971,広松ら1991)。
 この一つの手段として,6 章で議論した流域の森林回復を優先させるか,流域の窒素投入量を減少させるために購入飼料・購入肥料を削減するか,草地土壌交換性CaO 含量を増加させるか,についてどの土地でどの流域で,あるいは一酪農経営体の中における各草地でどのような選択を地域住民と内部研究者が主体となり,外部研究者の支援の下行っていくことが必要になると考えられた。このことが,地域課題を地域住民自らが解決していくための場の形
成とPDCA サイクルの展開につながっていくと考えられた。

 また,別海酪農高校および別海高校酪農経営科・専攻科ではホームプロジェクトを展開しており,地域住民にこのような活動を理解し実践する素地があることも幸いすると考えられた(北海道別海酪農高校1974a,北海道別海酪農高校1974b)。
 しかしながら,虹別コロカムイの会やマイペース酪農交流会といった地域住民が意識を共有する場に参加している住民間では,酪農開発による自然環境,水産業への影響を認識しており,また漁業者は,実際に被害を受けている側であるため,酪農による影響を強く認識している一方で,一般の酪農家の間では、乳生産量のさらなる拡大に意識が集中し,草地および自然環境の持続性についての認識は小さい実態がある。虹別コロカムイの会やマイペース酪農交流会が地域住民の意識の共有の場としての役割を引き続き果たすとともに,行政,JA,JF,商工会,日本野鳥の会根室支部などのNPO などの関係団体と連携をはかりながら,特に河川上中流域に展開する酪農家へ認識を共有していくことが重要な課題となると考えられた。
 一方,これまでの議論を深めていく議論も始まっている。例えば,低投入循環型の酪農経営は完熟堆肥を製造しやすい。腐植物質が豊富な完熟堆肥を散布することにより草地土壌中の腐植物質を増加させる可能性があり,腐植物質が土壌中の活性化したアルミニウムをキレート化し,土壌中および河川水中のアルミニウム濃度を低減する可能性についても,虹別コロカムイの会やマイペース酪農交流会で議論されている(コノノワ1977,レオポルド1992,
佐々木2013b,佐々木2014,佐々木2015,佐々木2017)。

 実際に,草地土壌中腐植酸が地域平均に比べて2 倍近い存在量があると指摘されている三友農場内の当幌川j,k(Table 2-6)(佐々木2014,佐々木2017)では河川水中のAl 濃度は低く,塩基置換容量が高いため河川水中のK,Ca 濃度も低い。この議論は,低投入循環型の酪農経営を選択する動機づけにな
ると同時に,低投入循環型酪農の存在意義を改めて見直す契機となりうるかもしれない。
 これまでの北海道根釧地方は,より豊かになることを求めてさらなる開発を進めてきた。これからは,河川,沿岸域,草地といった地域資源をどのように保全し持続的に利活用していくかが求められている(三澤2008,鷲谷1998)。この試みが成功したならば,同じ経済構造,すなわち一次産業を主要産業とする他地域にも,波及効果を及ぼすことができると考えられた。
 具体的には,根釧地域の内部活動家および内部研究者が,他の地域において外部活動家,外部研究者として他の地域の住民に働きかけ,基礎調査を積み重ねることによって当該地域住民の意識の掘り起こしを行うことが有効だと考えられた。その時に,第6 章で議論した,少数の調査分析項目から流域全体の土地利用,土地の状態,農業経営などの概要をつかむ手法が有効と考えられた。
 実際に,マイペース酪農交流会は「低投入型酪農・放牧酪農」をキーワードとして北海道全域のみならず全国各地とネットワークを構築しつつあり,このネットワーク構築の過程と活動は,一次産業を主産業とする各地域の課題発見と課題解決に向けて参考になるものと考えられた(酪農の未来を考える学習会2009)。
 このように,虹別コロカムイの会,マイペース酪農交流会をはじめとした北海道根釧地方の諸活動と人的資源は,根釧地方のこれからの方向性について希望をもたらすだけではなく,一次産業を主産業とする様々な地域で希望をもたらす可能性を秘めていると同時に,その利活用について今後検討を進めていくことが,グローバルな視点においても重要であると考えられた。

リターン

10,000


土と水を保全する研究成果2020

土と水を保全する研究成果2020

このプロジェクトで明らかになった研究成果・データを,支援者の皆様にご提供いたします。データの活用は特に制限を設けないこととします。メール添付をご希望の場合は、メールをご選択ください。郵送をご希望の方は、郵送をご選択ください。郵送でお送りします。

支援者
34人
在庫数
50
発送完了予定月
2021年3月

10,000


ニシベツ伝記(小説)

ニシベツ伝記(小説)

今までの研究成果を小説化してみました。
架空の根釧原野に存在する、付属短期大学を持つニシベツ実業高校を舞台として、地域の課題を生徒たちが解決していく、と言ったストーリーです。

支援者
1人
在庫数
99
発送完了予定月
2020年10月

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