揺れるこころを見える化する「トーキングマット」を広めたい！

今回は、トーキングマットを若者支援に活用している例を紹介したいと思います。

不登校ひきこもり発達障害などの子ども若者支援活動を行う 一般社団法人いのちと暮らしのつながり研究所「かたつむり学舎」では、若者が「自分らしい暮らし」や「自分がしたい仕事」を創っていくための支援にトーキングマットを活用しています。

 

「かたつむり学舎」は、大分県中津市を拠点に、不登校ひきこもり発達障害など生きづらさを抱える子どもや若者、そして家族を、ソーシャルワーク・カウンセリングによってオーダーメイドで支援する民間団体です。

 

相談に来たばかりの子どもや若者たちは、これまでに諦める経験を重ね続け、合わない環境で長く我慢し続けたことで、やる気が無くなっていたり、疲弊していたり、嫌なことを避けるために惰性でしていたことが習慣になっていたりしているケースが多いです。それで、本当は「何が好きなのか」「何をしたいのか」「どんなふうに暮らしたいのか」自分の夢や希望、心からの欲求に気づくことや表現することが難しい場合が多いのです。

けれど、彼らの好きなことや得意なこと、やりたいことの中に、彼らが生き生きと暮らすエッセンスがたくさん含まれています。ですから一人ひとりの子どもや若者たちの希望を紐解いていく作業はとても重要です。

 

トーキングマットは、絵カードを使って具体的に質問していくので答えやすく、彼らの好みや「したいこと」「できること」「得意なこと」などを明確にすることができます。まだ明確になっていない彼らの希望を紐解く前段階として、心からの希望を知る手がかりとなる最適なツールです。

 

今回は、自分に合う暮らしや仕事を見つけたいと願う発達障害の30代の若者と一緒に、トーキングマットを行いました。

彼の困難さとしては、大きな音が苦手で、大きな声を出すことも苦手です。また素早く行動をしたり、急がされたりすることが苦手で、一つ一つゆっくりと行動するのを好みます。人から強く言われたり、叱責されたりすると、精神的に辛くなってしばらく一人で部屋から出ずに休息する期間が必要になります。また耳からの音声情報や早い会話だけでは理解や返答が難しく、話せなくなることがあります。しかし、映像や文字情報、絵や身振りでゆっくり説明されると理解しやすいという特徴を持っている方です。穏やかで優しい人が好きで、ものづくりや自分で工夫してコツコツやる作業を好みます。体力もあり、フルマラソンにも出場した経験がある方です。

 

 

トピックは、「外での楽しみ」についてです。そしてスケールは、「好きー嫌い」で行いました。
「外での楽しみ」で、彼が好きなことは、「友達に会いにいく」「スポーツ」「ガーデニング」「旅行に行く」「映画に行く」「散歩に行く」「食べに行く」「飲みに行く」などで、さらにブランクカードで「温泉に行く」「好きなアーティストのライブに行く」でした。基本的に、嫌いな活動はなく、ほとんどが、好きな活動、またはまあまあ好きな活動だったのですが、そのようになったのには、理由がありました。彼が、一つ一つのカードを手にとって、ゆっくりとテーブルに置いた後に、カードの内容について尋ねてみると、幾つかの共通する言葉が語られました。

その言葉は、「静かな」「友達と一緒に」「好きな」でした。

彼にとって、その活動や場所が好きかどうかを決める指標は、「何をしているか」という内容よりも、「どのように誰としているか」ということだったのです。
例えば、「食べに行く」カードは、「好き」の場所に置いたのですが、「食べに行く」という行為それ自体が好きというよりも、「静かな」居酒屋で、「友達と一緒に」、「好きな」食べ物を食べに行くということが彼にとっては「好き」な時間であり、重要でした。
他にも、「髪を切りに行く」カードを「まあまあ」のところに置いたとき、「美容院のどんなところが、『まあまあ』ですか？」と、さらに質問すると「以前は、美容院に行くことが嫌いでしたが、ある時、とても静かな美容院に行ったら、そこはそんなに嫌いではありませんでした。その時、静かな美容院は、嫌いじゃなかったなぁと思ったので、まあまあにしました」と話していました。

 

彼の「好き」「嫌い」に影響する重要な因子として、「静かであること」と「友達と一緒に」ということ、そのカテゴリーの中でも彼が「好きなもの」であるということが会話の中から、何度も出てきました。それで、その３つのことについて確認したら、「そうですね、それらは自分にとって重要だと思います」と大きく頷いていました。

仕事や暮らしに繋がる様々な活動を一緒に行いながらサポートしていく上で、上記のことはとても大きな手がかりになります。また彼がストレスを感じる環境を軽減していくためのチェック項目にもなるでしょう。

 

支援者として、子どもや若者が好きな活動を支援の中で行なっていくのは当然ですが、さらに、その活動を「どのように行なっていくか」ということも確認する必要があることを改めて再認識しました。トーキングマットでは、それらを具体的に尋ねるカードもあるので、さらに回数を重ねて、彼の好みや希望の理解に努めていきたいと思いました。

 

最後に、トーキングマットをやってみた感想を彼に聴いてみました。
「自分がどんなことが好きなのか漠然とは分かっていたけれど、はっきりして良かったです。カードを置きながら一つ一つ聴かれたので、自分が『ガーデニングは、さつまいも植えたいんだな』とか、『散歩に行くのは、海辺に行きたい』とか、具体的に何がやりたいかも気づけて良かったです。
今、自分の人生の核になることを探しているところなんですが、お金や恋人、家族、仕事、社会的地位など、自分のまわりにある外的なものに自分の人生の価値を委ねず、どんなことがあっても、自分の核を中心として人生を歩んでいけたらと思っています。しかし、これがなかなか見つからず苦労しています。
トーキングマットは楽しかったので、またやりたいと思いますし、自分の大事な核を見つける手かがりになりそうです」と話してくれました。

 

トーキングマットを活用して、これからも子どもや若者の声に、あらゆる角度からしっかり耳を傾けて、支援を行なっていきたいと思います。

 

執筆者: SDM-Japanコアメンバー
トーキングマット基礎研修終了者　福崎はる