揺れるこころを見える化する「トーキングマット」を広めたい！

スウェーデンの特別支援学校教員サリネンれい子様からのご寄稿

 

先日のBrut.Japanの取材（動画リンクはこちら）をきっかけに、スウェーデンの特別支援学校に勤めておられるサリネンれい子様とお知り合いになることができました。サリネン様はトーキングマットをスウェーデンの教育現場において長年使われていらっしゃるお方です。

 

思い切って寄稿をお願いしてみたところ、ご快諾いただきました！

この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

 

スウェーデンでは、トーキングマットが教育現場においてどのように活用されているのでしょうか？ぜひ記事をご覧ください。

（※太字・色については記事執筆者により適宜改変しています。）

 

----------------------------------------------　以下、寄稿文　-----------------------------------------------

 

スウェーデンの教育現場でも使われるトーキングマット

　私がトーキングマットを知ったのは、2008年、受け持っていた生徒がハビリテーリングという専門機関から利用を促されたことがきっかけでした。スウェーデンの特別支援学校で働き始めて驚いたことの一つに、「どんなに障害が重い生徒であっても、意思決定のできる子にしていく」という教育を行っていたことです。今日は、そんなスウェーデンの特別支援学校での私のトーキングマットの実践をご紹介します。

 

スウェーデンの特別支援学校とは？

　スウェーデンの特別支援学校は、知的障害の有無で分けられており、知的障害のない生徒は日本の小中学校にあたる基礎学校で学んでいます。知的障害があることが入学の条件となっている特別支援学校は２コース制となっており、中軽度の知的障害がある生徒が通う基礎学校の教科に準じて学ぶ教科コースと、重度の生徒が学ぶ、教科の特性で分けてある、領域学習コースがあります。私が教えているのは、後者の領域学習コースで、生徒の大半は、いわゆる言葉による発語がありません。だからといって、コミュニケーション能力がないということではなく、どんなに重度の障害がある生徒でも、身振り手振り、喃語やジェスチャー、動作や行動による意思表示など、その子なりのコミュニケーション方法を身に着けており、その子の実態に応じた教育をしています。そのための方法として、何かしらの理由で一般的な発語による意思疎通が難しい場合に「代替コミュニケーションシステム、AKK　(Alternativ　och kompletterande kommunikation（英語のAAC)）が広く用いられています。

 

トーキングマットの教育現場での実践

　スウェーデンにトーキングマットが入ってきたのは2007年ごろで、言語療法士、PT やOTなどの専門職が集まるハビリテーリングが中心となって、知的障害とコミュニケーションに困難さを抱える子どもや若者、成人が日常の様々な場面で自己決定をし、社会参加を増やすことを目的にして積極的に利用を推進してきました。トーキングマットのマットには、スウェーデンの家具店IKEAで購入できる玄関マットを利用するのがスウェーデン流で、使われる写真や絵は、その人が普段使っている絵や写真を利用するのが一般的です。

　私はトーキングマットを授業の中で利用しており、生徒の言語・コミュニケーション能力に合わせて、日常の身の回りの物や学校の時間割に使っている写真や絵などの理解がある程度でき、「YesとNo」の理解の初段階にある生徒であれば、利用を試しています。写真の1から３は、健康というテーマで授業を行い、3人の生徒に何が体にとってよいか、よくないか、何をするのが好きか嫌いかなどをトーキングマットで聞きました。生徒たちは、お菓子やダンスはすきだけど、立位機はあんまり好きじゃないとか、普段から散歩が好きな子は、やっぱり散歩が好きだと答えるなど、生徒たちの学びについて具体的に知ることができました。

 

写真１

 

写真２

 

写真３

　

　その他にも生徒たちが、学校でのどんな活動を気に入っており、何があまり好きではないかということを知るのにもトーキングマットは手軽で有効です。以下は、学期始めに生徒たちにどんな勉強が好きか嫌いかを聞いた時のものです。気に入っているものは左側の「親指が上」のもので、いまいちなのは右側の「親指が下」のです。わかりにくい生徒には、テープなどではっきりと分け、真ん中はどっちにも当てはまらないものを置いていきます。自分で絵カードを置ける生徒もいれば、支援が必要な生徒もいます。また、生徒の能力の段階によっては、同じ活動を数回重ねることにより、手順や何を聞かれているかについての理解を深めていきます。

 

写真４

 

写真５

 

様々な場面で利用が可能なトーキングマット

　教育現場でも、トーキングマットは様々な場面で取り入れることが可能であり、いかに生徒の意見を取り入れて、どんなに重度の障害がある生徒でも、その主体性を伸ばしながら、授業を組み立てていくことにつなげていけると思います。以下の写真は、スウェーデンのハビリテーリングで紹介されていたもので、どんな運動が好きなのかということを聞いたり、余暇活動はどんなことがしたいか、食べ物は何が好きかなど、日常の中で本人が主体的に参加しながら、意思表示をし、自己決定をする機会を増やしていくことが可能であるのが、トーキングマットです。

 

写真６

 

写真７

 

写真８

　

　スウェーデンでも、もっともっとトーキングマットの利用が広がっていくことを願い、私も教育現場の中で今まで以上に利用機会を増やし、子どもたちの意見に耳を傾けながら、教育を行っていきたいと思っています。トーキングマットの日本での利用が広がり、将来的に利用例などを交流していける日を楽しみにしています。

 

文章と写真：サリネンれい子