津波で壊滅した徳泉寺を救った「はがき一文字写経」恩返しを今。

ちょうど50年前の今日7月20日に、アメリカの宇宙飛行船アポロ11号が月面着陸した。

 

アームスとロング船長は「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」と言った。当時の写真に、地球以外の地面に記した人類初の足跡がくっきりと映っている。そこは砂浜のように見えた。

 

さて、私も東日本大震災の時、これは地球上の出来事なのか、どこかよその星ではないのかと思った。それほど衝撃的な惨状だった。

 

 

6メートルの津波が来るというのが、最初に聴いた地震情報だったが、山元町を襲った津波の最大の高さは、12.2メートル。浸水面積は町全体の約37パーセントで、居住地域に限れば、50パーセント以上が浸水した。流出した家屋は一千棟を超えている。

 

 

震災から1週間後、ようやく車を走らせることができた。JRの線路も流され、傾いた家や、自家用車やトラクター、洗濯機やテレビ、靴やアルバムなど日常の断面が無残な姿を晒していた。もはや人が住める世界ではなくなったと思ったほどだ。

 

その間を縫って、もうひとつの住職地徳泉寺に辿り着いた。県道から200メートルほど海側に入ったところにあり、海からは僅か300メートルだ。

 

県道から先はまるで砂浜状態で、車が入らなかった。あまりにも海から近いせいか、瓦礫など何もない。

 

車から降りて歩き始めた。異次元の世界に踏み込むような心境で。

 

 

境内に着いてみれば、本堂も仏具もすっかりなくなっていた。墓石はすべてなぎ倒され、砂に埋もれていた。

 

しかし、足元の白い砂浜と空の青さがあまりにきれいだった。悲壮感が湧いてこない。瓦礫が散乱していたら、落ち込んでいただろうか。サッパリしすぎた光景は、「放てば手に満つ」の想いを抱かせてくれた。もはや失うものは何もない。

 

あれから8年4カ月が経ち、徳泉寺復興の姿が見え始めた今日この頃。50年前の人類初の月面着陸に重ね合わせている自分がいる。

 

県道から砂浜に踏み込んだあの一歩は、私にとっては月の世界を歩くようなものだった。異次元の世界でも夢物語を描いてみよう。やがて「はがき一文字写経」で本堂再建という発願になり、日本中から寄せられた写経のおかげで実現に向かっている。

 

アームストロング船長の一歩とは月とスッポンの差はあるが、徳泉寺にとっては大きな飛躍だ。