消えることに一途な虹を

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蝦名泰洋さんが2021年7月26日に亡くなって、2か月後の9月、両吟歌集『クアドラプル　プレイ』が刊行されました。
本の紹介とあわせて、追悼の文を、書かせてもらう機会がありました。再掲します。まず、青森の新聞に載せてもらったもの。

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両吟歌集『クアドラプル・プレイ』と蝦名泰洋さんのこと　　　　　野樹かずみ

　蝦名泰洋と野樹かずみの両吟歌集『クアドラプル　プレイ』が刊行されました。短歌をふたりで交互につけていくかたちの歌集です。思い返せば、蝦名さんに誘われて、短歌両吟をはじめたのは30年前、1992年でした。あの頃は手紙や葉書で、青森にいた蝦名さんと東京にいた私の間を、一首ずつの歌が行き来したのでした。やがて中断し、数年後には互いに行方が分からなくなり、音信不通のまま長い歳月が過ぎました。

　その後、思いがけず連絡がとれて、2010年に再会したとき、私は広島にいて、蝦名さんは東京にいました。両吟を2013年から再開、昔と違ってメールでのやりとりになり、それは蝦名さんが病で倒れる2020年夏まで、えんえんと続きました。

　　背景の夜空がふいに明るんで君の笑顔に変わる流星　　泰洋
　　次々とすべり台から降りてくるふしぎ座流星群の星たち　　かずみ

蝦名さんとの歌のやりとりは楽しいばかりでしたが、いま、

　　消えることに一途な虹を追いかけて慣れたもんだよさよならなんて　　泰洋

というような歌に気づくと、切なくなります。冬に、闘病中の蝦名さんから「夢物語だけど」と、少し長いメールが届きました。「両吟集を出したい」。タイトルや構成について書いてありました。そのときになってようやく私は、両吟は、私たちの遊びのためだけでなく、蝦名さんが、世に問いたい詩形式であり、短歌の可能性をひらこうとした挑戦でもあったのだと気づきました。「夢物語」を現実にしたいと思いました。
　『クアドラプル　プレイ』には2014年から16年に巻いた4巻（1巻各60首）と前後の20首の計260首を収めています。蝦名さんが末期癌の痛みを耐えながら、初稿に目を通してくれたのは、亡くなる二週間前でした。
　以前に「連句」について蝦名さんは書いていました。連句には駄句がないという話は本当かもしれない、と。なぜなら、次の人が前の人の句を輝かせるから。「座に参加した以上、他人の句を輝かせずにおくものかという気持ち」があるから。私たちの両吟がつづいたのは、蝦名さんのこの心意気のおかげでしょう。
　両吟歌集『クアドラプル　プレイ』には、思いがけないほど自由で楽しい詩空間がひらかれていると思います。みなさまと分かち合えたら幸せです。亡くなった歌人の、どこまでも清冽な足音が、本のなかに、響いています。

　　また生まれまた会うならばブランコで緯度と経度のない公園の　　泰洋

東奥日報　2021年11月