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2021年02月20日 08:40

抜粋。その6。『サッポロの12月の絶対的貧困』

    電気ガス水道が止まってから三日目の夜。
 花南が大輔のお兄ちゃんと大輔、そして美子の助けを得て、橇に山積みした
雪をバスタブに入れた三回目が終わった時に、母が畳の暗い部屋の真ん中に座
り込み、ローソクの灯りを見つめて、独り言のように花南に呟いた。
「母さんが死んだら花南と健太は生きてゆけない。だから私は死なない」
 花南は雪まみれになった手袋を取ってジャンプスーツのまま卓上ガスコンロ
を点火した。コンロの炎に手をかざした。一刻も早く身体を温めたかった。足
も凍てついていた。コンロの炎ではなかなか温まらない。
 母の顔はローソクの灯りのゆらゆらで揺れていた。悲しそうな表情がゆらめ
きで悲しみを一層深めていた。花南はその時の母の表情を記憶に焼き付けた。
 母からは氷に変わる直前の雨の匂い。雨が氷に変わる一瞬に、叩きつける風
に運ばれ、長い冬を、初めて知らせる凍てつく匂い。
 死と向き合った者が放つ時雨の匂い。
 母さんが死んだらわたしと健太は生きてゆけない。わたしは健太と死ぬ他に
ミチは残されていない。でも母さんは「死なない」と言ってくれた。例え死ん
だとして母さんと離れるのはイヤだ。健太も同じ。私は生きる。

 サッポロの十一月は天気が悪い。下旬になると霙混じりの時雨が多くなる。                            
十二月に入ると霙混じりから霰と雪に変わる。今年も去年と同じだった。花南
は霙が霰と雪に変わったこの時の匂いを忘れられなかった。
 …母さんは死と向き合っていたんだ。その結論が「私が死んだら」だった…
 十一月の終わりと十二月の上旬は死と向き合う季節なんだと悟った。
 …時雨は死との向き合い。死がにじり寄ってくる時の匂い…
 もしかして、母さんが死んだとしても、わたしは死なない。健太を連れて死
ねない。生きられないかも、知れないけれど、何としても生きる。死ぬのは恐
い。イヤだ。生きるのが、大変でも、無理でも、死ぬよりもマシ。
 そう思っても花南の眸から涙が零れた。 
 健太がパジャマ姿で母に近づき膝の上に乗った。
 母は健太を毛布でくるんだ。
「母さんは母親失格。健太が発熱したのは風邪ではなくて溶連菌だと思う。去
年も罹った。今日小児科に連れて行っても先生に診てもらえなかった。国民健
康保険証が使えなかった。保険料の滞納さ。免除の手続きをしていなかった」
 花南の涙の量が一気に増えた。
 健太が不憫だった。
 …死と向き合うのは時雨のせいなんだ。時雨には死を身近にさせる匂いが在る
んだ。時雨の匂いには気を付けなくては…

 

 

「健太。父さんが帰って来るって聞いたかい」
「母さんから昨日聞いた」
「そうか。だったら話が早い」
「ナンなの」
「父さんが居なくなったのは健太が二歳の時だったから覚えていないはず」
「うん。ぜんぜん覚えていない。父さんが居るなんて知らなかった。覚えてい
るのは姉ちゃんと何時も一緒に寝ていたことだけ。姉ちゃんは柔らかくて暖か
った。何時も僕を抱きしめてくれていた」
「そんなことを覚えているんだ。今までちゃんと話したことがなかったから今
話す。健太が二歳の時に何があったのかを知っておいた方が良いと思う。わた
しも父さんがいなくなった時のことはあまり覚えていないんだ。でも嫌なこと
は忘れられない。急にいなくなった時は大変だった」

 

「大変って…」

 

「十二月に電気ガス水道が止められた。電気が止まるとストーブも点かない。
水が出ないしガスも使えない。お風呂にも入れない。家の中が凍っていた。部
屋の中はマイナス一度。卓上コンロに手をかざしてホッカイロで温まる生活。
水がないとトイレが使えない。トイレは我慢できない。二人とも昼は保育園だ
から問題なし。夕方からはコンビ二とスーパーをかわるがわる。問題は夜中。
トイレ用の水は雪をかき集めて融かした。雪は融けると一〇分の一になる。そ
れでも橇に山盛りに積むとケッコウな水になる。三回も橇で運ぶと何とかなっ
た。バスタブに雪を入れた。こうすれば自然に融けてくれる。でもこの水では
ご飯を炊けない。オカズも作れない。公園の蛇口は止められていた。凍結防止さ。母さんが二ℓの水を三本買ってきた。それを鍋に移し、暗くなってからに空の二ℓのペットボトルをリュックに入れてスーパーに走った。隠れてトイレの洗
面台の蛇口から水を入れた。半分も入らない」

 

「そうだよね。洗面台の蛇口からボトルに水を入れるのは難しいよね。それと
橇で雪を運ぶのも難しいよ。今は二階だけど前の家は三階だった。姉ちゃん。
雪をいっぱい積んだ橇を三階まで運ぶのはこぼれて大変だよ」

 

「健太。あんたは偉い。よく気づいた。とりあえず半分以下のペットボトルに
キャップしてリュックに詰めた。家に戻る途中に考えた。五〇〇のペットボト
ルで汲んで二ℓに移し替える。移し替えるにはジョウゴが必要だ。ジョウゴな
らある。物置の道具入れの中にある。その時『花南。何しているの』と大輔か
ら声をかけられた。『スーパーに水を汲みに行った。水道が止まっているんだ
』。多分ベソをかいていたと思う。大輔はリュックの中を覗き込んだ。『ちょ
っと家で待っていて。何とかするから』と走り去った。一時間たつとインター
フォンが鳴った。大輔とお兄ちゃんが立っていた。足元に二〇ℓのポリタンク
が在った。『俺一人では重くて無理だから兄ちゃんに手伝ってもらった』。大
輔がカセットボンベ三本セットをふたつ差し出した。嬉しくて涙が出てきた。
お兄ちゃんは『十八ℓは入っている。使って』。一八ℓは運べない。お兄ちゃ                                
んが台所まで運んでくれた。母さんは『ありがとう』を連発。お兄ちゃんが『
明日の夕方にポリを取りに来てまた持ってくる』。橇での雪運びは幼な子三人
の力では三階まで運べなかった。ここでもお兄ちゃんが大活躍。お兄ちゃんは
一人で三階まで担ぎ上げた。それでも雪がこぼれ落ちる。美子が箒と塵取りで
雪を掃き取ってくれた。大輔とお兄ちゃんと美子のお陰で水問題は解決した。
母さんから「明日の午後に電気ガス水道が通る」と言われた。雪運びを始めて
一週間。今日が最後。これで何とかなったと思った時にわたしは大泣き。一週
間は辛かったけれど嬉しかったんだ。大輔が『花南。泣くな。お前が泣くと俺
もつられて泣いてしまう』と言って眼をこすった。美子もわたしと大輔を見て
大泣き。三人で手を繋いで泣いた。わたしは泣き虫だったんだ。よくメソメソ
していた。水と健太の溶連菌で強くなろうと思ったんだ」

 

「お兄ちゃんは優しくて強い。去年鴨々川に鮭が迷い込んで僕と大輔と姉ちゃ
んで捕まえた時もお兄ちゃんが力を貸してくれた。鮭は大きくて重いし暴れる。力が強い。引き上げられない。大輔が『このまま見張っていて。兄ちゃんを連れて来るから』。直ぐにお兄ちゃんを連れて来た。お兄ちゃんはバットで鮭の頭をぶん殴った。鮭は大人しくなった。みんなで鮭を引き上げた。お兄ちゃんは持ってきた出刃包丁で、ベンチをまな板にして、鮭を解体した。あっと云う間に鮭を切り分けた。さすが板前修業中。コンビニ袋に半分ずつを入れた。お兄ちゃんが『アラをもらっていいかい』と言った。姉ちゃんは頷いた。鮭はメスだった。お腹に卵が詰まっていた。それも半分ずつに。母さんは仰天した。夕食は石狩鍋。旨かった。母さんは卵を筋子とイクラに変えた。これを熱いご飯にかけると美味しかった。楽しかったね。美味しいと楽しい」

 

「わたしも昨日のように覚えている。あの時半分の鮭を半分にして美子の家に
お裾分け。…バカ…。話したかったのはそんなことではないのだ。水は大輔と
美子をかけがえのない友達に変えた。大輔は駆けっこではわたしに敵わなかっ
た。保育園で敗けてばっか。口惜しかったんだと思う。何時もちょっかいを出
してきた。我慢できなくなるとプロレスで応戦。力はわたしが上。プロレスで
も勝った。でも小三になると逆転。逆転してからは更に仲良くなった」
 

「姉ちゃんはかけがえのないを話したかったの…」

 

「大輔と美子はただの友達ではないって言いたかったんだ」
「姉ちゃん。かけがえがないって…」
「自分で考えな」
「ちぇ。分かったよ」
「母さんは悲しそうだった。健太が溶連菌にやられて熱を出した時は病院に行
けなかった。健康保険証が使えなかった。二歳の健太が可哀そうでたまらなか
った。わたしはその時に健太を守ろうと決めた。生活保護を受けられてからは
凍えなくなった。病院にも行けた。そしてこの市営住宅に引っ越したんだ」
 


 

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