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2021年03月25日 07:54

(上)。その9。『ブルネテで出会ったハポン』

 Reiは輪島の海水浴場のコンクリートの三段目から立ち上がって陽が沈みかけている海へと走った。わたしも走った。二人での泳ぎは初めて。泳ぎはわたしの方が達者だった。Reiは北国生まれ。わたしは鎌倉。高校までのプールでは指導教官から最後までプールに残され泳いでいた。

「お前のキックは強い。見事だ。でも上半身が弱い。鍛えたらスイマーになれる素質充分。細川。お魚さんになってみないか…」
 能登の海は鎌倉よりも温かかった。Reiが「こんな海で泳いだことない。北海道の海は冷水。一〇分が限界。此処なら一日中海の中で遊んでいられる」。夕陽が水平線に落ちて来た。近隣の人がコンクリートに集まって来た。みんな夕陽を見つめている。Reiはわたしからのバスタオルを被りコンクリートの人の群れに加わった。わたしはReiのバスタオルの端っこを首に巻いた。Reiはわたしの肩を引き寄せた。二人でバスタオルを被った。夕陽が水平線に接した。湘南の夕陽の倍の大きさ。初めての太陽は静かに燃えている。人の群れが増え続けていた。わたしたちも群れの人たちも、みんなの顔が、夕陽に染まっていた。固唾を呑んで夕陽を見続けている。夕陽が水平線に隠れた。その時に群れの人たちから拍手が起こった。わたしたちも拍手。夕陽がすっかり沈むと茜色の空が広がる。それが鮮やか。すべてを見届けた人の群れは、ほどけ、家路に向かう。「俺。夕陽に拍手したのは初めてだ」とRei。「わたしも」。

 

 ブルネテはマオリッドから西へ二五キロ。空港の観光案内所でバス乗り場を教えてもらった。スペイン語をまったく話せないわたしは英語で尋ねた。通じない。スペイン人の英語は極めて早口。聞き取れない。それでメモ用紙を借りて筆談。ようやく通じた。
 ブルネテに着いた。バスターミナルでブルネテの戦いの痕跡を探した。それらしき案内板は何処を探しても無い。日本なら歴史に残り語り継がれている古戦場には必ず目立つ処に何かしらが標記されている。それが見当たらない。不思議。バスターミナルの建屋に入った。観光案内所と思しきブースは無人。カウンターにはかなりの数のチラシやパンフレットが置かれてた。それらをひとつひとつ手に取ってみてもそれらしき記載が無かった。不可解。わたしは立ち往生。待合室で椅子に座り新聞を読んでいる恰幅が良く人柄も良さそうなお爺さんにゆっくりとした英語で話しかけた。
「スペイン内戦でのブルネテの戦いの場所に行きたいのですが…」
 お爺さんは新聞から眼を離しわたしの顔をまじまじと見仰げた。
「ブルネテの戦場の跡は残っていない。今では此の地で戦闘が在ったことを誰も知らない。お嬢さんはハポンかい…」
 お爺さんは穏やかな口調で応えてくれた。良かった。このお爺さんに話しかけて良かった。優しそうな彼の微笑みに救われた。
「はい。わたしはハポンです」
「そうかい。何故ブルネテへ…」
「ジャック白井の足跡を辿っているとブルネテに着きました」
「お嬢さんは珍しいハポンだ。ジャック白井を知ってる若いハポンをワシは知らない。そしてブルネテに来るハポンは初めてだ」
「お爺さんはジャック白井を知っているんですか…」
「当然のこととして知っておる。ではワシが知っている戦場に行くとしよう。何も無い処だが此処から歩いて一〇分で着く」
「ありがとうございます。バスの時間は大丈夫ですか…」
「ここで友人と待ち合わせなんだ。約束の時間まで一時間もある。バスの都合で早く着いてしまった」                           
 わたしはお爺さんの後についた。着いた処はただの原っぱだった。ぼうぼうと伸びた草が密生していた。その処々の隙間にはオリーブの樹が根を張っている。大きいものでは三Mほど。ポツンと立っていた。これがスペインの手つかずの原っぱ。そう思えた。
「ジャック白井が撃たれた場所は分からぬが此処に国際旅団が掘った塹壕が在ったのは間違いない。塹壕は幅広くて深い。戦車が攻めてきても渡れないように掘った。五Mの幅。二Mの深さだ。もう八〇年も前だ」
「お爺さんは詳しいんですね」
「ワシはジャック白井が撃たれた年に生まれたんだ。ジャック白井とワシは同じハポンじゃ。記憶から消えるはずがない」
「えっ。お爺さんはハポンなんですか…」
「ワシはトーレス・ロドリゲス・ハポン。ハポンを名乗っている者はスペインに八百人ほど居る」
「そうなるとお爺さんは慶長遣欧使節団の子孫なんですね…」
「そうだよ。嬉しいね。慶長遣欧使節団を知っているんだね」
「スペインに向かう前に日本とスペインの繋がりを調べました」
「そうか。調べたのか。確かにワシは子孫じゃ。伊達藩の男伊達の子孫じゃ。ワシはハポンに矜りを持って居る」
 わたしはスペイン全土に八百人しか居ないハポンと出会った。ブルネテで。困り果てて声をかけたお爺さんがハポンだったとは。偶然とは素晴らしい。これも何かの縁。
 わたしは偶然に感謝した。
「どうしてブルネテの戦いの跡が残っていないのでしょう…」
「スペイン人は内戦の記憶を消し去りたいんだ。消し去りたくても消えてくれない。だからわざわざ記憶を呼び起こすのは嫌なんだ」
「それだけ忌まわしい内戦だったのですね」
「内戦に勝利したフランコはヒットラーの手先。スペイン人には内戦に敗れてからもファシストとの闘いは長く続いた」
「そうなんだ。そうですよね」
 何ひとつ戦いの跡が残っていない戦場だった原っぱにわたしは手を合わせた。ジャック白井に。そして此処で亡くなった自由を求めて世界中から馳せ参じた誇り高い勇者に手を合わせた。時代が時代だったらReiも奴も此処に居た。原っぱに居た。原っぱを焼き付けて手を合わせた。
 バスターミナルに戻る途中でお爺さんが「お嬢さんのこれからは…」。
「マドリッドに戻って明朝に飛行機でバルセロナに向かいます。訳が在ってカタロニアの田舎を見たいのです」
 お爺さんが名刺を差し出した。『コリア・デル・リオ ハポンの会 会長トーレス・ロドリゲス・ハポン』。住所と電話番号が記載されていた。「何時でも構わないからスペイン旅の途中でアンダルシアの我村を訪ねて来て欲しい。歓迎する。色々をお嬢さんと話したい。その時は我村のハポンたちも集まるけれど構わないだろう」                            
 わたしは手帳の一枚を破り名前をローマ字で書いた。                           
「ありがとうございます。こんなに親切にして頂いた上にお招きまで。何時になるか分かりませんが必ずコリア・デル・リオに行きます。アンダルシアの風も感じてみたいので」 
 わたしは深々と頭を下げてお爺さんと別れた。   

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(上)『ホタテと瓢箪』。その8。「ジャック白井」(上)『ホタテと瓢箪』。その10。「な~んだ」
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