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支援総額
目標金額 1,100,000円
- 支援者
- 0人
- 募集終了日
- 2021年5月10日
(上)『ホタテと瓢箪』。その11。「聖地カルドナ城」
翌朝わたしはバルセロナに向かった。バルセロナから北西に九〇キロ進むと目的地のカルドナに着く。此処にはカルドナ城が在る。九世紀に築かれ一度も堕ちていない城。キリスト教圏を南からのムーア人の侵攻を防いできたイスラム教圏との国境だった古城。スペインの人たちによるレコンキスタ(国土回復運動)の象徴的な古城。そう云えばグラナダ東南の丘陵に建つアルハンブラ宮殿も元は城塞。こちらも九世紀に築かれた。築いたのはイスラム教徒。九世紀はどちらにとっても重要な時代だったのだろう。
わたしはグズグズしていた半年の間にスペインを調べた。調べているうちに行き先をリストアップできた。そして優先順位を記した。筆頭だったのがブルネテ。次がカルドナだった。調べている時間は楽しい。想いを馳せられる。調べている土地の歴史を考え、写真の街並みと景色を記憶に残し、そこに暮らしている人たちの模様を思った。どんな人たちなのだろう。どんなものを食べているのだろう。どんな子供が遊んでいるのだろう。そうしている間にわたしは何回もスペインに行った気分になった。わたしのシュミレーションにまったく登場しなかったのがマドリッド空港での巨大な太陽。バルセロナの太陽はマド
リッドよりも更に大きく輝きが強い。スペインは何処に行っても眩しい。
わたしのスペインの課題はスペイン語だった。スペイン語学習に意欲が湧かなかった。それで安直な先送り。スペインは多民族国家。小学校では母国語の他に英語を教えている。スペインでのコミュニケーションは英語とボディランゲージで何とかなる。それでも『スペイン語入門(初級編)』を買った。最初のページで閉じた。アルファベットが三十三文字。増えた七文字の発音が分からない。やたらアクセント記号が打たれている。気を取り直して文法のページを開くと少し安心。基本はSVOと書かれていた。これなら何とかなりそう。その次のページでまた躓いた。「未来完了」「過去未来完了」と題された例文が載っていた。…なんじゃ。これっ…。現在進行や現在完了とか過去完了なら理
解できる。馴染んでるから。ちょっと放っておこう。気になっていた発音のペ
ージでは完全に挫折。二重母音三重母音。そして二重子音。アクセントはその呼び名の通り強意。それはそうだろう。アクセントなのだから。しかしどう強く発音するかは書かれていない。初級編なのだからもう少し丁寧に解説して欲しいものだ。語学は座学では無い。分からないのは当然と都合の良い理屈を見つけた。本当に必要になった時には会話教室の門を叩くのが最良と決めた。でも単語の一〇〇は覚えておかなければスペインの人たちに失礼だしわたしも困ることになりそう。書店で『スペイン語は一〇〇の単語で大丈夫』を見つけ買った。一〇〇の単語で大丈夫な筈がない。そう思いつつ臆面もなく『大丈夫』と言い切った思い切りの良さに飛びついた。一〇〇の単語の四割ほどにアクセントが付いていた。この本は安直さが徹底していた。示されても発音できないわたしのような読者のために発音表記は片仮名だった。本当にわたし向き。以来わたしのスペイン語の単語帳の発音記号は片仮名になった。
スペインのバスは速い。のんびりと走らない。マドリッドからブルネテまでの二五キロを四〇分で着いた。何ケ所も在るバス停で客を降ろし乗せての所要時間。景色を眺めているうちに気づいた。信号が少ない。走り始めるとハイウェイ走行のよう。遅い車をバンバン抜く。道路が比較的広く整備されているのもバンバンを後押ししている。日本ではバスはバス停の到着予定時刻よりも遅れるのが常。スペインでは速く着く。この発見はこれからに役立つ。
カルドナには二時間余りで着いた。
朝の七時の飛行機でマドリッドを発つと八時過ぎにはバルセロナのエルプラット空港に到着。そこからリムジンバスでバルセロナの市街地のバスターミナルに。この間は約四〇分。カルドナ行のバス乗り場を探し出し直行バスに乗ったのが一〇時前。思ったよりも移動がスムース。出だしは極めて順調。『スペインの旅』と題されたガイドブックに…外国人が交通機関で移動する時にはパスポートの提示を求められる。外国人にとって提示は義務。提示しないと乗車チケットを売ってくれない…と書かれていたのでパスポートを肌身離さずそして直ぐに取り出せるように一〇〇均で買った首から下げる透明なファイルに入れ衣服の外には出さず中にしまい込んだ。こうして留め置くなら万がイチ紐が切れても下に落ちない。ジーンズのベルトが止めてくれる。やはりカルドナまでの乗車券を購入する時に提出を求められた。やはり此処は日本では無い。
バルセロナの市街地を抜け郊外に出ると辺り一面は茶褐色に変わった。その色が何処までも続いていた。これがテラロッサ。スペインに来た実感が強まる。スペインの大地は乾いている。そりゃそうだ。あの太陽が常に照りつけている。思った通りバスはバンバン追い抜いて走る。怖くはない。モタモタ走られるよりも快適。
カルドナ城を車中から発見。遠くに小さく見える巨大な建造物。それがどんどん近づいて来る。このロケーションは何処かで見た。わたしはバスに揺られつつ思い起そうと記憶を辿った。記憶は写真だった。そうそう。思い出した。高二の地理の教科書。コロラド高原のモニュメントバレー。砂漠の中に突如現れたテーブル状の台地の上に風化されない重厚な岩が城のようにそびえ建っていた。日本には無い景観が記憶の底に沈殿していた。ナバホの聖地と呼ばれていた。アメリカの先住民の聖地。まさしく聖地と呼ぶのにふさわしい景観が印象に残った。ならばカルドナ城も聖地なのでは…。
カルドナ城が建つ丘の下に立った。
小高い丘のテッペンを均しその上に石を積み上げた造り。丘の高さは約三五M。元々は緩やかだった傾斜を削り出したと思った。どう見ても自然ではない勾配。丘を城郭に仕立てている。日本の山城もそうだ。カルドナ城と日本の城との違いは堀。堀が無かった。高さ十三Mと案内板に記されていた円柱状の塔は物見櫓。正面からの敵に備えていた。塔の高さが十三Mならば城の高さの最大は十五Mほど。丘とあわせると五〇M。
台地に突如出現したそびえ立つ堅固な要塞を見仰げたならこの城を堕とすのは無理と南から攻め上ってきたムーア人は諦めたであろう。威風堂々と云うより敵を寄せつけない威圧感がすざまじい。遠く離れた処から全体を眺めるのではなく丘の下から見仰げると分かる。十七階建てのビルに匹敵する高さ。それもペンシルビルでは無いのだ。丸ビルのような石造りの要塞の凄みが。ムーア人の諦めを証明するように、カルドナ城は今日まで一度も堕ちていない。九世紀によくぞ築いたものだ。石を破壊する大砲が無かった時代では攻め堕とそうする敵を諦めさせるに充分な構えと備え。堕ちない城は無いと戦国の頃から語
り継がれている。けれども堕ちない城が此処に在った。カタロニアに住むキリスト教徒にとってそれだけムーア人の侵攻は脅威だったのだろう。何としてでも此の地を守らんと絶対に堕ちないと確信できる城を築いたのだ。これがレコンキスタの魂。やはりこの城は聖地なのだ。レコンキスタの聖地カルドナ城。
かたやアルハンブラ城塞はキリスト教徒によって攻め堕された。
これによりレコンキスタが終わりを告げた。
リターン
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『どうせ死ぬなら恋してから(上)(下)』の書籍を郵送します。
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10,000円
10000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせてもらいます。
『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』(圧縮ワープロ原稿)を添付メールで送ります。
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15,000円
15000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。
『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』『スパニッシュダンス(上)(下)』をワープロ圧縮原稿を添付メールで送信します。
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- 200
- 発送完了予定月
- 2021年7月
20,000円
20000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。
『どうせ死ぬなら恋してから(上)(下)』の書籍を郵送します。次に『未来探検隊』『スパニッシュダンス(上)(下)』『』アンダルシアの木洩れ日』のワープロ圧縮原稿を添付メールで送ります。
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- 2021年7月