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jean1949paul

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2021年5月10日
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2021年04月26日 08:00

(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その41。「アジェール」

    わたしは三日の休暇を一日縮めて出社した。

 塞いだままのわたしではみんなに迷惑をかける。支社の空気を重くドンヨリさせてしまう。わたしは此処で生きているのだ。迷惑をかけられない。集中してパソコンに向かった。フローリカも中村君も気遣ってか、何時もと同じように接してくれる。二人とも「ニックはどうだった」とは尋ねない。二人が尋ねない理由は分かっている。気合を入れて普段通りに振る舞っていても支社に入る時のわたしの「おはよう」で察したのだと思う。それは一日短縮した休暇から繋がっている。

 事務処理を始めてから一時間が経った。

    支社長から「細川君。『Siboney』に行こう」と声を掛けられた。

 支社長には全てを話さなければならない。途中で込み上げたり声を震わさぬように冷静に見たままを伝えなければならない。それが心配してくれた人への礼儀。わたしの失意とは局地戦の戦闘がもたらした現実。彼に同情されないように言わなければダメ。同情されるとわたしは情けにすがってしまう。取り乱してしまう。ここは踏張り処。

「ニックは生きていたんだね」

「はい。元気そうでした」

「なのに君が沈み込んでいるのはどうして…」

 わたしはテント内の様子を再現した。感情を一切排除して。

「そこはわたしが入り込めない、入ってはいけない世界でした」

 アジェールがコーヒーとカフェオレを運んで来た。カップ&ソーサーをテーブルに置く時にわたしを見た。心配そうな不安そうな視線をわたしに送ってきた。「アジェール。後で話しがあります」とわたしは笑顔を作って彼の視線を払拭しようと試みた。それは少し効を奏したのかも知れない。「Si」とアジェールが微笑んでくれた。

「話しの概略は分かった。ニックと三人の親子の無事を喜ばしいじゃないか。君には辛い想いをさせてしまったな」

「辛くとも生きているのは喜ばしい。そう思うことにしました。落ち着いたらニックは必ず支社長に連絡すると思います。その時には力になって下さい。わたしの分も。わたしはもう力になれない」

「分かった」

「ニックとは秘密の約束がひとつ在りました」

「なに…」

「大聖堂で待とうは二人の合意でした。ニックはお遍路姿でわたしが着く三時間前の昼前には着いていました。それをニックから内緒にと言われたので約束を守っていました。ニックはリバプールで池脇慎一氏とキャサリンと一緒でした。その間に池脇慎一氏と踏み込んで話していました。それで心中を予感。キャサリンの妊娠も知っていました。彼女が聖大ヤコブに受胎を告知するまで二人は生きていると。それが張り込みの決定要因でした」

「そうだったんだ。そんなことが裏側で在ったんだ。何れにしてもニックには世話になったな。アイツらしい。ありがとう。秘密を破ってくれて。感謝する。わたしはニックの力

になるぞ。細川君。こんな時は泣いても良いんだ。僕しか居ないし…」

 支社長はスーツの内ポケットから二枚のハンカチを取り出して差し出した。二枚とも白地に絵文字がプリントされていた。一枚目はニコニコマーク。二枚目には大泣きが。わたしは吹き出してしまった。吹き出した途端に涙が頬を伝ってしまった。

「お気遣い。ありがとうございます」

 わたしは二枚のハンカチで左右の涙を止めた。

 アジェールはカウンターの奥で時折わたしを見ていた。

 わたしはその視線を感じ取っていた。けれど彼の心配気と不安そうを無視した。無視する必要が在ったのは支社長の同席。彼を惑わしてはいけない。

「ところで君はアジェールと仲良しなのかい…」

「アジェールとは会話レッスンを続けていました。『Siboney』に来るようになってから間もなく始めました。わたしはスペイン語とバスク語も少し習っています。わたしは日本語と日本を。このふた月は中断。アジェールに申し訳なくて…」

「そうか。それは楽しそうじゃないか。そのせいなんだな。君のスペイン語は日増しに良くなっているとフローリカが言っていた。私は社に戻る。君はゆっくりして構わないから」

 支社長が席を立ち店を出た。

 店を出たのを確認してわたしは「アジェール」と右手を挙げた。

「ごめん。長い間お休みしてしまった。明日から再開しましょう」

「ホント。良かった。もう終わってしまったのかと残念だった」

 アジェールが日本語で言った。

「アジェール。お休みしている間も勉強していたんだ」

「うん。BSでNHKの子供番組が一日二時間放映されているんだ」

「凄い。日本語が上手になっている。わたしのスペイン語とバスク語は停まったまま。恥ずかしい。私。また頑張るからヨロシクね」

「またお願いします」

 わたしはマスカラーが崩れて、みっともない顔になっているのに気づかずアジェールに頷いた。彼は言っても良いのか、迷い悩みつつ不自然な間が空いた後にさりげなく言った。

「のぞみ。マスカラーを直さないと…」

 わたしは狼狽しつつもトイレに駆け込み自分を取り戻した。  

 

 

(上)の抜粋。その40。「一歩を踏み出せなかった」(上)の抜粋。その42。「国境なき医師団」
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『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』(圧縮ワープロ原稿)を添付メールで送ります。

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