小説好きのあなたに未発表の作品を届けたい。
支援総額
目標金額 1,100,000円
- 支援者
- 0人
- 募集終了日
- 2021年5月10日
(下)『ゴトビキ岩大権現さま』。その3。「方針が決まらない」
今は母と父の形見を確認するだけで充分。そう思えた。
考え、決めなければならぬ問題に向き合う。それが今なのだ。
わたしはこれからサンダンデールで暮らすのか、鎌倉のこの家で生活するのか、決めていない。スペインで居処を見つけたと云っても母が亡くなった今この家を守るのはわたししかいない。守らない、守れないのなら売却するか、他人に貸すのも方法。
わたしはこの家で育った。
売却も賃貸も現実的ではない。売却も賃貸も致さず、スペインで暮らすと決めた時には、この家は空き家になる。空き家は家の痛みが早い。それに不用心。誰かに管理を頼むのも一案。しかし誰かを煩わせる。それは心苦しい。途方に暮れるとはこのこと。何ひとつ方針が決まらない。
「母の抗癌剤治療の看護」と支社長に一ケ月の有給休暇届を提出して鎌倉に戻ってきた。彼は快く応じてくれた。一ケ月が過ぎる前に母の状態と実情を支社長に電話で伝えた。彼は驚いた。それでも「お母さんを見守るのが今の君の任務」と言ってくれた。
支社長への電話の次の日。メールが届いた。
ー君が居ないと上手く仕事が回らない。慢性的な人手不足。三人とも限界に近づいた。それで二人を雇い入れる。スペイン人の女性と日本人の男。君が戻って来られるのは何時と決められない。就業規則では三ケ月の休職が認められている。異存なしと思うが、確認が必要なので返信が欲しい。君の応諾を待って雇用する二人の処遇を決めるので宜しくー
わたしは直ちに返信。
ー支社長には迷惑をかけ通し。今回は心配まで。感謝しています。了承の返信です。医師が余命半年と私に告げたのは戻って間もなくでした。悲しいお知らせになりますが、昨今の母の衰弱ぶりを見ていると後五ケ月も持ち堪えられそうにありません。中村君とフローリカに私は私なりに精いっぱい頑張っているとお伝え下さいー
それから二ケ月が経った。
わたしは母の逝去を支社長に伝えた。
通夜には東京本社から支社長名で立派な花が届けられた。その礼は今の処メールだけ。休職期間の残りは二ケ月。三人ともわたしの職場復帰を待っている。有り難い。思案のしどころがやってきた。幾ら思案しても母の存在の大きさばかりが繰り返し込み上げてくる。
母が回復するのを前提に帰国したわたしはそれ以外を考えられなくなってしまった。元気な母を眼に焼き付けてサンタンデールに戻り職場復帰。その前提が根底から崩れてしまうと痴呆状態。退職届を出すなら早い方が良い。迷惑が少ない。残りは二ケ月。と云ってもひと月前がリミット。それまでに結論を出さなければならない。退職するにしても一度はサンタンデールに戻り、部屋を片付け。必要な荷物を鎌倉に送らなければならない。世話になりっぱなしの支社長には礼を尽くしても尽くし切れない。ことある度にわたしを支えてくれたフローリカと中村君には感謝を告げなければ…。
残された時間で我家を売り、母が大切にしてきた着物を処分し、ピアノも業者に引き取ってもらい、父の壺と掛け軸は贔屓にしていた骨董屋に相談。そうしてサンタンデールに戻るのは不可能ではない。しかしその間は猛烈に忙しくなる。もの凄いエネルギーが必要になる。今のわたしには到底無理。力が出ない。
この家でわたしは子供から大人になった。大切な空間。この家はモノではない。幼い頃からの思い出がいっぱい詰まっている。父と母が意を決して建て苦労して維持してきた家。それを抜きにして考えられない。そしてわたしは故郷を捨てられない。サンタンデールは第二の故郷。第二は第一があって初めて成立する。
もはや思考停止状態。グチャグチャになってしまった。
唯一使えそうだったのが費用を支払い管理会社との契約。費用の多寡にもよるけれど、そう高くなければ、期間を定めた長期不在の時の管理方法としては有用。これなら誰にも迷惑をかけない。例えば半年はスペイン。残りは鎌倉。しかしこれも絵に描いた餅のよう。半年間はサンタンデールのオフィスに出勤。残りの半年は日本に戻ってくる。そんな働き方などあり得ない。そう思っても今のわたしにはこれ以上の解決案が浮かんで来ない。
困った時の支社長。
思い切って現況を在りのまま記してメール。
少し気が楽になった。ようやく自分が戻ってきた。落ち着いた。
落ち着くと思い出した。
告別式を終えた時に伯母から言われた相続の手続き。
「お父さんが残し、お母さんが守ってきた財産を、掌握するのも大切な供養のひとつ。財産にはプラスもマイナスもある。マイナスとは借金。無いと思うけれど確認が大切」
そうなんだ。今やるべきことは身の振り方の前に相続なんだ。
パソコンにメール着信の合図が鳴った。
ー君の混迷が痛いほど記されていました。無理ないと思います。しかし君が居ないと僕は困る。落ち着くまで、もう少し時間が必要ですね。私の任務は数字の他も重要が在る。他とは働いている社員の心を大切にできなければ良い仕事に繋がらない。これを何時も言い聞かせている。三ケ月の休職期間の再延長を提案します。就業規則に明記されておりませんが私の職権で可能です。検討下さいー
またも助けられた。
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リターン
5,000円
応援してくれた方には直ちに感謝のメールを送らせてもらいます。
『どうせ死ぬなら恋してから(上)(下)』の書籍を郵送します。
- 支援者
- 0人
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- 200
- 発送完了予定月
- 2021年7月
10,000円
10000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせてもらいます。
『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』(圧縮ワープロ原稿)を添付メールで送ります。
- 支援者
- 0人
- 在庫数
- 200
- 発送完了予定月
- 2021年7月
15,000円
15000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。
『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』『スパニッシュダンス(上)(下)』をワープロ圧縮原稿を添付メールで送信します。
- 支援者
- 0人
- 在庫数
- 200
- 発送完了予定月
- 2021年7月
20,000円
20000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせて頂きます。
『どうせ死ぬなら恋してから(上)(下)』の書籍を郵送します。次に『未来探検隊』『スパニッシュダンス(上)(下)』『』アンダルシアの木洩れ日』のワープロ圧縮原稿を添付メールで送ります。
- 支援者
- 0人
- 在庫数
- 200
- 発送完了予定月
- 2021年7月