福岡朝鮮初級学校の子ども達にお芝居を届けたい

沖縄タイムス 阿部岳さんの講演会を聞きました。前回の続きです。

 

本土の免罪符…

東京出身の阿部さんは、”私なりの考え”と前置きをしたうえで、「沖縄差別がなぜ起きるのか？」を説明してくださいました。

沖縄に米軍基地の70％が集中していることについて、日本人の53％が「それは沖縄に対して差別的だ」とわかっている（2017年NHK世論調査）。わかっているからこそ、本土の人間が罪悪感を持たないで済むための免罪符としてデマやヘイトが流通するんだ、と。そして一定の需要があって、ビジネスになり、そこには決して理屈や論理があるわけではないと。私はこの「本土の免罪符として」というところに、胸が痛みました。

 

 

絶対的中立なんて幻想でしかない

メディアは中立とか公平とか言いがちだけど、「中立」というのは謎だと阿部さんは続けます。いったいどこからどこまでの意見をもってして、「ここがピッタリど真ん中だ」と言えるのか？と。

もちろん大前提として「公平な報道」は心がけるべきだし、反論の機会を提供したり、多様な意見を紹介すること自体はいい。

ただし・・・多数派→少数派　本土→沖縄　日本人→コリアン など、すでに差別がある場合に真ん中を取るというのは全然公平ではない。公平気取りで記事を併記するのは、”いじめ”を横で見ているのと同じで、それはむしろ”加担”でしかない。

ましてや、一方的にヘイトスピーチをばら撒いている側を、「表現の自由」として保護する必要はないし、反論をいちいち聞く必要もない。公平というのは対等な土俵の上での話であって、差別の力関係がある時にそれは全く必要ないはず、と力を込めて話されました。

攻撃目的でリプライされるスクショだが、

「自分は非常に良いことを言ってるな」としか思わない、と阿部さん

 

 

『偏ってるというのは「違っている」ということであって、当たり前のこと』『みんな偏って、みんないいと私は思っている』という阿部さんのことばは、すごく明解でした。要は、「立場」の問題です。

 

　沖縄の側に立って報道する

　被害者の側に立って報道する

 

いずれも、不確かな何かを基準にした曖昧な"中間・中立"ではなく、「差別をなくすために報道する」という立場にきちんと立っているだけであって、それはつまり、「意見が”違う”」というだけなのです。レイシストというのは、この当たり前のことを受け入れることができないばかりか、デマやヘイトで不満をぶつけ発散し、そこに勝利や支配といった快感を求めたりする残念な人たちなのだと理解しました。

 

本土の人は本土に取材を

オスプレイの配備前、10年来のウチナーンチュの知人（宜野湾市在住）に取材を申し込んだ阿部さんは、「私たちはもう十分声を上げているの、それを聞かないのは本土の側の問題なので、本土の人間は自分で責任とって、本土に取材してください。」と言われ、これはもうその通りであって、「そうですね」としか言いようが無かったそうです。

また、特定秘密保護法法案成立の際、「大切な節目はウチナーンチュが記事を書くべきだ」と言われたとも。当時、特定秘密保護法案の担当していたのは自分だったけど、「東京のものが沖縄の未来に責任が取れるのか」と言われ、「それは真実だな」と思ったそうです。

沖縄での本土出身者は、マイノリティの中で暮らすマジョリティです。そういう立場から阿部さんは言います。「ウチナーンチュにどう思われるのか、とか、あの人がどう言ってたとか、そういうことに寄っ掛かるのではなく、自分が本土出身者としてどう責任を果たしていくかにフォーカスすべき」と。

 

ポジショナリティについて考える

最後にまた「立場」についてです。
どうやったって、自分の属性を変えることはできません。ゆえに、そこを非難することは差別だし、そこをわきまえない言動もまた、（差別とまでは言えないかもしれないけれど、）どこかでマイノリティにダメージを与えることにつながるのだと私は思ってます。

「立場」とは結局、ある事柄に対する賛成・中立・反対といった立場だけでなく、どのような人間として（どのようなWeの側に立って）発言するのか、という側面があって、これが発言者の責任にかかってくるのだと考えます。このことに思い至ったとき、私の中では、いっしょに水俣エコパークに行った相思社（水俣病センター相思社）職員の永野三智氏が、「この碑はダメなんだよ。だって、主語がないっておかしいでしょ。」と、慰霊碑の文言にダメ出しをしていた記憶に、突然ピンとつながりました。

埋立地に建立された水俣病慰霊の碑

「二度とこの悲劇は繰り返しません」の主語は誰？

 

なかなか難しい問題ですが、講演会の最後、阿部さんは、「自分の責任を自分の足で立って考えるべきで、記事を書いて満足するのではなく、例えば実効性のあるヘイトスピーチ条例を制定させるとか、辺野古の新基地建設をやめさせるとか、結果を求めて記事を書いていきたい」と、ご自身で導き出した方向性を私たちに指し示してくれました。

以上。とてもわかりやすくておもしろく、たいへん勉強になった講演会でした。

 

質疑は実践応用篇講座

講演会後、いろいろな質問や意見が交わされましたが、印象に残ったことだけ備忘録的にあげておきます。

 

◉ ヘイトスピーチに咄嗟に出会ったときの対応は？

 

レイシストには「気持ちよくさせない」ことが大事。あなたがふりあげる拳をもしかしたらマイノリティの方が見ているかもしれない。実際に（ヘイトスピーチが）止まるかどうかより、「たたかう姿勢を社会が見せること」が素晴らしいこと。

阿部さんおすすめ虹色旗印／折り畳んでバッグに常備可

 

◉カウンターは直接行動だけじゃないです。

 

例えば、「（ヘイトスピーチが聞こえるから）近寄らないほうがいいですよ」と、人々をレイシストから遠ざけること、パンフレットでの周知活動など。

 

 

◉ 神奈川新聞の石橋記者のことば

 

「これまで新聞は「客観」とか「中立」とかいう建前で記事を書いてきたけれど、そんな記事は差別をなくすためには何の役にも立たず、新たな傍観者を増やしただけだった」

「私は差別をなくすために記事を書くんだ」

「メディアが差別をなくす先頭にたたなければいけない」

阿部さんは、これらのことばに強く影響を受けたそうです。

 

参加してくださった方々の感想

・　阿部さんに対する攻撃もある中、ゆんたくしながら闘っておられることに敬意を表します。沖縄カウンターズが作られたというパンフで勉強したいです。

・　記者として差別や不条理をなくすということに軸足を置いて報道をされているということに感銘しました。公正な社会の実現を目指すスタンスのない報道は、むしろ害をなすものかもしれません。

・　ヘイトスピーチについて中立や傍観しているだけではヘイトの側に加担することになる。私自身も無関心から知らず知らずのうちに差別する側に加担していたのかもしれません。

・　自分は微力ですが、傍観者にはならず、できることをやっていきたいと思います。

・　私もマスコミの中立性にスッキリしないものを感じていましたが、阿部さんの中立の話を聞いてスッキリしました。

・　差別、ヘイトスピーチにノーと言うことに躊躇することはないんだな、と、素直に思いました。

 

沖縄カウンターズの皆さんに敬意を表して

 

深水登志子が書きました