福岡朝鮮初級学校の子ども達にお芝居を届けたい

京都の朝鮮学校の保健室の話やこっぽんおりの講座を通して、頭に思い浮かび、「どうしてもこの方にはお話を伺いたい」と思った先生が福岡にいました。今回取材をさせていただいたのは、教員としても大先輩であり、『福岡地区朝鮮学校を支援する会』の事務局長でもある太田眞由美さんです。

太田さんは、ご退職後に再任用を希望され、現在も公立小学校の保健室の先生として勤務されています。

 

きっかけはフィールドワーク

太田さんが朝鮮学校に関わりを持ち始めたきっかけは、福岡市の教職員組合の養護教員部の部長をしていたときに企画したフィールドワークでした。

総勢30名ほどで山口県に行き、宇部の長生炭鉱や門司の関門トンネルなどの朝鮮人強制連行の跡をたどったそうです。

また、そのフィールドワークの滞在先に福岡朝鮮歌舞団のユヒャンさんが呼ばれ、その歌や踊りを見て以来、歌舞団との付き合いが始まります。今も”追っかけ”をするほどのファンなのだそうです。

福岡朝鮮歌舞団メンバーと太田さん

 

支援する会を結成

その後、福岡では朝鮮学校を支える組織づくりが始まります。

当時、福岡市には朝鮮学校があるのに支援をする団体がありませんでした。福岡県日朝友好協会の中村元気会長を中心に、「ないなら自分たちでつくろう」ということになり、『排外主義にNO!福岡』や『平和、人権、環境福岡県フォーラム』などの市民グループが協力し、2015年5月、ついに『福岡地区朝鮮学校を支援する会』が結成されるのです。

太田さんはその立ち上げの際に、中村元気会長から「運営に関わらないか」と声をかけられ、スタートメンバーとして事務局長を務めることになりました。

 

朝鮮学校の子どもたちと出会いたかった

太田さんは、現職教師の頃に教職員共済に在籍していたことがあり、その間、週4日の勤務体制の内の平日休みを利用して、福岡朝鮮初級学校を訪れるようになります。その理由は「子どもたちと出会いたかったから」と、とてもシンプルでストレート。気負わずに、なんでもいいから顔をつなごうと、主に幼稚園部に関わらせてもらったそうです。

子どもたちのお遊戯を見せてもらったり、いっしょにお弁当を食べたりしながら、先生方や子どもたち全員の名前を覚えていきます。ピアニカの教え方が高度で、あれよあれよと幼稚園児たちが上手に演奏できるようになっていく様は、非常に勉強になったそうです。

「とにかく力になりたかった」という太田さんは、実際に朝鮮学校の内部にかかわってみて、ハッキリと分かったことがあったと言います。それは、「人手が足りない」ということです。

子どもたちへのおやつの配布や昼寝用の布団畳みなど、目につくことは何でも率先して動きながら、もっと他に何かできることはないか？と考えます。しかし先生たちを見回すと、あまりに忙しそうで、指示を仰ぐのさえも憚られるぐらいだったというので、どれほどの忙しさなのかはぜひ想像してほしいと思います。

子どもたちが15時半に下校した後も夜遅くまで残って働いている先生たちの姿、お誕生日会や学校の行事での先生たちの動き、全て手作りの凝った飾り付け等々、それらのどれもに公立学校で働く自分が置かれた環境との違いにギャップを感じます。

 

保健室よりもまず…

私は京都の朝鮮学校の保健室の話題を引き合いに、太田さんにいろいろと質問をしましたが、その返答の中で本当に驚いたエピソードがあります。

保健室がない福岡朝鮮初級学校でも、養護教諭の太田先生がいてくださるということで、印刷室の片隅にスペースがつくられ、「ここを保健室として使ってもらえませんか？」と学校側から提案されたそうです。しかし太田さんは、ありがたい申し出だとは分かっていながらも、断ったというのです。当然私は、「え？何でですか？？」となったのですが、その理由を太田先生は語ってくださいました。

 

「朝鮮学校の先生たちは朝早くから夜遅くまで、子どもたちみんなの成長を見守りながら本当に一日中惜しみなく働いている。というか、人が少ないから働かざるを得ない。だけど新しい先生を雇うに雇えない。そして、それだけ働いても、1人で暮らしていくことができないほどのわずかな金額のお給料しか出ない。それなのに、公立学校で働いている感覚で保健室の中でじっとしていることなんて、とてもできないと思ったから」、と。

「全ての職員が忙しくて余裕がない中で、保健室よりも

先に手を差し伸べるべきことは、もっといっぱいある」

 

太田さんは「（今はまだ）保健室はできなくてもいい」と説明します。これまでも今も朝鮮学校は、学校整備や様々な修繕や補修等を全て教職員や保護者、青年部や商工会などが連携してやってきている。でも、どれだけつながりやマンパワーはあろうと、結局はお金が足りないのだと。

例えば先生の給与を手厚くしたり、新しい先生を雇ったり、というのはお金があれば解決できる。修繕や補修等の材料や道具を調達することもできる。

だからやはり根本的には、法制度を変えなければいけないし、その機運を高めるためにも日本社会に蔓延る偏見や差別意識を払拭しなければいけないということになります。

美化活動で花壇の手入れをされる太田さん

 

朝鮮学校と市民とをつなげるパイプ役

『福岡地区朝鮮学校を支援する会』の事務局長としての太田さんは、まずはそこからだと思い、この5年間ひたすら「朝鮮学校を知ってもらうこと」に心を砕いてきました。

「とにかく知ってもらわなければ変わらない」という思いで、朝鮮学校の様々な行事に日本の市民を巻き込んでいきます。思い返せば、私もその取り組みの中で、初めて朝鮮学校に足を踏み入れ、あっという間に虜にされた1人でした。

もともと納涼祭だけは地域の方々が招かれていたそうですが、太田さんたち支援する会はそれ以外にも美化活動、運動会、入学式や卒業式、餅つき、文化祭などに日本の市民を結び付けました。そのおかげで、今では多くの日本の市民が朝鮮学校の行事に気軽に足を運べるようになりました。

今は新型コロナウィルスの蔓延によって一般の参加を見合わせる事態が続いていますが、収束後にはぜひ皆さんにも各地の朝鮮学校の催しに足を運んでいただけたらと思います。

子どもちと一緒に搗きたてのお餅を丸める太田さん

 

ぜひ、「支援する会」に入会を！

また、『福岡地区朝鮮初級学校を支援する会』は、会員を幅広く募集しています。会員になると、いろんなイベントの案内が届くようになるので、朝鮮学校を訪れる機会を逃すこともなくなります。

支援する会が求めるものは、以下の4項目です。

1. 朝鮮学校の生徒・児童に対する差別や偏見をなくし、平等で心豊かな社会を！

2. 朝鮮学校と日本学校の交流を深め、日本とアジアの未来を担う子どもたちの育成を！

3. 朝鮮学校への教育助成金を私立学校並みに！

4. 朝鮮学校にも高校無償化の適用を！

力になりたいと思った方は、ぜひ会員になって支援の輪を広めてください。

年会費：個人 1,000円／団体 3,000円

郵便振替：福岡地区朝鮮学校を支援する会

口座番号：01780-5-166285

メール：sien-peace@fukuoka-forum.jp

★会員には、支援する会の「通信」と各種イベントの案内をお送りします★

年会費1,000円というのは、12ヶ月で割ると月々83円です。「1ヶ月で"たったの"83円の支援」と思うかもしれませんが、たくさんの会員が集まることで、公的な補助を受けられない朝鮮学校にとっては学校運営を支える大きな土台となります。どうかこの機会に入会をご検討いただけるととてもうれしいです。

また、今年6月に開かれた支援する会の総会で、「会費を納めた会員は60%」という、ちょっと残念な報告がありました。継続しての支援に自信のない方には「福岡ハッキョ一口千円募金」をおすすめします。こちらは毎月の支援となりますが、口座振替がなされるので納金を忘れることはありません。また、1回だけの単発の募金も可能です。詳しくはサイトをご覧ください → https://fces-uri.com/hitokuchi/

1日33円から始められる福岡ハッキョ支援

 

太田さんの取材では、朝鮮学校に深く関わった人にしか言えない、実感のこもった重たいことばを聞かせていただくことができました。そして、政治の世界では安易に使われる「寄り添う」ということばの本来の意味・本来の姿をそこに見ました。

私は朝鮮学校を訪れるたびに（決して大袈裟ではなく）「朝鮮学校には愛があふれている」と感じますが、太田さんからは朝鮮学校に対する愛があふれていました。

大先輩が築いてくださったものを、私たち世代がしっかりと受け継いでいきたい思いました。

 

深水登志子が書きました

 

 

＊ 太田眞由美さんからの応援メッセージ ＊

 

私は、朝鮮学校の子どもたちに出会う度に、一生懸命に頑張ってる姿から感動をいただいてます。 朝鮮学校の子どもたちの笑顔はキラキラしています。 この子どもたちの笑顔を守りたい。この子どもたちの未来は差別のない日本社会にしたい。と、心から願っています。 その為に私はずっと活動を続けていくことを誓います。

 

太田眞由美