インターネット望遠鏡ネットワーク(ITP)「あれこれ」では、これまで2回にわたって望遠鏡のメンテナンス担当者がいない遠方の地域に、望遠鏡を設置するときの苦労話をしてきました。

 

インターネット望遠鏡ネットワークが立ち上がったことで、「いつでも・どこでも・だれでも」天体観測できる環境が整いました。インターネット望遠鏡ネットワークを利用すれば、日中の授業時間に時差を利用して、教室から地球の裏側の夜空の天体を観測することが出来ます。これで、天体観測を取り入れた天文教育を実施し易い環境が整ったことになります。このネットワークの維持・管理は、インターネット望遠鏡プロジェクトの重要な役目であり、これまで10年以上にわたってその課題に取り組んでいます。

 

いつでも・どこでも・だれでも天体観測できる環境を維持する活動に加えて、プロジェクトが取り組んできたもう一つの課題が、インターネット望遠鏡のネットワークを利用した教材用観測テーマの開発です。この活動の第一歩は、月や惑星(木星・土星など)および太陽系外の天体(恒星・星雲・銀河等)の画像を撮ることです。インターネット望遠鏡で撮ったいろいろな天体の画像例は、ITPのホームページ上に設けられている画像ライブラリーに掲載してあります。教室で直接インターネット望遠鏡にアクセスして夜空に輝く天体の画像を撮ったり、夜の地域が雨天の場合にはホームページの画像ライブラリーを参照して授業をすることも出来るでしょう。

 

この課題の次のステップは、インターネット望遠鏡ネットワークの望遠鏡が、単独の望遠鏡ではなくネットワークを構成していることの利点を生かした教材用のテーマを開発し、それを実際の学校現場で実践しその有効性を確かめることです。これまでにプロジェクトが開発したテーマは、書籍「インターネット望遠鏡で観測!現代天文学入門」(慶應義塾大学インターネット望遠鏡プロジェクト編:森北出版)にまとめられています。この書籍には、太陽系の天体や太陽系外の恒星を継続観測し、そのデータを解析することで天文学の基本的な法則を検証したり、天体までの距離や質量を測定するなど、幾つかの興味深い観測テーマとその観測例が含まれています。

 

ここではその一例として、木星と木星の衛星(ガリレオ衛星)を継続観測するテーマを取り上げます。望遠鏡発明の報を聞いたガリレオが、自作の望遠鏡を空に向けていろいろな天体を観測したのが、天体望遠鏡の時代の幕開けとなりました。それは今から400年余り前の1609年のことです。歴史上初めて望遠鏡を用いて天体を観測して得られた成果は、1610年がガリレオ自身によって著された書籍「星界の報告」(日本語訳 岩波文庫)に詳しく報告されています。

 

「星界の報告」には、月面・銀河・星雲に関する観測結果が報告されています。それに加えて、161017日から32日までの約2ヶ月にわたって実施した、木星とその周囲の4個の天体に関する詳細な観測の記録も記載されています。それらのデータを詳しく調べた結果として、4個の天体ははそれまで存在が知られていなかった木星の衛星であることを明らかにしました。このとき発見された木星の4個の衛星は、発見者の名に因んでガリレオ衛星(内側から順に、Io, Europa, Ganymede, Callisto)と呼ばれています

 

下の画像は、2012年の暮れから2013年の年始めの4日間、インターネット望遠鏡を使用して撮った木星とその衛星の画像です。ガリレオがスケッチで記録した木星と衛星の動きを、インターネット望遠鏡ではCCDカメラで撮影した画像として記録することが出来ます。

 

 

 

各画像には、それぞれの画像上に写っているガリレオ衛星と恒星の名前を示していますが、望遠鏡の視野に写っている天体の名前の特定にはインターネット望遠鏡の星図機能を利用しています。

 

この4枚の画像から、日が経つにつれて木星に対する4個の衛星の位置がそれぞれ左右に変化していること、結果としてガリレオ衛星は固有の軌道半径と周期で木星の回りを周回していることがわかります。もう一つ注目すべきことは、前年の1229日には画像になかった恒星が、翌年の14日の画像では木星の左下に現れていること、そして日が経つにつれてその恒星に対する木星の位置が少しずつ変化していることです。このことは、恒星に対して木星が移動していること、その木星の回りを4個の衛星が周回しながら木星と一緒に移動していることを意味しています(ガリレオの記録にも、227日から32日までのスケッチに、木星の近くにある恒星の位置とその変化が記されています)。インターネット望遠鏡を利用した継続観測によって、恒星と木星および木星の衛星の運動の様子を調べ、それが意味することを読み取ることは、天文学の興味深い教材となります。

 

次の図は、木星に対するガリレオ衛星(ここでは、3個の衛星Europa, Ganymede, Callistoに注目した)の位置変化を、インターネット望遠鏡を利用して約1ヶ月間記録したものです。この記録から、各衛星がそれぞれ規則的な運動をしていることが見て取れます。ガリレオもグラフこそ書いていませんが、それぞれの動き方について詳しい考察をしています。このグラフを解析することは、天文学の基本的な法則の理解を深める大変重要な観測テーマとなります。

 

インターネット望遠鏡が完成したとき、私が最初に取り組んだ観測課題は上で述べたガリレオ衛星の継続観測でした。1ヶ月余りの観測で、ガリレオ衛星の運動に関してケプラーの第3法則が確かに成り立つことを確かました。それ以前には、理論的にケプラーの法則を導いたことはありますが、実際に観測でこの課題に取り組んだことはありません。それだけに、天体観測に関してはほとんど経験のない私が、自分の取ったデータで天文学の基本的な法則を検証することができたことは大きな驚きでした。大変貴重な体験でありまた大きな感動でした。それはまた、インターネット望遠鏡ネットワークの有効性を確信させるものでもあります。多くの人々にこの感動を味わってもらいたいという願いが、いろいろな困難を抱えながらもこの10数年間、インターネット望プロジェクトへの取り組みを続けさせているパトスとなっています。

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